第14話 阿久津社長 【最後】
〜〜
私は阿久津社長に呼ばれてダンジョンモンスター研究管理株式会社にやってきた。
なんでも、顎田主任が死亡したことの事情聴取があるらしい。
で、呼ばれたのがモンスター研究課。
私が所属したかった部署だ。
「うわぁ。色んなモンスターがいるなぁ〜〜」
ダンジョンドッグにダンジョンモンキー。スライムにドクロ剣士。
多種多様なモンスターが透明の特殊ガラスで囲まれた檻に入れられている。
檻の中にはダンジョン窒素が充満しているので地上でも生きられる仕様です。
「あ、ゴブリンもいる!! うはーー! 不気味ぃ。でもカッコいい!!」
こんなに近くで見たのは初めてだぁ。うはぁ、感激ぃい。
それにしても変だな?
こんな部署で警察の事情聴取をするなんて?
それに研究課の社員が誰一人いないんだよね??
「これはこれはよく来てくれたざんす」
阿久津社長はガラスで囲まれた操作室から私を見下ろしていた。
この人は顎田主任とともに私に嫌がらせをした人だからな。
特に話したいとは思わないから、用事を済ませて早く帰ろう。
「警察はどこですか?」
「ああ。すみません。警察の話は嘘でした」
はい!?
「どうして私をこんな所に呼んだんですか?」
「あーたの飼ってるペットが必要なんざんす」
なるほど。目的はユラちゃんか。
でも、そんな嘘をついてまで人を呼ば出すなんて最低だよね。
こうなったら私だって手段は選ばないぞ。隠し撮りしてやる。スマホのカメラをオンにしてこっそり配信しておこう。
「主任に聞かなかったのですか? ユラちゃんは貸しませんからね!」
「ホホホ! 借りるなんて、そんなことは考えていませんよ」
「だったら諦めてください。私は帰りますから」
「おっと。そうは行きません」
出口扉の前にパイプシャッターが降ります。
ガシャーーーーーン!!
え!? え!?
「どゆこと!?」
「ギャハハハ!! あーたは帰ることはできないんざんすよぉおお〜〜」
「はい?」
「ククク。まだわかりませんか? 新種のダンジョンクラゲは借りるんじゃないんざんす。私がねぇ……。貰うってことだよぉぉおお!!」
「えええええええええ!?」
突然、ダンジョンモンスターを収容していたガラス檻の扉が開く。
ウィイイイイイイイン!!
ダンジョン窒素が霧のように漏れ始める。
「え? な、なんで扉が!?」
「あははは! ウチの新人社員にね。岩山というバカな男がいるんざんす。そいつのプログラムミスでモンスターが逃げちゃったんざんす」
岩山なんて人は知らないけど、これはおそらく社長の故意。人のせいにして自分でやっているんだ。
檻からモンスターが出るってことは……。
『ガルルゥ……』
『キィキィ……』
『ウゥウウウウ……』
わ、私のことを餌だと思ってる……。
ダンジョンモンスターに私を襲わせる気だ。
これはもしかして大ピンチでは?
1匹のダンジョンドッグが私に向かって飛びかかる。
『ガルゥウウッ!!』
ひぃいいいいい!!
こんなのに噛まれたら終わりだ!!
『キャイン!!』
ボトン……!
ダンジョンドッグは地面に伏せる。
ピクピクと痙攣しながら。
え?
眼前にはユラちゃんが勇ましく立っていた。
『ユラ!』
痺れ触手だ!
「ありがとうユラちゃん!」
『ユラ!』
ダンジョンモンスターは次々に向かってくる。
しかし、その全てを痺れ触手によって動けなくしてしまった。
『ユラァ!』
「ふほぉ! ユラちゃん無双!!」
スマホでもユラちゃんの勇姿はバッチリ撮影できてます!!
さぁ、悪党の最後ですよ!!
「これは明らかに殺人未遂ですよ! 阿久津社長!!」
「ほほほ! 死人に口無しざんす!! ダンジョンクラゲの痺れ触手なんてこのモンスターには効かないざんす!!」
ズシィーーーーン!!
ズシィーーーーン!!
それは巨大な足音だった。
振り向くと10メートルを超える巨体。
真っ黒い肌の大男。
ダークオーガだ!
こいつは中層に住むダンジョンモンスター。
上層に住む奴より圧倒的にレベルが高い。
『ユラ!』
ユラちゃんの痺れ触手攻撃。
しかし、ダークオーガには効かなかった。
た、倒れない!
「ギャハハハ! 無駄無駄、無駄ざんす! ダンジョンクラゲは上層モンスター。中層モンスターのダークオーガに勝てるわけがないざんす!!」
ふふふ。
果たしてそうかな?
「ユラちゃん! 例のヤツやって!!」
『ユラ?』
ふふふ。ユラちゃんにはモンスターを操る特殊スキルがあるのよね。
以前、ゴキブリを操って外に出しちゃったんだから。
「さぁ、ユラちゃん」
『……ユラ?』
「え? あ、いやユラちゃん?』
『ユラ?』
「目ぇ光るヤツだよぉお! 今、私ピンチだからぁあ!!」
『ユラ?』
えええええええ!?
