第11話 顎田主任 【その3】

 ダンジョンモンスター研究管理株式会社。そのSE課に課長が帰ってきた。

 半年もの間、海外の研究機関に出張に行っていたのだ。


 課長は見目麗しい女だった。

 金髪の長髪は日の光を受けてキラキラと輝く。

 白磁のように白い肌。鋭く大きな瞳は見ているだけで男を虜にする。

 加えて、Iカップを超えるであろう爆乳の持ち主であった。


「西園寺課長が帰ってきたぞ!」

「キャーー! いつもながら美しいわぁ」

「うひょーー。色っぺぇ!」


 彼女の名は西園寺 麗迦。

 28歳。やり手のキャリアウーマン。独身である。


「みんな待たせたな! 私が帰ったからには、この課はもっと楽になるからな!」


 SE課は盛り上がっていた。


「手始めに人材の増強だ。主任を増やして管理体制を強化する。顎田。 治織じおりを呼んでくれ!」


「あ……。いや……その……」


 課長室。


「何ぃいい!?  治織じおりが会社を辞めたぁああ!?」


「は、はい。わ、わがままな奴でして。自分から会社を辞めよったんですわ。おかげでこちらはサービス残業の毎日ですよ。それもこれも全部、あの女のせいです」


「うーーむ。あの 治織じおりがなぁ……」

(社長の推しで顎田が主任になってしまったが、私は 治織じおりを推していたからな。人格、実力、共に 治織じおりが主任に相応しかったんだ)


「残念だな。 治織じおりに主任になってもらって、この課を支えてもらいたかったのだが……」


「は、ははは……」

(ぐぬぅう……。やはり課長は 治織じおりを推していたか。この女、美人な癖に油断できん。それにしてもたまんねぇおっぱいしてやがるぜ。ちょっと黒い下着が見えてるじゃねぇか。げへへ。課長室は香水のいい香りが充満してるしよう。たまんねぇええええ!!)


「本当に 治織じおりは自分から辞めると言ったのか?」


「ギクゥ! は、はい!! そうなんです!! こちらが止めるのも聞かずに出て行きました!!」

(やべぇ! なんか疑ってるぞ!! なんとしても誤魔化さねぇと!! 俺が辞めさせたなんてバレたら俺のクビが飛ぶ!!)


「……そうか。では、 治織じおりの資料をくれ」


「え!? なぜです!? あんなクソカス……いや、あんな辞めた女の資料なんて必要ないじゃないですか!!」


「クソカス?」


 と、ギロリと睨む。


「あははは! ちょっと昼飯のことを考えていただけです。味噌カツにしようかな、と」


「…………」


「……あはは」

(くそぉ。何を疑ってんだよぉ??)


「…… 治織じおりの実績と勤務状況を調べたい」


「えええええええ!? し、しかしぃ」


「いいから用意しろ」

(顎田は何かを隠しているようだな)


「は、はい……。ご、ご用意いたします」

(やべぇ、やべぇぞぉおおおお!!)


 顎田は資料を集めずに、急いで社長室へと向かった。


「社長! 大変です!! 西園寺が 治織じおりのことを調べ始めました!!」


「だからなんざんすか? 困るのはあーただけでしょう。身から出た錆ざんす。普段から部下に偉そうにしているバチが当たったんざんす」


「部下へのパワハラが証明されれば社長のあなたも危ないということですよ!」


「う!!」


(へへへ。知ってるんだぜ。あんたが取締役会で会社の経営状況を追求されているのをなぁああ!!)

「今すぐにでも、課長を降格して俺を課長にしてくださいよ。それしか生き残る方法はありませんよ?」


「そ、そんなことできないざんす! 取締役会では西園寺の評価は高い。次期社長とまで言われているざんす!」


「そんなバカな!? あの女はただの課長ですよ!?」


「会長の西園寺 権蔵の孫娘なんざんす!! 会長は80を超えるじじぃざんす。会長の代わりに孫娘を社長にすることは十分に考えられるざんす!!」


「だ、だったら尚更ですよ!  治織じおりの件は隠しませんと!! 我々は彼女に散々暴言を吐いてしまったのですから!!」


 阿久津社長は顎田の胸ぐらを掴んだ。


「だから新種が必要なんざんす! 私とあーたの力で新種を手にいれることができれば会社の経営は回復。私は社長を継続できるんざんす!! あーたは課長に昇格! あの女は降格ざんす!!」


「そんなに上手くいくのでしょうか?」


「それは確実ざんす。あの新種の人気ならば我が社の利益は5倍以上に膨れ上がるんざんす。そんな実績を上げれば取締役会で私を降ろすことはできないざんす。全てはあの新種にかかっているんざんす!!」


(そ、そんなに……)


「それで、あの新種の件はどうなったんざんすか? ダモ子には会えたのですか?」


「はい。ダモ子の正体がわかりました」


「おおおおお!! すごいざんす! 一体、どんな女だったざんす!?」


 顎田は経緯を話した。


「えええ!? ダモ子の正体が 治織じおりぃいいいい!?」


「はい。俺も信じられませんでしたが、間違いありません。新種のダンジョンクラゲをパーカーに擬態させてスーパーに買い物に行っていたのです」


「こ、交渉はしなかったのですか!?」


「聞いてくれませんでした。相当にこの会社を恨んでいるようです」


「ふざけるんじゃないざんす!! あーたの交渉が下手なだけでしょうが!! この無能!!」


「し、しかしですねぇ」

(言ってくれんじゃねぇかよ。このカス社長がよぉ!! こっちだって必死にやってんだよぉおお!!)


「言い訳はいいざんす!! あの女がダメなら探してくるしかないざんすよ!!」


「な、何をですか?」


「新種ざんす!! あのダンジョンクラゲより人気の出る新種を見つけるしか方法がないざんすよぉおおお!!」


「お、俺がですか?」


「行けざんす!! クビにするざんすよ!!」


「うぐ!! わ、わかりましたよ。行ってきます」

(クソ! なんで俺が新種探しをせにゃならんのだ!!)


 顎田は岩山に声をかける。


「おい。お前も来い。今から新種探しに行くぞ」


「自分がっスか?」


「そうだ」

(こいつは筋肉バカだからな。ダンジョンの入り口に行くとはいえ、いざという時の護衛にはなるだろう。盾に使えるかもしれんしな。ククク。凶悪なダンジョンモンスターに襲われたらコイツを犠牲にして俺だけ逃げればいいしな)


「面倒臭いのでお断りします」


「ふざけるな!!」


「ふざけているのはそっちでしょう。自分はSE課に配属されたんスから、その仕事をしませんと」


 そういってブラインドタッチの練習をする。


「ぐぬぅううう!!」

(言い返したいがコイツがキレたら厄介なんだ。クソがぁああああああああ!! 仕方ない、1人で行くしかない)



────

次回も顎田主任が主役です!

お楽しみに!

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