第14話 効率を考えたら仲間は要らない

 イベントが開始してから二時間は経過しただろうか、今は建物に籠って休んでいる。

 このイベントは良い勉強になる。

 アバターを自分に合わせて使い、各々の戦い方があるから。


 「体力とかもちゃんと設定されてるのに、なんでパラメータは無いんだよ」


 現在の俺のポイントは102である。

 時々乗り物を使っている人を発見するのだが、あれも登録していたのだろうか?

 ショップに乗り物ってあったけ?


 なんか上級者っぽいのでそのような人には近づいてはいない。

 このままだと、上位ランクには入れんな。

 沢山のポイントを持っていそうな人を狙う⋯⋯か。


 「お嬢ちゃん、運が悪かったと諦めるんだな」


 そのような声が聞こえたので、俺は物陰から覗く。

 そこには、女子一人を囲んだ十人グループが居た。


 「な、なんで僕を襲うんですか? 僕も仲間に入れてください!」


 「断る。俺達はクランメンバーだから揃っているんだ。俺達のポイントになりな」


 「俺達」って、倒した人にポイントが入るのに意味が無いだろう。

 絶対に仲間割れ⋯⋯いや、そうでも無いのか。

 クランならクラマスにポイントを全部捧げれば良いんだ。

 そしたら上位ランクには入れる可能性が上がる。


 俺や愛梨はクランに入ってないからこの考えは至らなかった。

 誰か一人にポイントを集中させて、上位ランクに入り報酬を得る。

 そうなると、一人勝ちに見えながらクラン全体の勝利とも言える。


 俺的には戦う必要は無い。見守り、集団が弱った所を漁夫の利する。

 確実にポイントを得るならこの方法が正しい。


 一人で囲まれたら終わり、そんなのは分かりきった事だ。

 それを助けるような善人は⋯⋯この場には居ない。

 俺も昔とは違う。何も考えずに飛び出して、倒すような事はしない。


 「それじゃ、さようならだ」


 「いや、止めて!」


 ちくしょう。

 なんで、今更過去の記憶が蘇るんだ。なんで、過去の事と重ねるんだ。


 俺は考えていた。だと言うのに体が動いてしまった。

 過去の情景と重なってしまい、彼女を助けようと行動してしまう。

 頭では理解している事なのに、体が、心がそれを許さなかった。


 俺に正義感もクソも無い。

 だけど、どうしても動いてしまったのだ。


 そもそも、十人相手に俺が何出来るんだよ。

 全員倒すか? 無理に決まっているだろ。

 人数差がある。技術だって、相手が無い訳じゃないだろう。

 何よりも、モンスターカードを所持している。


 その場合の数は二倍となるし、戦力的には二倍じゃ収まらない。

 俺がモンカドを使えば、簡単に倒せる。だけど、今はまだその時じゃない。

 『アイツ』は簡単には出してはダメだ。


 「なんでだよ」


 自分自身に向けて放った言葉と共に、女の子に突き出されていた槍を弾いた。

 このまま距離を離されたらたまったもんじゃない。

 俺は踏み込み、相手に肉薄する。


 「悪いが、不意打ちさせて貰った」


 相手の槍を掴んで自分側に引っ張る。手を離せなかった相手が自らも近寄る。

 相手の首に向かって俺は、刀を突き出して刺した。

 HPなどが存在しないこの世界は、人間を確実に殺せる行為をすれば即死させられる。


 槍を持っていたお陰か、槍を獲得して敵は九人になった。

 それでも人数差がある。⋯⋯でも、やるしかない。


 「なんで助けちゃうのかな?」


 「何奴! ⋯⋯お前は、配信者の日陰だな!」


 「知っててくれて嬉しいね。ありがとう」


 日陰を知っているなら、キャラ設定はしっかりしておこう。


 「日陰、我々のクランに招待しよう」


 「はい?」


 「君の強さは理解している。どうかな?」


 一人のイケメンアバターの人が寄ってくる。

 あーいや、この場の全員がイケメンだったり美人だったりするわ。ゲームのアバターだし、仕方ないか。

 太っている人も居たけど、その人は体重を活かした戦いをする人だったしな⋯⋯。


 「⋯⋯モンスターカードが欲しいんですか? もちろんお断りです」


 「ふふ。そうか」


 「ふふ、そうです」


 イケボ攻めか男に効くかボケ!