なんか伝わってないぃい!!
ダークオーガは拳を振り上げる。
うわぁあ急げぇ!!
「ユラちゃん。目ぇ。光る。ピカーー。アーユーOK?』
『ユラ!』
ああ、ジェスチャーで伝わったぁ!
ユラちゃんの目は激しく発光した。
『ユラユラユラーーーーーー!!』
ピカーーーーーー!!
うぉーー、眩しい!!
ダークオーガは彷彿とする。
フラフラと自分の檻に帰って行った。
「あは! 大成功!! 偉いユラちゃん!!」
『ユラ!』
「阿久津社長! 残念でしたね!! ユラちゃんは強いのです!!」
「グヌゥウウウ!! まだ終わってないざんす!!」
そう言ってマイク付きのコントローラーを取り出した。
「ダークオーガの脳内には電極棒が埋め込まれているざんす。それを使えば私がコントロールできるざんす!!」
コントローラーのスイッチを押すと、ダークオーガは奇声を発した。
『グルァアアアアアアアッ!!』
「ギャハハハ! ダークオーガ!! 破壊ブレスを撃つざんす!! 狙いはその女だけざんす!!」
えええええええええ!?
「幾人もの上級探索者を地獄に送った破壊ブレスざんす!! ただの小娘に避けれる技じゃないざんすよ!! 終わりざんすねぇええ!! ギャハハハハ!!」
ダークオーガの口の中が光る。
強烈なエネルギー弾だ!
『ガァアッ!!』
ドゴォオオオオオオオッ!!
破壊ブレスは私に向かって発射された。
「ええええええええええ!?」
ああ、これ完全に終わるヤツだ。
ダモ子終了のお知らせ。
即死決定だな。
ああ、ユラちゃんと過ごせた配信生活は楽しかったな。
短い間だったけどさ。本当に最高に幸せな時間だったよ。
「ありがとね……。ユラちゃん」
泣く時間もなさそうだな。
そんな時である。
ユラちゃんの全身は稲妻を纏っていた。
はい?
ビリビリビリビリビリ!!
ユ、ユラちゃん?
『ユラユラユラ〜〜!』
青いオーラに包まれる。
『ユラーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!』
ユラちゃんの口から発射されたのは、強力なエネルギー弾だった。
破壊ブレスを消滅させて弾ける。
ドガァアアアアアアアアアアアアアアアアンッ!!
は、はいいい??
見えるのは上半身が吹き飛んだダークオーガの下半身。その後ろの壁は大きな穴が空いて抉られた道が続いていた。
「え? ユ、ユラちゃん?」
『ユラ!』
「ユラちゃんすごっ!!」
いつの間にそんな強力なスキルを習得していたんだ!?
よくわからないけど、とにかく助かった。
「ありがとうユラちゃん!!」
『ユラァ!』
ふふふ。
これで本当に最後だな。
私はしっかりとスマホのカメラで撮影しながら、
「阿久津社長! あなたの野望は潰えた!」
「そ、そんな……。ダークオーガが倒されるなんて……。し、信じられないざんす」
「もう観念しなさい。今から警察を呼ぶので……って」
阿久津社長の後ろにはダンジョンモンスターがワラワラと立つ。
どうやら、空気口から移動したようだ。
「社長! 後ろぉおおお!!」
「は? なんざんすか? うぎゃぁああああああ!!」
社長の体はダンジョンモンスターに埋もれた。
「うぎゃぁあああ!! 痛いぃいい!! 助けでぐでぇええええ!!」
操作室のガラスに血と肉片が付着する。
「うぎゃぁああああああああああああああああッ!!」
ああ……どうしようもない。
助けに行ってあげたいけど、出口の扉がパイプシャッターで閉められてるからな。動けないよね。
警察が臨場した時には、社長の体は人と判別がつかないほど無惨な物になっていた。
全ての証拠は私のスマホ映像である。
まさか、自分が離したダンジョンモンスターに食い殺されるとは思わなかっただろう。私を部下の責任にして殺そうとしたわけだからな。同情の余地はない。
配信動画は残酷すぎるのですぐに消した。
こんなのは垢BANの対象だろう。
しかし、数分だけアップされた動画は瞬く間に拡散されてしまうのだった。
ハッシュタグはダンジョンモンスター研究管理株式会社。
この話題がヅイッターのトレンド入りしたのは言うまでもない。
殺人未遂の社長。自ら墓穴を掘る。
ヤブーのトップニュースにもなったほどだ。
また、その陰に隠れて話題になっていたのが、ユラちゃんの発射した巨大なエネルギー弾である。
あれ以来、使ってくれないけど、普通のダンジョンクラゲのスキルじゃないしね。本当に謎が多い新種だよ。
────
さぁ、次回最終回です。
短い間でしたがありがとうございました!
あの美人課長が出てきますよ! 岩山もw
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます