第10話 顎田主任は顔真っ赤
2人は近場の喫茶店に入る。
「なんでも頼んでくれ。勿論、奢るからな」
「いえ。結構です。お金には困っていませんので」
(絶対に奢られたくない。そんなことで貸しを作れば後で何を言われるかわからないよ。なんなら私がここの喫茶店の分を全額出してもいいな)
「は、ははは。なんか、しばらく見ないうちにしっかりしたな」
「おかげさまで、退職金も給料もカットされましたからね」
「は、ははは……」
(いかん。根に持っているぞ。なんとかして新種のダンジョンクラゲが欲しいが、このまま頼んでも断られるだろう。なら、)
「な、なぁ
「え?」
(うわぁ。興味ない。どうでもいいです)
「お前がいなくなってな。みんなの仕事が増えて大変だよ。ははは」
「そうなんですね」
(知らないよ。そっちの事情なんて)
(ぐぬぅう。こうなったらもう一度、社員にしてしまえばいいんだ。社員の物は会社の物。会社の物も会社の物だ!
「なぁ、
「はい?」
「会社に戻らないか?」
「はい?」
「お、お前も何かと入り用だろ?」
「いえ。お金には全く困っていません」
「なに!?」
「ですから。ここのお茶代も私が出しますよ」
「あ、いや……」
(お茶代は奢って欲しいが)
「会社にはお前が必要なんだ!!」
「え? 私って無能じゃなかったのですか? ゴミカスで会社には必要ないんですよね? 主任が散々、私に言っていたじゃないですか?」
「ぐぬぬぬ……」
「ですからね。ははは。私が会社に戻るなんてね。ないない。ないですって」
(あ、あれだけバカにしてしまったからな。こ、こうなったら全部ぶっちゃけるか。それで頭を下げるしかない)
「俺はな! わかってしまったんだ!」
「何をですか?」
「今、噂の配信者、ダモ子がお前だってな!」
「えええ!? ち、違います!!」
(なんでバレたんだろ!?)
「隠さなくもいいさ。お前の声は特徴的だからな。すぐにわかったんだ」
(声かぁ……。うう。これは言い訳できないな)
「隠しても仕方なさそうですね……。そうですね。私がダモ子です」
「おお! やはり!!」
「でも、私がダモ子でも会社は辞めてるので関係ないですよね? 副職じゃなくて本業で配信者してますからね」
「そ、そんなことを言いに来たんじゃないんだ……」
「あ……!」
(察し! そういえば主任がヅイッターにDMを送ってたな! 目的はあれか!! ユラちゃんを貸して欲しいんだ!!)
「ど、どこにいるんだ。あの新種は?」
と、キョロキョロする。
「……目の前にいますよ」
(やれやれ。もうバレちゃったしな)
「なに!?」
『ユラ!』
「なにぃいいいい!? そのフードが新種だったのかぁあああ!?」
「はい。どうしても外に出たがるのでパーカーに擬態してもらったんです」
「そういえば会社を辞める日にフードを被っていたな。あれがそうだったのか?」
「はい」
「は、ははは。まさか、既に会社に新種が来ていたとはな。意外だったよ」
顎田は滝のように汗を流す。
「そ、それでな……。なはは。そ、その……ペットをだな──」
(うう。こんな奴に頭なんか下げたくない。しかし、やるしかないんだ。なんとしてもこのモンスターが必要なんだぁあああ!!)
ゴン!
と突然、額をテーブルに打ち付ける。
「ウチの会社に貸して欲しいんだ! 頼む!!」
「お断りします」
「早っ! お、おいおい。断るのが早いじゃないか!!」
「お貸しする理由がないですからね」
「し、しかしだなぁ。お前は元社員じゃないか。会社に対する恩義はないのか?」
「はぁ? あるわけないじゃないですか? サービス残業の毎日。加えて退職金と給料1ヶ月分の没収。ブラック企業にもほどがありますよ!」
「そ、それはお前が、会社に迷惑をかけたからであってぇ」
「私は迷惑なんて一切かけていません。かけていたのはあなたでしょう? システムのバグばっかり作っていたじゃないですか。私はそれをフォローしていたんです」
「ぐぬぅ! この! 良い気になりやがってぇえ!!」
「もうこの際だから言わせてもらいますけどね。サービス残業の料金や退職金は労働基準局に相談したら、私が貰うことができたんですよ?」
「うぐぅううう!!」
(コイツ! 知っていたのか!?)