 相手は剣、俺は刀。リーチはこっちの方が長い。

 そして、男は会話しながら自身の間合いに俺を入れた。


 笑顔の俺と男。

 互いに間合い。

 スカウトを断った。


 なら答えは一つだ。

 互いに武器を振るう。相手は鞘に収まっていたが、俺は持っている状態。

 一撃の重みは相手の方が上だと思った。

 だから、俺は両手で刀を握り、狙いを剣に絞って弾く。


 「くっ」


 相手は片手だったから、弾けると思ったがそう甘くは無いようだ。

 互いに後ろに下がり、周囲の人間が全員俺の元に来る。

 鞘に刀を収める。


 「ふぅ」


 集中力を高める。

 一度使ったら集中力が回復するまで使えない技術。

 その設定が正にゲームのスキルのような感じだが、仕方ない。

 数分に一度しか使えないモノは使えないのだ。


 さっきの男から『道』が伸びて見えた。

 この道を斬るように刀を動かせば、相手を殺せる。

 居合で俺は突き進む。周りの世界がゆっくりに感じる。


 「はっ!」


 「なっ!」


 相手の首を狙った居合斬りを防ぐ事が出来ずに相手の首が吹き飛ぶ。


 「一人で来たのが良くなかったな」

 

 すぐさま体を翻し、迫り来る攻撃群を防ぐ。

 バックステップで距離を離す。


 「ち、想定以上の実力だな。皆、予定変更だ」


 モンカドを取り出そうとしているのだろう。

 悪いが、それは許容出来ない。


 「今正に使う時だろ」


 俺はインベントリから取り出すとタイムラグが発生すると思い、懐にしまっていたトラップカードを取り出した。


 「トラップカード発動、『確実に滑らせるバナナの皮』!」


 トラップカードを一番近くの敵に投げつけると、相手が滑って転ける。

 これは三秒間維持される。そして、今の俺なら三秒もあれば余裕で相手に肉薄出来る。

 使い方と効果時間しか見れなかった。具体的な効果は不明だ。


 『滑る』


 この単語がどれだけ重要なのかを教えてやるよ。


 「ほら、人間サッカーだ!」


 俺は転んだ相手の体を蹴って、地面で回転させる。

 そいつの体が他の人達の足を文字通り引っ張り、転ばされる。

 地面に転がった相手を殺す事は非常に簡単であり、ただ頭に刀を突き刺せば良い。

 実力者はさっきの槍使いだったのか、あっさりと数人転けてくれた。


 お陰で、起き上がるタイミングで横薙ぎすれば簡単に倒せた。

 流石に一撃では倒せなかったけどね。臨戦態勢に入る前には倒せた。


 「残り二人、どうする? 今ならまだ、イベントを楽しめるけど?」


 刀を向けながら脅す。

 くっくっく、これが放送されて、日陰の評価が下がろうとも俺本人にはなんの関係もない。

 脅しも不意打ちも、勝つためならなんだってやってやろう。

 それで話題になるなら、配信者として本望だ。

 どうせ、悪く言われるのは俺日向ではなくコイツ日陰なのだからな!


 「く、ど、どうする?」

 「あんなにあっさり負けたんだよ? 無理だって」

 「流石に俺達のパーティ弱かったな」


 呑気に相談始めたよ。

 あれだな、リーダーの指示に従って動いていたタイプだ。

 リーダーっぽい人を先に倒せたから、簡単に壊滅出来たんだ。

 副リーダーは一人で間合いに入ったしな。


 「優秀なリーダーだったんだな。お陰で、想定以上にあっさり制圧出来た」


 俺は亡骸の槍を見ながらそう呟いた。

 槍なんて専門外なので、捨てておく。

 えーと、段々と相談から会話になり始めてる。リア友か? リア充か?

 まぁでも、面倒だし、少し強めるか。


 「で、どうする?」


 地面に刀をぶつけて衝撃を生み出し、再び脅す。

 素人かもしれない人に通じるか分からないけど、殺気も飛ばす。


 「す、すみません」

 「流石に顔向け出来んので、離れますわ」


 二人は去っていく。

 隙だらけの背中⋯⋯倒せるか?


 「いや、止めるか」


 一人は本当に素人だった。だけど、男の方は違った。

 アイツは俺を警戒しながら進んでいるので、あのまま進んだら俺が殺られる。

 そう思うくらいには俺の本能が動きを止めて来た。


 「離れるか」


 「あ、あの! ひ、日陰さん!」


 囲まれていた女の子。

 すっかり忘れてた。

 ひたすらに後悔しながら、どうやって切り抜けるか、それしか考えてなかった。


 「なんでしょうか?」


 キャラキャラ。

 クールの剣士。


 「あの、一緒に行動しませんか? その、流石にソロだと厳しいと思いますし?」


 「絶対にお断りします」



【あとがき】

ご報告です、今後は毎日一話投稿にしたいと思います。土日は二話投稿するように頑張ります。何卒、よろしくお願いします

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