第2話 配信。バズる


 ダンジョンクラゲは私の目の前でユラユラと宙に浮きます。


『ユラ〜〜ユラ〜〜』


 これは鳴き声でしょうか。

 つぶらな瞳はおっとりとして、襲ってくる気配はありません。ハッキリ言って、


「か、可愛い」


 しかし、急に地面に落ちました。


ボトン!


「え!? ちょ!? なんで??」


『キュウ……』


 顔色悪っ!


「なんか弱ってる!?」


 急いでダンジョンの湧き水をかけます。


『ムキュウ〜〜』


「ああ、ダメかぁ! そうだ。ダンジョンの入り口に置いたら自分で戻るだろう」


 さぁ、


「お戻り! ダンジョンに潜れば体調はよくなるだろうからさ!」


しぃ〜〜〜〜ん。


 動かない!


 しょ、しょうがない。

 ちょっと怖いけどダンジョンに入ろう! 


「こ、ここなら地上の空気には触れないから大丈夫でしょ!」


 は、初めてダンジョンに入ってしまいました! 

 そこかしこから怪しい音が聞こえてきます。



カサカサカサ!

クギャーー!!

キィキィ……。

ウウ……。

ガルルルゥ。

ワォーーーーン!



「ひぃいいいい!」


 めちゃくちゃ怖いんですけどぉ!

 クラゲは回復したかな?


『ムキュウ〜〜』


 ええええ!? 回復してない!

 体色が無くなっていく!


 なんでぇ!?


「このままじゃこの子が死んぢゃう!」


 仕方ない。リュックに入れて移動しよう!

 

「ちょっと狭いけどここに入っててね!」


『ムキュウ〜〜』


 えーーと、確かぁ……。

 ダンジョンクラゲは塩水を好むからぁ!


 私は近所のスーパー、マルキチで塩を2袋買った。まさかマルキチにダンジョンモンスターと一緒に入るとは思わなかった。


 私の家はワンルームマンションの5階です。5階建ての癖にエレベーターはありません。


「んもう! 階段キッツゥ!」


 急いで帰って、風呂に水を溜めて、塩を、


ザパーーーーーー!!


 んで、クラゲちゃんを、


ドポーーン!!


 どうだ!?


『ユラ〜ユラ〜』


 うぉーー! 元気を取り戻したぁ!!

 体色も戻ってるぅ!


「良かったぁ……」


『ユラユラァ♡』


 ダンジョンクラゲは触手を使って私の顔を触る。


「ははは。甘えてるの? 可愛いなぁ。は、鼻の穴に入れるのはやめへぇ」


 ふふふ。

 淡いピンク色のダンジョンクラゲ。可愛いな。


「あ……」


 ネックカメラの電源切れ忘れてた……。


 充電切れでオフになっているようだけど……。


「うわぁ。どこまで映っていたんだろう?」


 自宅を配信で晒すのだけは勘弁したい。

 急いで配信動画を確認する。


「うひゃあ。スーパーマルキチまで映ってるよぉ」


 コメント欄も大盛り上がり。


『マルキチキターー!』

『俺ん家の近くかよwww』

『ワロタw』

『急げ! ダンジョンクラゲを救うんだ!』

『頑張れダモ子!!』

『クラゲちゃん助かってぇ!!』


 ありがたいことにカメラの電源はスーパーを出た所で切れていた。


 助かったーー。

 一応、か弱い女だからな。

 自宅特定は怖いよね。

 

 それにしても、どうしよう?


『ユラユラ〜〜!』


 この子、ダンジョンの空気には適さなかったのかな? だから、あんな湧き水の中に入っていたのかも。

 塩水で生きれるなら、ここで飼うしかないのか。ダンジョン内に塩水の出る所があればベストなんだろうけどさ。

 私がダンジョンに潜るわけにはいかないしな。


 じゃあ、とりあえず餌は必要だよね。


 私はダンジョンモンスターオタクなので、それに関係する論文は粗方読破しています。


 ふふふ。ネットでは簡単に見つからないモンスターの食性なんかは全て熟知しているんだよね。


「んーー。ダンジョンクラゲは苔を食べるからなぁ。苔っぽい物〜〜。あんまり自炊しないからなぁ……」


 とりあえず乾燥ワカメがあったから、それを与えてみますか。


「もうお風呂の中に入れちゃうね」


 ザザ〜〜っと。一袋全部。


 食べるかな?


『ユラ、ユラーー。モグモグ♡』


「あ! 喜んで食べてる!!」


 なんか結構、夢中になってモグモグしてるのかも。カワユス!


『ユラ、ユラ。モグモグ』


 複数の触手で乾燥ワカメを口の中に入れる。でも、1本の触手は私の手首に絡めて離そうとしない。ふふふ、甘えたなのかも。

 それにしても、触手の触感が不思議だな。クラゲだけどベトベトしてない。ぬいぐるみみたいな質感だね。


「名前……。必要かもね」


『ユラユラーー』


 うーーん。

 これは単純だけど、


「ユラ、でいい?」


『ユラユラ♪』


「ふふふ。決まりだねユラちゃん!」


『ユラユラーー!』


 ああ、まさかダンジョンモンスターをペットにすることになるとはな。保護設備の整っていないワンルームマンションで買えるなんて前代未聞だわ。


 日が暮れました。

 コンビニ弁当で空腹を満たします。


「お風呂どうしよう?」


 ユラちゃんが浴槽を占領しているので、その横でシャワーを浴びることにします。


 ユラちゃんはお湯に触れても平気みたい。私の体をペシペシと触ってくるのでコショバイです。


 さて、落ちつきました。

 さっきの配信はどれくらいの再生回数かなぁ? いつもは100再生くらいだからな。今回は盛り上がったから200くらいはいきそうだけど? ふふふ。そうなったら自分の中では結構バズってるんだよね。プププ、しょぼい配信者だな。さてさてと、


「え!?」


 う、嘘でしょ?

 ゼロが1、2、3、4、5、6……。




「100万再生ーー!?」


 


 そんな!?

 どうして!?


『すごいぞ! 世紀の大発見!!』

『新種をついに見つけた!』

『こんなにデカイ新種は近年初だぞ!』

『凄い凄い!』

『これCGじゃないよね?』

『ダモ子ちゃん偉い!』

『詳細キボンヌ』


 ふはーー。

 コメントも千件超えてるし。

 こんなこと初めてだ。


 チャンネル登録者数は今まで12人だったのが、一気に2千人にも増えていた。しかも、まだまだ増える勢い。


 配信サイトとリンクしているヅイッターの登録者数も増えていた。

 昨日までは13人だったのが、1342人! およそ百倍。


「す、すごい……。あはは。本当にバズっちゃったよ」


 し、しかもこれ、半日だよ!?

 ま、まだまだ増えてるんだけど!?


 ヅイッターの問い合わせがすごいことになってんな。こんなの全部返信できないよ。


 ひぇええ……。

 なんかすごいことになってるぅ。


『ユラユラーー!』

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