第13話 博梛と阿久津社長 


〜〜 博梛はかな視点〜〜


 テレビを見ていると信じられないニュースが飛び込む。


『警察の調べでは、男の遺体はダンジョンモンスター研究管理株式会社の社員、顎田 鉄雄 39歳と判明』


 えええ……!?

 なんで主任はダンジョンに1人で入ったんだ?


『配信中にダンジョンドッグに襲われた映像が残っており、その映像を見ていた視聴者から通報されたということです』


 ダンジョン配信をしていたのか……。でも、1人でダンジョンに入るなんて無謀だよね。

 主任は探索の訓練を受けてない一般人なんだからさ。


『天才王子、と名乗って配信をしていたということです』


 また、コメントに困る名前でやっていたんだなぁ……。


 と、そんな時である。

 部屋の隅で何かが動く。


カササササササ!!


「ひぃいいい!! 出たーー!!」


 ゴキブリだ!!


 私がブルブルと震えていると、ユラちゃんがやってきた。

 凛々しくゴキブリの前に立つ。痺れ触手で狙い打ちをするも素早いゴキに避けられていた。


『ユラ! ユラ! ユララ!』


ピシッ! パシッ! ポシッ!


「ユラちゃんダメ! 危ないよ!! 飛んでくるかもしれないよ!! 飛んできたらキモいんだからぁあ!!」


 うう、殺虫スプレーを取りに行かねばぁ!


 しかし、体が震えてゆっくりしか動けません。


「うう……。ダ、ダンジョンモンスターより凶悪だよ」


 すると、ユラちゃんは両目をピカーーっと光らせた。


『ユラユラーー!』


 えええ!?

 どういう状態!?


「ユラちゃん何してんの!?」


 不思議なことにゴキブリはブルブルと震えているようだった。


 なんで?


 そして、フラフラと歩き始める。


「わわわ、ゴキが動いたよ! ひぃいいキモイ!!」


 しかし、向かうは窓の方向。

 ユラちゃんは触手を使って窓を開けた。

 ゴキブリは外に向かって飛んで行った。


「えええええ!? 何が起こったの!?」


『ユラ!』


 まるでユラちゃんはゴキブリを外に追いやったように見えたよ……。

 あ、操ったのかな??

 もう、目は光ってないけど、


「ユラちゃんは催眠術でもかけられるの?」


『ユラ?』


 うーーん。未知だな。

 通常のダンジョンクラゲにはない特技だよね。

 普通だったらさっき使ってた痺れる触手なんだけどな。

 新種が使う特別なスキルか……。

 新しいスキルなら配信でみんなに見せたいよね。

 よぉし、配信スタートだ。


「みなさん、今日はユラちゃんの特技を発表します! さぁ、ユラちゃん! さっきのやって!」


 ピカーーって目が光やつ!


ピトォオオ〜〜。


『ラララァ♡』


「……いやいや。抱きつくんじゃなくてさっきのやつをやって欲しいんだけどさ?」


『ユラ?』


 うーーん。

 もしかして私がピンチだったから助けてくれたとか?


『可愛い』

『今日も癒された』

『主さん大好きすぎるんだな』

『ダモ子ちゃん愛されすぎw』

『この配信を見るのが日課です』


 ああ、なんかいつもと変わらない配信になってしまった。


「ユラちゃん。さっきの。目ぇ。ピカーー。アーユーOK?」


『ユラ?』


 あはは。なんかダメだ。

 きっとピンチの時にだけ発動するスキルなんだろう。

 危険なんてそうそうにあるわけないしな。今日は諦めよう。


 おかげさまでチャンネル登録者数はドンドン伸びている。

 ただいま、88万人。もうすぐ100万の大台に到達しそう。

 ヅイッターのフォロワーは30万人を突破しました。

 投げ銭は1日に10万円を超える日があって、もう最高です。

 配信の内容なんて、ユラちゃんと楽しく遊んでいるだけの動画内容。

 それも1時間以内のやつばかり。社畜だった以前の生活が嘘のよう。働くってなんなのでしょうか?

 

 そろそろ引っ越しをしようかな? 

