第15話 愛梨の目標【愛梨目線】
私は白金愛梨。
小さい頃から日向くんと一緒に剣術を習い、才能の違いに凹んだ事もある。
今は日本中で行われているデータイベントに参加している。
「体が重い⋯⋯レベルが下がってるね。速く日向くんを探さないと」
日向くんってよりも日陰くん? 日陰さん?
ややこしいので日向くんと呼んでおこう。
私しか日向くんの配信者姿を知らないって、少し嬉しい。
「いきなり大物だ!」
「ラッキー! 一斉に殺るぜ!」
何故か日本五天皇って言う恥ずかしい、日本のトップランカー五名にカウントされている私。
世界ランカーでもそこそこ上の方には居るので、目立ってしまう。
モンカドも使用されて、合計敵の数は20を越えた。
「一瞬で連携するって、そんなに私は危険なの?」
虐滅刀は私の専用の武器である。
弱者を守り、悪を斬る為に造らせた私の想いが籠った武器。
それは、自分や仲間よりも敵の数が多ければ多い程、火が上がる。
モンスターカードを使うと、虐滅刀の性能が落ちるから使わない。
逆に相手が使っている場合はさらに火力が上がる。
虐滅刀の性能を知っているのは私の友達だけである。
だからこそ、本来は複数人で挑んではダメな私に挑んで来る。
「私は日向くんを倒さないといけないの。邪魔をしないで!」
私は刀を抜いて、敵一人に対して六連撃を与える。
現実とは違う世界なので、浅く斬っても大ダメージを与える。
それが今の私だ。
スキルにより攻撃数が五倍になり、追加ダメージも与え、純粋な火力が虐滅刀とスキルで数倍に上がっている。
レベルに対して私の出せる火力は一級モンスター並だ。
ランクで言うとHくらい。
だてに《一騎当千》の称号は持ってない。
「行かないと」
私はランキングを気にしてないし、ポイントにも興味が無い。
私が今、気にしていることはただ一つ、『日向くんを倒す』事だ。
日向くんはまだ剣の道に未練がある。なのに、自分に言い聞かせて戻ろうとはしない。
それが辛くてとても悲しい。
だから私が戻さないといけない。
だからこそ、倒さないといけないのだ。
私は昔、いじめられていた。
中一の頃だったろう。
告白して来た男子を断ったら、その人が人気者らしくて色んな人に嫌われた。
身に覚えがない事で難癖をつけられたり、スリッパや教科書を隠さりたり、無視さりたり陰口叩かれたり、誰々が好きだとか勝手に噂された。その中で一人は事実だったけど。
そんな小さないじめから始まり、授業参観などでも仕事を理由に来れなかった両親を目ざとく確認した人が、「親が居ない」と言ってきたりした。
日向くんのご両親が強面で、私の所にも来てくれたお陰でその噂はすぐに消えたけど。
確かに、中学の時、私は両親と顔を合わせたのは数回しかない。
でも、寂しくなかった。
日向くんの両親が本当の娘のように扱ってくれたお陰で。
そのお陰で、両親も自分達の仕事に集中出来ている。
だから私もいじめに耐える事は出来た。
剣術を磨くと同時に己の精神も鍛えているから。
特にアプローチが全く通じない日向くんのお陰でね(怒)。
そんなある日だった、いじめに気づいた告白してきた男の子が皆を諌めた。
それをネタに一緒に行動しようとして来たが、私は日向くんと居られる時間は一緒に居るようにしていた。
そのせいだろう、途中からいじめにその子も加わった。
私は剣術を磨く為に色々とやってて、武術もやってたし、陸上部男子くらいの体力もあった。
だから絶対に反撃はしなかった。
苛烈になり、女子たちに暴力と言ういじめを受けても。
腹や足など、服で見えない箇所を狙っての暴力だ。
私はとにかく耐えた。
日向くんに見られなければ、まだ自分の感情がコントロール出来るから。
⋯⋯それがいけなかったのだ。
自分一人で抱え込んで、耐えていれば良いと甘えていた自分が。
男子は発育が無駄に良い私を『オカズ』とやらにしだした。
雑な編集で裸な誰かの体と私の顔をくっつけた写真が出回った。
男子からはそのような視線や変な噂で攻められ、女子からは隠し物や陰口、暴力をされた。
クラス全体が敵だった。学校全体が敵だった。
問題事は嫌だったのか、教師達は見て見ぬふりを繰り返した。
それでも私は耐えた。
