第9話 顎田主任 【その2】

〜〜顎田主任視点〜〜


 ぬぐぅううう。

 俺は諦めんぞぉおお。


 DMで断られるなら直談判だ!

 このダモ子とかいう女は都内に在住だろう。

 都内のどこだ!? どこにいる!?


 俺はダモ子の配信を遡って観察した。


「マルキチ! スーパーマルキチを利用しているのか!!」


 あの場所ならわかるぞ!


「主任。お茶入れてください」


 ヌグゥウウウウウウ!!


「貴様ぁ。お茶くらい自分で入れんか!!」


「だってぇ。自分がお茶を入れに行ったら、その分ブラインドタッチの練習が遅れますよ? それに主任のパワハラで自分の心は傷ついたッス」


「ったく!!」


 なんなんだ!!


「ほらよ!! お茶ぁあ!!」


「あざす♪」


「いい加減、習得しろ! いいな!」


「パワハラっスか?」


「社会常識だ!」


 こんな奴でも動けるようになれば少しくらいは戦力になるだろう。

 俺が部長に昇格するまではこき使ってやるから覚悟しろよ!

 部長になったら即刻クビにしてやる!!


「俺は出かけてくる!!」


「さぼりっスか?」


「仕事だ!! お前は練習を続けてろ!!」


 なんとしても、見つけるぞダモ子ぉおお!!


 スーパーマルキチに行くと、入り口には複数の人がいた。

 それぞれがカメラやスマホを構えている。


 も、もしかしてコイツらもダモ子を探しているのか?


 いかん!

 こんな奴らより先に俺が見つけなければ!


 しかし、数時間待っても、それらしい人物には出会えず。


 うう……。

 そもそも、若い女ということしか情報がないからな。

 噂では女子高生とかなんとか……。中学生という可能性すらあるらしい。


 スーパーにそんな女が来た所で正体はわからんしなぁ。


 しかし、俺より先に見張っていた人間の行動力はすごい。

 雑誌かテレビの記者っぽい。


「すいません。私、こういう者です」


 ダモ子っぽい女に声を掛けて名刺を渡す。

 なるほど。聞き込みをするわけか。


「あなたはダモ子さんですか? 新種のダンジョンクラゲを家で飼ってる?」

「あはは。違いますよ」

「ダモ子さんを探しています。何かわかればこの名刺の番号まで連絡いただけませんか? 謝礼は出しますので」


 ぐぬぅう。

 そこまでして探しているというのに見つからんのかぁ。


 確かに、顔がわからんからなぁ。

 手がかりは可愛いアニメ声だけか。


 ん?


「……あ、あれは」


 あのフード姿、見たことあるぞ??


 顔がよく見えんな。

 ちょっと移動して角度を変えて……。


 ああ! やっぱり!!


治織じおり!! お前、 治織じおりだろ!!」


「え? あ、顎田主任? なんでこんな所に?」


「ははは。ま、まぁ、ちょっと通りかかったんだ。ぐはは。まさか、お前に出会えるとはな。てっきり野垂れ死んでいるのかと思ったぞ。ぐふふ。まだ生きていたんだな」


  治織じおりはニコニコと答えた。


「ええ。お陰様で、なんとか生活はできていますね」


 おかしいな。

 なんだこの妙な余裕は?

 こいつには退職金が出なかったからな。今頃は生活が困窮して苦しんでいるはずなのに。


「それじゃあ、私は買い物がありますので」


「え? ああ……。じゃあな」


 ん?

 今の声どこかで……。


 どこかで聞いた記憶がある……。

 たしか、今日聞いたような?

 そうだ。会社で聞いた声なんだ……。

 あれはスマホの画面から、


『アハハ。ユラちゃんは甘えたなんだからぁ』

『ユラァ』

『アハハ。可愛いなぁ』


 そうだ!

 ダモ子の声にそっくりなんだ!

 

 え!? ええ!?

 じゃあダモ子がまさか!?


 そういえば、 治織じおりの手は小さい!

 まるで10代の女といってもおかしくないぞ!!


 それじゃああ!?

 ダモ子の正体は!?







 顎田は 博梛はかなを呼び止めた。


「待ってくれ 治織じおり!! 俺の話を聞いてくれ!!」

(なんとしても、新種のダンジョンクラゲを手に入れるぞ!)


「は、はい?」

(嫌だなぁ。できればもう話したくないんだけど)


「ははは。折角出会ったんだ。その……。なんだ。ははは。まぁ、募る話もあるだろうが」

(おまえがそうなんだろう? おまえがダモ子なんだよな?)


「はい?」

(募る話?? ないない。あなたと私の間にそんな素敵な話は存在しませんよ。募るのは恨みくらいでしょうか?)


「ど、どうだ? ちょっとその辺でお茶でもせんか?」


「あ、いや……。ははは。ちょっと忙しいので遠慮します」


「な、何をそんなに急ぐことがあるんだ? いいだろ? な!?」

(ぐぬぅ! 逃すもんかぁあ!! 千載一遇のチャンスぅううう)


「もう会社は辞めましたので、主任とは関係ないはずですが?」


「ははは。つ、冷たいな。お前には情というものがないのか?」


(いやいや。あなたに情を問われるとは思わなかったですよ)

「あの……。何が話したいのですか?」


「ははは……。ちょっとな。そ、相談だよ」


「相談??」


(ぐぬぅ。こんな女に頭を下げるなんて嫌だが仕方ない)

「は、ははは。困っているんだ。頼む! 相談に乗ってくれ!!」


(知らんがな!! 私が相談に乗る筋合いあります!?)


「頼む! 割り勘……いやコーヒー奢るからぁああああ!!」


(いや、割り勘って言ったよね? どういう神経してんの??)


「頼む! 頼む! 頼むぅううううううううう!! 奢るからぁあああ!!」


(ええええ〜〜)



────


主任回、続きますよ。


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