「あなたの数々の暴言だってそうです。完全にパワハラ。裁判すれば私の勝訴は確実ですよ?」
「ぬぐぅうううう!!」
「でも、それをしなかったのはあなたとの関係を今すぐにでも切りたかったからです。戦って勝利するより関係を断つことを選んだだけですよ」
「グヌゥウウウウウウウウウ!!」
「もういいでしょう。ここのお茶代は出しますから、もう私に構わないでください」
「ま、待てぇええええ!!」
(お茶代は出して欲しいが、ここで引き下がれるもんかぁああ!! こうなったら奥の手だ)
「なんですか? まだ何か言いたいのですか?」
「お、お前の正体を世間にバラすぞ? ククク」
「はい?」
「お前がひた隠しにしているダモ子の正体だよ。ククク。スーパーマルキチの前には取材陣がいるよなぁ? そいつらにお前の正体をバラしちゃおうかなぁああ?」
(ギャハハハハーー!! 勝ったぁああああ!! クソカスがぁあああ!! 俺様に意見するなんて100億万年早いんじゃボケがぁああ!!)
「はぁ〜〜」
(ああ、もう性根が腐りに腐り切っているなぁ。それで弱みを握ったつもりなのか。確かにバラされたら困るけどさ。それは目立ちたくないからなんだよね。主任は欲の塊だから、私の気持ちなんてわからないだろう)
「グハハハーー! お前の正体を世間にバラされたくなかったら俺にその新種をよこすんだよ!!」
「はいはい。どうぞどうぞ。私の正体をバラしてくださいな」
「な、何ぃいいい!? いいのか!? 本当にバラすぞ!?」
「どうぞどうぞ。ご自由に」
「ギャハハハ!! 強がりおって!! 必死なのが見え見えーー!! ギャハハハ!! 余裕なんて見せて強がるなってーーの!!」
「そりゃ余裕にもなりますよ。なにせ、収入が安定していますからね。どこかの会社の主任さんは私に1万円の投げ銭をくれましたから」
「ぬぅう!?」
(そ、そういえばこの前、1万円のウルチャをしたんだ!!)
「だ、だから、なんだと言うんだ!?」
「いえね。そんな風に私にお金を恵んでくれる方が大勢いるという話です」
「んん??」
「まだわかりませんか? あなたが私の正体をバラしたら、私は今より更に人気者になってしまうということです」
「は!」
「ウルチャは倍以上に膨れ上がって、新聞、テレビにCM。映画の出演依頼も来ていますからね。お金が儲かってしかたありませんよ」
「あううう……」
「私が幸せになるように動いてくれるなんて主任はいい人ですね。どうぞどうぞ。私の正体をバラしてくださいな」
「ウグゥウウウ……」
(た、確かにそのとおりだ。俺がコイツの正体をバラしたら、たちまち大スターの誕生だ。大金持ちにさせてしまうじゃないか! ぜ、絶対にそんなことはできんぞ!!)
「あれ? しないんですか? どうなんです? なんか勝ち誇ったようにバカ笑いしてましたけど?? なんのバカ笑いだったんです??」
「グヌヌヌヌゥウウウウウウウ!!」
「はい。では、話は終わりですね。ああ、安心してください。ここのお茶代は私が払いますからね。どこかの気前のいい主任さんがウルチャで1万円もくれましたからね。それを使ってここを払いますから。それでは」
「ぐぅうううううううううううううううう!!」
(クソクソクソクソガァアアアアアアア!!)
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次回も主任回です!
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