第8話 阿久津社長と顎田主任
〜〜阿久津社長視点〜〜
な、なんざんすか、このダンジョンモンスターは!?
こんなダンジョンクラゲは見たことがないざんす!!
『みなさん、どもです。ダモ子です。こっちはユラちゃん』
『ユラ!』
それは淡いピンク色。
ワンルームマンションの一室にフワフワ浮かぶ。
通常ダンジョンモンスターはダンジョン窒素が無いと生きられないざんす。
地上の空気に触れればたちまち消滅。
だから、うちの研究所では各モンスターの檻には常にダンジョン窒素を充満させているざんす。
『ユラーー』
『あはは。今日も機嫌が良さそうです』
あ、明らかに新種ざんす。
『ユラちゃんは甘えただからな』
『ラララァ』
このダモ子とかいう女が発見したらしいざんすが、絶対に我が社に欲しいざんす!
この新種を手にいれることができれば、我が社の株は跳ね上がるざんす!!
「おい! 顎田主任を呼びたまえ!!」
絶対に欲しいざんす。
今は会社の経営不審。立て直すにはこの新種の人気が必要ざんす!
顎田主任は社長室に入ってきた。
「お呼びでしょうか?」
私はスマホ画面を見せた。
「この新種を知ってるざんすか?」
「ええ。今やSNSで大人気ですからね。ヅイッターのトレンド入りをしていますよ」
「だったら話は早い! 見つけてきなさい!!」
「は?」
「このユラちゃんが研究所に来ればうちの株は跳ね上がるんざんす! そうすればあーたは部長に昇格ざんす!」
「お、俺が部長に!?」
「それだけじゃないざんす! 特別給与も支給するし、人材だって大量に補充するざんすよ!」
「い、至れり尽くせりじゃないですか!」
「当たり前ざんす! ユラちゃんが我が社にくれば人類の発展に大きく影響を及ぼすんざんす! 地上の空気で生きれるダンジョンモンスターなんて前代未聞なんざんすから!!」
「た、確かに!」
「いくざんす!! ユラちゃんを連れてくるざんす!!」
「はい!」
ククク。
こいつは絶好の金脈ざんす。会社の未来はコイツにかかっているざんす。
「で、では、このダモ子とかいう配信者に連絡を取ってみますね」
「そうするざんす。それにしてもこの女……どっかで聞いたことのある声なんざんすよね」
「そうなんです。俺もそれを思っていました。社長は心当たりがありますか?」
「うーーん?」
『あはは! ユラちゃん、こっちだよ!』
『ユラーー!』
『あははは! 甘えただなぁ』
『ラララァ♡』
わからないざんす。
ダモ子……。あーたは何者? 一体どこにいるざんす?
☆
〜〜顎田主任視点〜〜
うーーむ。
この女は誰なのか?
『アハハ! ユラちゃんったら、食いしん坊なんだから』
『ユラァ!』
アニメ声優みたいな可愛い声だが、どこかで会っていたのだろうか?
うーーむ。
配信動画には顔は映ってないしな。
「……わからん」
まぁいい。
とりあえず、ヅイッターにはDMを入れておいた。
丁寧な文章で送ったから返信は来るだろう。
それに生配信の投げ銭。ウルトラチャットも1万円入れておいた。
これは実費だが必要経費だ。やむを得ない。
ウルチャのコメントにDMのことも書いておいたからな。これなら文句ないはずだ。
とりあえず返事を待とう。
「おい。顎田主任。喉が渇いた。お茶入れてくれ」
「うぐ! この野郎……」
いい気になりやがって。
部下の岩山はあれ以来、横柄な態度が続いている。
怒らせなければ多少はマシだが、それでも厄介な奴だ。
「お茶ですよ主任! 部下が頑張っているんだ。入れてくれてもいいと思いますが?」
ちっ!
「ほらよ。入れてやったぞ」
「どうもっス」
「お前はまだブラインドタッチの練習をしているのか? あれから1週間だぞ?」
「仕方ないじゃないっすか。難しいんすから」
そう言ってキーボードを見る。
「見るんじゃねぇ! このバ──」
このバカ、と言いかけて黙る。
岩山の目付きが鋭くなったからだ。
ぐぬぅうう。
こんな無能に暴言も吐けんとはなんたる屈辱。
新種を見つけて、こんな奴、クビにしてやるわ!!
「いいから早くキーボードを打てるようになれ!」
「わかってますよ」
ううう。
すさまじい痛手だ。今日もサービス残業確定かよ。
次の日。
ヅイッターの返信が返ってきた。
「よし! 来た!!」
しかし、丁寧なお断りの文章である。
この文章は明らかにコピペだな。粗方作った文章の宛名だけ変えてみんなに使っているんだ。
クソッ! 舐められたもんだぜ!!
1万円なんて投げ銭するんじゃなかった!!
☆
〜〜
ヅイッターのDMを見て驚いた。
まさか、ダンジョンモンスター研究所から協力の依頼があるなんて!
差出人は顎田主任。信じられないくらいに丁寧な文章で送ってきた。
おそらく、私の正体に気がついていないのだろう。
でもね。
テレビの取材すら断っているのにさ。研究材料としてユラちゃんを提供するなんてありえないよね。
文章には『人類の為』なんてご立派な言葉が添えられていたけど、おそらく金儲けの道具にしたいんだろう。
新種のユラちゃんが研究所にいけば会社の株が上がる。加えてスポンサーや広告代理店が動く。阿久津社長には莫大なお金が入るはずだ。大方、顎田主任には部長にでも昇格する話が出ているのだろう。
ふふふ。残念だけど、そんなことには絶対に協力しませんからね。天と地が逆さまになってもやりませんから。
「顎田主任。私のことは忘れてください」
私はお断りのコピペ文章を添付して送信した。
はい終了。
「んじゃ、ユラちゃん。ご飯の時間だよ」
『ユラァ♪』
主任から1万円のウルチャが入ったからね。
ありがたく使わせてもらおっと♪
────
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次回は顎田主任視点です。
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