第12話 顎田主任 【最後】


〜〜顎田主任視点〜〜


  治織じおりの配信ではダンジョンの入り口で新種を見つけたことになっていたな。


「このダンジョンの壁。湧水が出る穴にダンジョンクラゲの触手が詰まっていたんだ」


 うう。

 まったく見つからん。

 今日だけで6箇所以上もダンジョンを回ったが、見つかる気配すらないな。


 しかも、俺と似たようなことをしている奴にも出会ったし、ブームになっているのか。

 それでも新種は見つかっていないからな。やはり、あのクラゲは相当に価値が高いのかもしれん。


 そうして3日が過ぎた。


「ダメだ。全く見つからん。新種の気配すらない」


 やはり入り口付近ではダメだ。

 中に入らなくては……。


 本来ならば探索者とパーティーを組んで入るのがダンジョンだ。

 一般市民が簡単に入れる場所ではない。

 入り口横に立っている看板には『一般人立ち入り禁止』の表示があるもんな。


 しかし……。

  治織じおりが外側の壁で見つかったのならダンジョン内の壁なら新種が見つかる可能性はグンと上がるはずだ。

 上層階なら大したモンスターはおらんだろう。ダンジョンドッグの1匹や2匹。俺様が蹴り殺してくれるわ。ぬはは。


 俺は入り口から10メートルくらいまで侵入した。

 

「ここならまだ入り口の明かりが見える」


 何かあっても引き返せるさ。ふふふ。


 ダンジョンの壁を見ると、思ったとおり、ダンジョンモンスターがたくさんいた。


「お! ダンジョンゲジゲジにダンジョンダンゴムシ。ダンジョンゴキブリもいるな」


 くくく。

 いいぞいいぞ。これなら新種を見つけるのも早いかもしれん。


「そうだ! 配信をしてみよう!!」


 ゴミカス 治織じおりでさえ配信で成功したんだ。

 俺様がやれば大成功してしまうかもしれん。

 そうなれば、あんなクソ会社辞めてもいいかもな。くくく。

 そうだ。辞めてしまおう。新種を見つけて俺様の物にすればいいんだ。

 広告費用と投げ銭で悠々自適なペット配信生活だ!


 配信用のアカウント名はどうしようかな?

 俺様は才能があるから天才ってつけたいな。あとは……見た目的に美男子だから……。


「よし! 天才王子にしよう!」


 ぐふふ。

 我ながらイメージぴったり、センスは抜群。ダモ子なんていうダサい名前とは雲泥の差だな。どうせ顔は見せないからな。声だけで想像させればいいんだ。ククク。


 それじゃあ、配信スタートだ。


「よぉ。視聴者の諸君。俺様が天才王子だ。これから新種のダンジョンモンスターを見つけるからな。よろしく頼む」


 すると早速5人が見てくれた。

 

 クハ! ちょろいぜ! 暇人どもが!


『何、こいつ、イキリ?』

『アカウント名、キモ』

『声がおっさん』

『厨二全開。ヤバイヤバイ』


 な、なんだこのコメントは!?

 クソどもが!!


「お前ら、口の利き方に気をつけろよ。俺様は新種を見つけて伝説を作る男だからな。一応、ウルチャ機能をオンにしておくから、応援したい奴は金を振り込め。いいな?」


『絶対やらねーー』

『逆に金くれよ』

『強要罪で通報しました』

『キモイキモイキモイキモイ』

『○んでくれ』


 ちっ!

 まぁいい。もう30人も見てくれてるじゃないか。

 流石は俺様の魅力だぜ。このままバズり散らす!


「ダンジョン内の壁には様々なダンジョンモンスターがいる。この中から新種を探すのは至難の技だ。無知なお前らでは到底できんだろう」


 クフフ。

 俺だってダンジョンモンスター研究管理会社の社員なんだ。

 新種のモンスターくらい多少は心得ている。


 ぬ!? いた!!


「ほら見ろ!! 新種のダンジョンゴキブリゲットぉおお!!」


 通常種は青い色だが、このゴキブリは緑色だ。


『は? マジ?』

『え? こいつすごいのか?』

『ゴキブリとかキモいし』

『残念ながら、それは去年に発見されたグリーンローチですね。新種ではないです』


 クソ! 違うのか!!

 なんか詳しい奴が見てんな。


 新種じゃないならいらねぇな。ふん!


グチャ!!


