最終話 ユラちゃん
「
と、頭を下げたのは西園寺課長。
お胸が大きな人なので上半身を下げることでとんでもないことになっています。
あんなのがぶら下がっていたらさぞや肩が凝るだろうな。
「いえいえ。もう済んだことですし、気にしていませんから」
「いやいや。もうどう謝ったら許してもらえるのかわからん。本当にすまん!!」
もう土下座しそうな勢いです。
彼女は元上司。でも海外に出張に行ってたので会社とはノータッチです。
「
「まぁまぁ。もう頭を上げてください。問題を起こした2人はもうこの世にはいませんしね。課長が気にすることはありませんよ」
「……そうもいかんよ。これは私のミスでもあるんだ」
ほえ?
「なんのことです?」
「私はお前を主任にしたかったのだ。そうすればこんな結末にはならなかったはず……。今頃はお前と組んでホワイト企業を目指していただろうさ」
ええええ……。
「意外ですね」
「顎田を主任にしたのは社長の圧力なんだ。こんなことになるなんて後悔しかないよ」
「……そうだったんですか」
課長は私の手腕を買ってくれていたのか。
なんだかそれだけでも救われるな。
それにしても、
「会社の株……。えらく下がってますね」
「ああ。スポンサーは撤退。事実上の倒産が確定したからな」
「じゃあ、私より、西園寺課長の方が大変じゃないですか」
「私は西園寺財閥の人間だからな。この程度のことは蚊に刺された程度なのさ。気にするな」
そういえば、課長はお金持ちのお嬢さまだったな。西園寺会長の孫娘だとか。
「それでな。会社が潰れる前に罪滅ぼしをさせて欲しいのだ」
え?
「謝ってくれたので、もう十分ですが?」
「いやいや。ケジメだよ」
そう言って渡してくれたのは封筒でした。
なにこれ?
「うわ! 小切手だ!! 初めて見た! い、1千万円!?」
「パワハラや暴言。侮辱の謝罪。あとはサービス残業の料金。その他迷惑料さ」
「も、貰い過ぎですって」
24歳の退職金にしては多すぎでしょ!
「いや。それくらいはさせてくれ。お前は命まで狙われたんだ。金でしか解決できんが無いよりマシだろう」
「そ、そりゃ……まぁそうかもですが」
い、1千万円は多すぎる気がする。
それにしても会社が倒産するって時に、退職した私のことなんか考えてくれるなんて、
「課長ってお人好しですね」
「おいおい。当然の筋を通したまでさ」
「ははは」
「ふふふ……。やはりお前には笑顔が一番似合うな」
『ユラ!』
「ほぉ……。それが噂の新種か」
「ははは。ユラちゃんもね。私が笑っていると機嫌がいいんですよ」
「そうか。ふふふ。お互いに笑える関係がいいよな」
「ええ。そうですね」
『ユラユラーー♪』
「「 ふふふ 」」
と楽しく談笑していると、
「姐さん!!」
はい? 誰のこと?
やって来たのは大柄な男の人。体は筋肉の塊。
私に向かって深々と頭を下げます。
「自分は岩山と言います。この度は姐さんのご活躍で命を助けられたものです」
ああ、そういえばその名前は聞いたことがある。
阿久津社長がダンジョンモンスターの檻を解放した時、プログラムのミスを理由にしていたけど、そのミスが岩山って人だったな。
「姐さんが配信で証拠を撮ってくれてなかったら、自分は今頃、殺人犯に仕立て上げられていましたよ!」
まぁ、たまたまだけどね。
「災難だったね」
「姐さんのおかげで命が救われました!」
「……その、姐さんって?」
「姐さんは姐さんじゃないですか! あははは!」
なんだこの人? ガタイの割にやけに気さくだな。
「私は姐さんって柄じゃないんだけどなぁ?」
見た目が学生だしな。
「まぁ、岩山なりにお前に敬意を払っているのさ。呼ばせてやれよ」
「はぁ……」
「ははは! 姐さん! 岩山 吾郎。このご恩は一生忘れません!!」
1ヶ月後。
私は引っ越しをしました。
都内。庭付きの一戸建て。
エレベーターの無いワンルームマンションからは卒業です。
初めて入金された配信の広告費用は500万円でした。その額の大きさに驚きを隠せません。
投げ銭は十分に貯まっていますしね。それらの費用と課長からいただいた小切手を合わせて新築の一軒家を買ったというわけです。
順風満帆とはこのことでしょうか。
今日もユラちゃんとペット配信。本日は外出して特別な企画です。
「ども! みなさんこんにちは! ダモ子です!! 今日はなんとコラボをすることになりました!!」
新しいカメラマンは岩山くんです。彼には私の顔は映さないように言っています。私はスマホを持たなくていいので楽になりました。
「コホン。えーーと。じお……ダモ子。そのカメラで撮っているのか?」
「はい。所長は顔出しオーケーなんですよね?」
「勿論だ。あーー。みなさん、こんにちは、所長の西園寺です。そして、こちらが新しくなった研究所。株式をやめて独自の組織として設立させました。西園寺ダンジョンモンスター研究所です」
因みに、岩山くんはこの研究所の所員になりました。
大好きなダンジョンモンスターの飼育員として働いているそうです。
「さぁ! 今日はその研究所とコラボですよ! 一体どんなダンジョンモンスターと出会えるのでしょうか! ワクワクが止まりせん!! 早速、中に入ってみましょう!!」
あは!
コメントが早速荒れてますね。
『所長、美人すぎぃいいい!!』
『胸、胸ぇええ!!』
『おっぱいどうなってる!!』
『そっちのモンスターのが気になる』
『モデルか? 綺麗すぎるだろ!!』
やれやれ。
「所長。大人気ですよ」
「男は困りもんだな」
あはは。特に動揺もしませんか。美人はこういうの慣れてるんですね。
「では、早速、中に入ってみましょう!」
『ユラ!』
でもユラちゃんが映るとあっという間にコメントは変動します。
『ユラちゃんだ♪』
『今日も可愛い!』
『ユラちゃーーん!』
『ユラちゃんが一番』
『ダモ子ユラコンビが最強でしょ』
『ユラちゃん♡』
『ユラちゃん最高!』
『やっぱりユラちゃんが1番好き』
『ユラちゃんが他のダンジョンモンスターに会うとかどんな反応すんだろ?』
今日は快晴。
最高の配信日和です!
☆
そこはダンジョンの最下層。
邪獄城。
部下の女幹部は、玉座に座る者に対して深々と頭を下げた。
「
「うむ」
と、頷くのは邪獄王。最下層に君臨する邪悪な王である。
その体は、怪物の骨で作った鎧を身に纏い、邪悪なオーラを放つ。
「この時を待っていた。
特殊な鎧を纏った兵士がズラリと並ぶ。
「1万の魔兵士が地上に出れば人間どもを駆逐することが可能でございます」
「フハハハ!!
女幹部は進言する。
「人間どもは、エスエヌエスなどという風俗にうつつを抜かす堕落した存在でございます」
「フン。くだらん。そんな物は我が地上を制圧したら駆逐してくれるわ」
「なんでもダンジョン攻略の映像を大勢の人間で共有できるとか」
「やれやれ。戦になった時の情報共有にでも使うのか」
「はい。念のため、それがどんなモノか知っておく方がよいかと」
「うむ。まぁ、どうせくだらんもんだろう」
「地上の映像をご用意いたしました」
それは大きな水晶に映し出される地上の風景。
「なんだあの四角いアイテムは?」
「スマホという物らしいです。その画面に映像が映し出されます。少し、アップにしましょう」
それはダモ子の配信動画だった。
『アハハ! ユラちゃんは乾燥ワカメが大好きですねぇ』
『ユラァ! モグモグ』
『ふふふ。今日もご機嫌です』
女幹部は呆れる。
「このダンジョンクラゲが地上にいるのは謎ですが、最下級のモンスターですからね。人間が手懐けるにはこんなレベルが限界なのでしょう。ククク」
ガタガタガタガタガタガタガタ…………!!
「は!? 邪獄王さま!? どうされました?」
「こ、こいつは……!!」
(お、悍ましいピンクの体色……。こ、こいつはダンジョンクラゲなんかじゃないぞ……。し、し、神層モンスターだ!)
神層とは最下層の更に下。神々が暮らす未知の世界である。
ガクガクガクガクガクガクガク……!!
『ユラちゃんの触手は10本ありまーーす!』
『ユラユラーー!』
(ま、間違いない! ディオクラーケンだ!! ど、どうしてこんな奴が地上にいるのだ!?)
ブルブルブルブルブルブルブルブル……!!
(食べた物を全て破壊の魔力に変換する最凶の神層魔獣、ディオクラーケン……み、見ているだけなのに……うぐぐ、クソ! 体が)
「じゃ、邪獄王さま? お体が随分と震えているようですが? 武者震いでしょうか?」
ガクガクブルブル、ジョワワワーーーー!!
「邪獄王さま!! 下半身が濡れております!?」
「ぬぐぐぐぐぐ…………!!」
(奴の滅殺魔導ブレスを受ければ、1万の魔兵士なんて一瞬で吹き飛ぶぞ!!)
「邪獄王さま!! 大丈夫ですか!? 地上への進軍はどういたしましょうか!?」
「や、や、やめだ」
「はい?」
「今日、熱ある」
ガクン!!
「ああ!! 邪獄王さまが泡吹いて倒れたーーーー!!」
邪獄城は大騒ぎである。
第一章、完。
────
ご愛読ありがとうございました。
こちらはコンテスト用の作品となります。
とりあえず、第一章完結という形で締めました。
二章(予定)では
ユラちゃんとの楽しいペット配信はまだまだ続きそうですよ?
続きが読みたい。面白かった、と少しでも思っていただけましたら、
下にある☆の評価をしていただけるととても助かります。
作者の創作意欲に繋がってより早く作品を提供できると思います。どうぞご協力をお願いいたします。
社畜の私。配信中に新種のモンスターを発見し、バズり散らしたので会社辞めます〜ダンジョンクラゲと一緒に楽しくペット配信! はい? 会社に戻ってこいって? ないない、絶対に戻らないですw〜 神伊 咲児 @hukudahappy
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