 いい加減、エレベーターのないマンションは疲れちゃうしね。


「はい。それでは今日の配信はここまで。みなさん良い1日を。ユラちゃん、さようなら、やって」


『ユラーーララ!』


「あはは。聞こえました? ユラちゃんの、さようなら、です。ではまた〜〜」



 


〜〜阿久津社長視点〜〜

 

 ちっ! 顎田が死ぬなんて予想外だったざんす。

 朝から警察の事情聴取でヘトヘトざんすよ。


 と、そんな私の元へ西園寺課長がやってきた。


「社長。 治織じおり退職の件でお話が」


「ああ、後にするざんす」


 そんな辞めた奴のことなんかどうでもいいざんす。

 それより、そいつの飼ってる新種が欲しいざんすよ。


「いえ。そうもいきません。この映像を見てください」


 それは社内に設置されている防犯映像の記録だった。


『あーたみたいな無能を雇ってくれる会社がどこにあるんざんすか? 辞めるなら勝手に辞めてもらっても結構ざんすけどね。フフフ』

『ギャハハ!  治織じおり、完全に終わったな! おい、土下座して謝んねぇと本当に終わるぞ?』



『こ、これは会社の大損害ざんす! 自己都合でいきなり辞めるなんて大損害ざんす! 損害の分は退職金で賄うざんすからして、あーたには一切のお金が残らないざんす!! 加えて今月分の給料も損害賠償金として会社がいただくざんす!』

『ギャハハーー!  治織じおり終わったなーー。もう完全に終了♪ 今さら土下座しても遅いぞ。ギャハハーー!』


 こ、この映像は、 治織じおりが辞めた日のことざんす。

 ど、どうしてこんなものを?


「社長。どういうつもりですか? 社員の尊厳を貶し、かつ退職金の没収、給料カット、土下座の強要。これらは明らかにパワハラです。侮辱罪まで成立するでしょう。しかも、 治織じおりの勤務状況を確認するとサービス残業のオンパレードではありませんか。こんなことが発覚すれば会社は終わりますよ?」


「そ、そんなことをあーたに言われる筋合いはないざんす! この会社で1番偉いのは私なんざんすから!!」


「……この資料は来週の取締役会に提出させていただきます。上の方の判断を仰ぐこととしましょうか」


「そ、そんなバカなことはやめるざんす!!」


「バカなことをしていたのはあなたです。社員の苦しみがわからないのですか?」


「お黙りなさい!! 一介の課長に経営のことがわかるはずがないざんす!」


「少なくともあなたよりはわかりますよ。経営学を学ぶ為に海外に出張していたのですからね」


「ふん! 私に楯突いて後悔しますよ? なんなら手を組みませんか? 悪いようにはしませんよ」


「悪党と手を結ぶほど落ちぶれていません。役員の采配に期待しますよ。あなたは荷物を纏めておいた方がいい。では」


 んぐぅうう!!

 クソアマがぁあああああ!!

 

 これはなんとしても、新種を手にいれるしかないざんす。

 それしか私が生き残る方法はない。

 なんとしても!

 どんな卑怯な手を使っても!!


 私はSE課に向かった。

 あの女にバレないように、


「岩山くん。ちょっといいざんすか?」


「はい。なんでしょうか社長」


「仕事は順調ざんすか?」


「ははは。これが中々難しくて、まだブラインドタッチが習得できていないのです」


「うんうん。そうですか。まぁ、ゆっくりやればいいざんすよ」


 ククク。

 脳筋の無能が。

 コイツを利用してやるざんす。


「しかし、それではあーたの実績にはなりませんからね。この書類にサインをしてくださいざんす」


「それは?」


「あーたがプログラムをした仕事ですよ。つまりあーたの実績」


「いいのですか? 自分はやっていませんが?」


「構いません。これで今季のボーナスはしっかり貰えるでしょう」


「うは! あざっす! では、サインをさせていただきます」


 ククク。

 何もわからんバカを騙すのは簡単だ。

 このプログラムはダンジョンモンスターの檻の開閉を操作するシステムざんす。

 これで自由に私が開けることができるざんす。ククク。開けた記録は全て岩山の責任ざんす。


 あとは主役を呼ばなければね。ククク。


 私は電話をかけた。


「もしもし。 治織じおりさんざんすか? お久しぶりですね」


「なんのご用でしょうか?」


「顎田主任の死亡事故は知っているでしょう? 警察が事情聴取をしたいと言っているのですよ。顎田主任のことでね」


 ククク。

 こんなのは嘘ざんす。

  治織じおりを会社に呼ぶ口実にすぎないざんす。


「ですから会社に来て欲しいんざんす」


「は、はぁ……」


「警察の事情聴取ですからね。最近、顎田くんと接触したざんしょ?」


「それは、しましたが……。主任のは事故では?」


「まだ事故と決まったわけじゃないざんす。警察の調べがあるんざんすよ。来ないとあーたの家に警察が家宅捜査をするかもしれませんよ?」


「わ、わかりました。行きます」


「では、待ってますね♡」


 ククク。

 顎田の話ではパーカーに擬態しているといっていたざんす。

 つまり、新種とともにこの会社に来るということ。

 

「ククク。もう手段は選ばないざんすよぉおおおお」



────

次回は 博梛はかなが会社に行くみたいですよ!

ラストまでもうすぐです。

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