『うわ! こいつ殺しやがった!!』

『残酷ぅ』

『ひでぇ』


 カカカ!


「ゴキブリ程度でワァワァ言ってんじゃねぇ」


 視聴者は千人を超えていた。


『クズを観にきた』

『痛い奴がいると聞いて……』

『アカウント名が終わってて草』


 ふほぉおお!

 俺様にこんな才能があったとはな!!

 コメントの内容はさておき、これなら1万再生くらい余裕だぞ。

 クフフ。


 その時である。

 10メートル先の壁になにやらキラリと光る物体が見えた。


 なんだあれ? 輝き方が違うぞ?


「ま、まさか? 透明スライムか?」


 透明スライムなら新種確定。世紀の大発見だぞ!


『え? なに、その光り方!?』

『変わってるな?』

『見たことない』

『え? もしかして透明か!?』

『え!? ガチで見つけたの?』

『うそ、透明!?』

『マジか!?』


 ふほぉお!

 ちょっと出口より遠くなってしまうがどうしよう?

 20メートルくらいか。

 今から戻って探索者を雇ってもいいが、そんなことをして透明スライムが逃げられても困るからな。


 よし。


「行くか……」


 5メートル進む。


「映ってるか? あれは透明スライムか? どうなんだ? めちゃくちゃ光ってるぞ!」


 視聴者は3千人に増えていた。

 うひょう! いいぞいいぞ!

 後はこのスライムが、


『黄色スライムだ』

『黄色スライムだね。ライトが反射してただけ』

『普通のダンジョンスライムだよ』

『黄色だよ』

『黄色』

『黄色乙』

『黄色かよぉ! 期待して損した』

『wwwwwww』

『黄色は草』

『ざまぁwww』


 クソがぁああ!!

 なんだよ! 普通の黄色スライムかよ!!

 期待させやがって! ぶっ殺してやる!!


「クソカススライムがぁあ!! 俺様に迷惑をかけよってぇ!!」


 天罰を喰らわせねばならん。

 まだ5メートル先だが、貴様の悪行は俺様が成敗してくれる。


「ギャハハ! 貴様の命で償え!! 死ねやゴラァア!!」


 と、拳を前に突き出した時である。


ガブッ!!


 痛ぁああああああああ!!


「な、なんだぁ!?」


 ライトを当てると、ダンジョンドッグが俺の腕に噛みついていたのだ。


「クソがぁああ!!」


 なんとか払い退ける。


 ぐぬぅうう……。痛ぇええ。


『え!? ちょ、何々!?』

『ダンジョンドッグね』

『はいモンスターキターー』

『探索者にバトル頼めよ』

『バトル配信か?』

『バトルバトルw』

『胸熱展開や』



グルルルルルルルル……。



 ダ、ダンジョンドッグの1匹や2匹、俺一人でなんとか……。


 俺は10匹を超えるダンジョンドッグに囲まれていた。


「なにぃいいいいいいいい!?」


 お、多すぎるぅうう!!


『おいおい。早く探索者呼べって』

『無理すんなって』

『探索者ターン』

『探索者は?』

『おーーい。探索者の出番ですよーー』


 お、俺は1人なんだよぉおおお!!


「誰かぁあああ!! 助けてくれぇえええ!!」


『ええええええええ!?』

『1人でダンジョンに入ったの??』

『学校で習わなかったのか!?』

『一般人は1人で入っちゃダメなんだぞ?』

『無免許違反!!』

『てか、事故事故!!』

『おまわりさーーん!!』

『これドッキリ?』

『企画の可能性もある』


 ダンジョンドッグは俺の体を噛みまくる。


「ぎゃああぁああああッ!!」


 痛い痛い痛いーーーー!!


『血がグロイ!』

『リアル』

『え? これガチ?』

『ちょ、グロ!』

『通報!』

『運営さーーん!』

『これはリアルにあかんやつ』


「誰かーーーー!! 助けてくれぇええええええ!!」


 出口の明かりが遠い!!


「ひぃいいいいいいいいいいい!!」


 俺は伸ばした腕さえもダンジョンドッグに噛みつかれ、その体は犬の群れの中に吸い込まれた。


 痛い痛い痛い痛い痛い!!


「だ……ず……げ……で……」




 数時間後。

 視聴者から通報を受けた警察が、探索者とともに駆けつける。

 しかし、そこにあったのはボロボロになった顎田の遺体だけだった。



────

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次回は 博梛はかなと阿久津社長回です!

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