日向くんと喋っているだけで、日向くんと一緒に剣術を学んでいるだけで、日向くんとご両親と食事をするだけで、ストレスは自然に癒された。
日向くんに相談すれば彼は助けてくれる。
変な噂を信じず、聞いたら否定をして、私を心配してくれた。
その度に私は誤魔化した。本心をぶち壊して、愛梨と言う人間を見せていた。
本当に、なんで素直になれなかったのだろうと今でも後悔する。
紅葉が薄れていく寒い時期、それは起こってしまった。
噂は強く広がり、事実とは全く違う結果として私に伝えられた。
『頼めば誰でも股を開く女』
そのような言葉を男子グループから言われた。
下卑た目が怖った。
武術を少しかじっているとは言えど、十人と言う男の子相手に私は怯んだ。⋯⋯反抗していたら勝てていた。
怯えた私に気づく様子のない男子達は私に手を伸ばした。
助けを呼ぼうと声を出そうと頑張った。
でも、恐怖が心臓を掴み、肺を抑えてしまった。
呼吸は異常だったし、声は絞り出しても掠れたような声しか出せなかった。
⋯⋯終わった、そう思った。
「何してんだ?」
そんな時に、日向くんが現れたのだ。現れてしまったのだ。
とても嬉しかった。その反面、今までの努力が無になった絶望感が私を襲った。
男子達が身も蓋もない噂話を自慢げに話した。
日向くんはそれを全く信用していなかった。
ただ、侮蔑の眼差しを男子達に向けるだけだった。
日向くんと私が幼馴染だと言う事は広まっていた。
小中一貫なので、幼馴染もクソもないのだが⋯⋯。
仲が良いってのは広まっていた。家が隣同士なのも。
「愛梨が震えてる。何故かわかるか?」
殺気の籠った眼を男子達に向ける。
素人で殺気を感じ取れるかも分からない男子達が一歩下がる程には怖かった。
日向くんは強かった。才能があった。
剣の実力差は月とスッポン。
男子達は怯みながらも訴えた。
噂が事実だとは関係ないとか、お前も一緒にヤろうとか、色々と。
その度に日向くんが怒っているのが分かった。
嬉しかったけど、怖かった。
今まで隠していた。
心配させないと。
でも、違うんだ。
私はこの光景が見たくなかったから、必死に日向くんに隠し通していたんだ。
「辛かったろ。もう、大丈夫だから」
日向くんにかけられた言葉⋯⋯今でも数分前の事のように思い出せる。
優しくもたくましい声。
そこから日向くんは男子達に「帰れ」と言った。
当然聞き届く事はなかったけど。
討論となり、私はただ見る事しか出来なかった。
激昂した男子達が日向くんに暴力を振るった。私にも手を伸ばした。
近くにあった細くて小さな木の枝を日向くんは手に掴んだ。
あれでも目を貫く事は出来る。
どんだけ小さな枝でも人は殺せる。
そもそも人は素手でも殺せる。
流石に殺しはしなかった。
でも、小さな枝を掴んだ日向くんは何かが切れたかのように暴れて⋯⋯男の子数人を入院に追い込んだ。
丈夫な体をしている日向くんには怪我がなく、悪いのは全部日向くんと言う事になった。
私がいくら訴えても、被害者の数が多かったせいで悪は日向くんになった。
日向くんは言った、もう剣術を伸ばさないと。
人を守る力で人を傷つけてしまうくらいなら、こんな力は要らないと。
日向くんは言った、ずっと傍で見ていたのに、私がいじめられているのに気づけなかったと。
とても不甲斐なく悔しかったと。
日向くんは言った、俺は最低なクズだと。
それ以来日向くんは剣術を習わなかったし、私とも距離をおこうとした。
かっこよかった日向くんは太り、可愛くなった。
日向くんは後悔している。私も後悔している。
早くに頼っていたら、ここまで気負う事はなかった。
もっとやりようはあったと思う。こんな結果にはならなかった。
後悔の連続だ。
もしも誰かに素直に頼っていたら、今の私はどうなっていたのだろうかと、毎日考える。
日向くんに近づきたいために、剣術をより頑張って、才能の差に落胆し、VTuberリイアとして活動を始めた。
もっと見て欲しかったから。
私は日向くんに『後悔』を与えてしまい、剣を捨てさせた。
その罪を今、ここではらさないといけない。
だから、私は日向くんを倒さないといけない。
『虐滅刀』その名前に私が込めた想い。
──
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます