第2話 無料なのに1億は確定な件

 嘘だと思いたい。

 何故、俺だけこんなスキルと言う名の呪いを受けないといけないのだろうか。

 しかも、太っているのと全盛期の体が合わさってナイスボディの女性になってしまった。

 スマホでアバター詳細を確認したら、めっちゃ美人だし。


 「ないわー。こんなんエロゲヒロインじゃん。百合主人公じゃん」


 どうしよう。

 神への感謝が怒りに変わりそうだ。


 「あれ? もしかして君も新人⋯⋯」


 「嫌だあああ! こんな俺を見るなあああ!」


 俺と同じ、初めてダンジョンに潜っているだろう男の子から全力で逃げた。

 声が女性なの気持ち悪い!


 「はぁ。データでも体力あるのか」


 ぷよんぷよん、そう跳ねるスライムが無性にムカついたので、蹴飛ばした。

 そしたら消えた。


 「弱っ!」


 スマホを確認した。


 【ログ】

 十円獲得、スライムゼリー獲得

 ガチャポイント1獲得


 「ガチャポイント? あ」


 そう言えば俺、他にもスキルあったわ。

 なんか物騒なスキルは無視して、気になる《モンスターカードガチャ》を調べる。


 《モンスターカードガチャ》

 ポイントを消費してガチャが引ける。モンスターカードが排出される。

 ポイントはエネミー(敵モンスター)を倒すと手に入る。

 レベルにより確率が上がる。

 単発100ポイント、連発(十連)1000ポイント(確定保証付き)で引ける。

 課金可能。

 現在ポイント1ポイント。

 初回限定無料連発(引き直し可能)が出来ます。


 「神運営かよ」


 モンスターカード、それは味方のモンスターを召喚出来るカード。

 超レアなのでめっちゃ金になる。

 異世界データのアプリだと少額だが、ギルドで売れば本当に高値で売れる。


 「最高のスキルゲットじゃね? つーかこんなスキルあるならモンスターカードなんてレアじゃないだろ。引きます!」


 声がキモイ! いや、俺好みの綺麗な声だけど、俺から出ているからキモイのだ。


 『初ガチャ』


 「無料十連引き直し可能。リセマラ可能とか最高だろ! 詳細確認出来る」


 ふむふむ。

 R、SR、SSRおまぁシンプル。

 十〜五級がR、四〜二級がSR、一級がSSRらしい。


 「確定保証はSR。振り幅が大きい」


 階級が高い程高値で売れる。

 十から八はあまり高くないと聞くので、七以上が良い。


 「狙いはSSR⋯⋯アバターは絶対に壊したくないし、回復使えるモンスターが良いな」


 アバターの復活には千万円消費するのだ。

 だから死ぬような事はしたくない。


 「一級は自分で使おうかな」


 さーて、引くか。

 最低保証あるし、案外すぐに出るだろう。


 それから数分後、俺は絶望してた。

 確定演出、昇格演出を見て最初は楽しかったが、段々と作業となり、狙いが出るまで機械のようにスマホをタップしていた。


 「一点狙いは身を滅ぼすとは良く言ったモノだな」


 時々迫り来るスライムでストレス発散しながらガチャを引き直し、初期の装備であるボロい服を眺めて笑ったりして、ガチャを引き直す。


 「金は欲しい。推しに貢ぎたい。もっと貢献したい。リイアたんのグッズをもっと増やしたい! そろそろ来てくれ!」


 精神が壊れそうだ。


 「⋯⋯お、き、来たか!」


 俺が狙っていたのは回復と戦闘の両立が可能なモンスターである。

 目的の名前が来たので、長押しで詳細確認。


 バトルヒーラー:カムイ(一級)

 スキル:〈武術.5〉〈物理攻撃耐性.5〉

 魔法:〈ヒーリング.5〉〈オールヒール.5〉〈オーラヒール.5〉〈パーフェクトヒール.5〉


 「レベルとかそこら辺はないんだな」


 つーか、パラメータの詳細用意しろよ!

 レベルだけあっても良さが分からないのよ!

 データ世界は言わば神が作ったゲーム世界だろ? ちゃんとステータス作れよ!

 魔法とか言われても魔力とか分かんねぇよ。MP用意しろよ!


 「絶対めんどくさくなったやつだろ。えーと、Rが七枚、SRが二枚、SSRが一枚。そこそこ当たりだな」


 これで確定してモンスターカードを十枚手に入れる。

 スマホを操作してカードを具現化する。


 長方形の神官のイラストが入ったカードがスマホからポンっと出て来る。


 「これがモンスターカード。モンスターってよりも人だな」


 俺はカードを上に向ける。


 「召喚サモン!」


 カードが光、モンスターが出て来る。

 顔は蜂、体は蜘蛛で足が背中から生えている。二足歩行で、地面に着けている足はなにかの虫。


 これはあれだ。間違いなくモンスターだ。

 しかも胸がある。


 『ご主人様ご命令を』


 「あーじゃあ、百ポイントまで集めたいから、エネミーを適当に倒して来て」


 『御意』


 ⋯⋯速いな。

 一瞬で目の前から消えてしまった。俺は壁にもたれて待つ事にした。


 「これでお金が稼げる⋯⋯もっとリイアたんの為に何か出来ないだろうか。プレゼントを送ってみたいけど、彼女は個人だからなぁ」


 まぁ、アプリ経由でプレゼントのデータが送れるので、別に問題ないのだが。

 デブ男にいきなり送られてもキモイだけだろう。


 「そう言えば今の俺って女、なんだよな」


 色々触ってるけど、本当に感覚はリアル⋯⋯って言うか現実的だ。

 今の俺はネカマですらなく、本当に現実世界と性別が変わっているのだ。


 「配信、そうだよ配信だよ! 俺も配信者になって有名になったら、自然な形でプレゼント出来るかもしれない! 彼女のファンとして、俺もダンジョン配信者になろう!」


 あ、言葉遣いは何とかしないとな。

 少しだけ練習しておこう。


 練習しながらログを見ていると、凄い勢いで数十円の金とドロップアイテムが入る。

 ドロップアイテムは外で売っても対して金にならないので、アプリ内で換金した。


 「ん? なんか体が光って⋯⋯もしかしてダンジョン攻略か!」


 誰かがダンジョンを攻略したから、弾き出されようとしているのだ。

 ログを確認すると、あのモンスター⋯⋯じゃなくてカムイちゃんがボスエネミーを倒したらしい。

 流石は一級、Zランクじゃ相手にならないか。


 「おぉ、現実に戻って来た」


 体が重い。


 俺はギルドに向かった。

 ここは神の許可により、『データ世界』に入る権利システムを購入しなくても、武器の練習や試し振りなどが出来る。

 他にも具現化したアイテムを売れるのだが、その売れる物にもきちんと決まっている。

 ヒールポーションなどだ。素材は基本売れない。


 「モンスターカードは売れる⋯⋯売るのは三級のカードで良いか」


 SRのカード、一体何万で売れるのだろうか。


 ギルドはガラガラで人があまりいなかった。

 受付に向かう。

 美人なお姉さんの所に行ったのはわざとではなく、体がそちらに引き寄せられたからだ。

 そう、その証拠に相手の目が一瞬引き攣り、嫌そうな心を全力で隠そうとしている。

 俺の精神力は高いので、それでは傷つかない。帰ったら推しの声を聞くのだ。


 「あの、これを売りたくて」


 俺はアプリからカードのデータを具現化して取り出した。

 尚、カードは具現化しても現実世界では使えない。


 「これですね⋯⋯え、ええええ! さ、三級モンスターカード!」


 そ、そんなに叫ばないでびっくりする!


 「三級カード⋯⋯一体どこで手に入れたんですか! この辺に高ランクのダンジョンは無かったと思うんですが⋯⋯」


 「あーと、ガチャで?」


 「はい? ガチャ? そんなバカな話を聞きたいんじゃありません!」


 えー本当にガチャなのに。

 自分のステータスを見せたら万事解決なのだが、配信者を目指したいので、あまり【データ転性】は知られたくない。

 こんなデブスの俺が美女だぜ? アカンだろ。声でしか判断出来ないから、美女と思う人は少ないだろうけど。


 適当言っておこうか。


 「その、ボスエネミーを倒したら運良くドロップしまして」


 「どのランクですか!」


 「えっと、それよりもそれ、いくらで売れますか!」


 「そうですね。三級は最低でも一億はするんですが⋯⋯」


 「ちょっと待ってください。⋯⋯もう一度聞いても?」


 「そうですね?」


 「その一個後」


 「三級は最低一億はします」


 「なんでそんなに!」


 「⋯⋯?」


 あ、これは俺がおかしい反応だ。

 嘘だろ?

 無料(引き直し可能)ガチャで出たカードが一億って。

 頑張ってドロップした人の激おこ案件じゃんか。


 これなら一級にこだわらずに、レアリティの数でこだわれば良かった!

 半分以上がSRの時もあったのに!

 ちくしょう! 調べれば良かった!


 「どのくらい、レアなのでしょうか」


 「そうですね。十から八級はかなり出て、性能もそこまで高くないんですが、七級からは使えるモンスターになり、確率も当然下がります。そして、四級以上は本当に高ランクダンジョンで稀に手に入るんですよ! しかも性能も当然高い! 一級では三十億とか行きますからね。夢が広がります」


 た、確かに。

 俺、三十億を平然と使っていたのか。


 「まぁ、階級の中でも強さの振れ幅はありますけどね。えっと、これを売ってもよろしいんですか? 三級ですよ?」


 「えっと、お願いします」


 多分、それこれから大量に手に入ります。


 「それでは具体的に調べて査定します。オークションをおすすめしますよ」


 「あ、今すぐにお金が欲しいのでこちらで売ってください」


 「え、でも、これは本当に貴重で⋯⋯」


 「今すぐ金が欲しいのでお願いします」


 「は、はぁ。分かりました(頭おかしいなこのデブ)」


 色々な権利システムの購入、武器防具の購入、それらも含めて金が今すぐに必要だ。

 それにしても三級が一億で一級が三十億って、凄く違うな。

 まぁ、夢を見てやる人もいるんだろうな。

 アバターだから高齢者でもダンジョン攻略とか出来ちゃうし。


 最低一億。


 「ふへへ」


 俺が笑うと、他の受付達がゴミを見るような目を向けて来た。

 俺は椅子に座って査定が終わるのを待つことにした。

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