社畜の私。配信中に新種のモンスターを発見し、バズり散らしたので会社辞めます〜ダンジョンクラゲと一緒に楽しくペット配信! はい? 会社に戻ってこいって? ないない、絶対に戻らないですw〜

神伊 咲児

第1話 新種みっけ!


「お前はこんな仕事もできんのか! このカスが!!」


 と、顎田あごた主任はテーブルを叩く。


 やれやれ。

 いつものことです。

 もう恐怖より疲れの方が追い越してますよ。


 顎田主任は出っ張ったケツ顎をブルブルと震わせて言いました。


「俺は帰るが、お前は残って仕事を片付けろ! いいな!?」

 

 はいはい。


「わかりました」


 こんなのは日常茶飯事です。

 もう3週間休みを取っていない。


 カタカタとキーボードを叩く日々。


 私の名前は、 治織じおり  博梛はかな

 22歳だが、童顔でチビ。

 よく中学生だと間違われます。

 胸でも成長してればな。もっと大人に見られたんだろうけどさ。こういうのは遺伝だから仕方がない。


 高校を卒業して、この会社に就職しました。


 ダンジョンモンスター研究管理株式会社。


 100種類以上のダンジョンモンスターを管理して研究する。それはもう胸が躍るような会社だ。さぞや楽しいだろう。と、思って入社したものの。


 配属されたのはシステムエンジニア課。


 ダンジョンモンスターの部屋の湿度や室温。照明のオンオフなど。自動制御でやっていることをシステム化する課だった。

 毎日見るのはモンスターではなく、アルファベットと数字の羅列。バグ修正に頭を悩ませる日々である。


 ああ、どうしてこうなったのだろう。


 主任の顎田さんにはこっぴどく怒られる毎日。加えてサービス残業だ。こんなブラックな会社、今すぐにでも辞めてやりたい。

 でも、なんの取り柄もない私が、会社を辞めた所で路頭に迷うのが関の山。退職なんて大冒険、とてもとても。


 私は単なるダモオタだ。

 ダモオタとは、ダンジョンモンスターオタクの略称です。


 ダンジョンモンスターって魅力的なんですよね。可愛くてカッコよくて。時には不気味で怖いヤツもいる。でもでも、そんな多種多様なダンジョンモンスターが大好きなのです。


 エナジードリンクをゴクゴクと一気飲み。


「プハーー!! やるぞぉ!!」


結局、その日帰ったのは終電ギリギリでした。


 次の日。


「キターー! 来ました!」


 念願のオフ!

 2週間? いや、3週間振りだろうか?

 何にしても1日休み!


 昼までは爆睡をぶっこいてしまいましたが、これからは趣味の時間ですよ、ニヘヘ。

 首にぶら下げているのはネックカメラ。片手には照明のついたスマホを構えます。

 準備万端。いざ出撃。

 目指すはダンジョンの入り口です。


「ふふふ。今日こそ見つけるぞ新種!」


 ダモオタの私がハマっている遊び。

 ダンジョン配信。

 配信中にダンジョンモンスターの新種を探す企画をやっています。といっても、チャンネル登録者数は12人しかいないので、めちゃくちゃしょぼいですけどね。


 もう30年以上になるでしょうか。この世界にダンジョンが出現したのは。そこは地下迷宮。ダンジョンモンスターと未知のアイテムが存在する不思議な場所。と、いっても、もう粗方は研究が進んでしまって、目新しさはありません。


 今の時代は新アイテムに新種のダンジョンモンスター。それらを見つけるのにワクワクする時代なのです。


 ダンジョンは上層、中層、深層と3種類に分かれております。深く潜るほどに新しい発見があって面白い。でも、深層部には強いダンジョンモンスターがウヨウヨいます。ですから、現在でも、深層部の研究は未知なんです。


 じゃあ、深層部に行くのかって?

 私が? そんなわけないじゃないですか。あそこはトップクラスの探索者でも帰って来れない恐ろしい場所ですからね。私なんか1秒と命が保たないでしょう。じゃあ、上層? 私は単なる社畜のSEですからね。鍛錬している探索者ではありませんから。ダンジョンの中に入るなんてとんでもありませんよ。


 なので、


「はい! 始まりました! 新種のダンジョンモンスター発見チャンネル! 進行役はダモオタ女史のダモ子です! 今日もダンジョン入り口を徘徊します!」


 私は配信者のダモ子になってダンジョンの入り口で新種を探します。

 そう、ダンジョンには入らないのです。期待した人ごめんなさい。

 ダンジョンモンスターは地上の空気に触れると消滅してしまいます。だから、入り口ならば絶対的に安心なのです。


 そんな所でどうやって新種を見つけるのかって? ふふふ。そこがこのチャンネルの見所なのですよ。


 ダンジョンの入り口は地面が隆起して地下鉄の入り口のようになっています。

 その壁沿いから湧き水がチョロチョロと出たりしています。そこにね、いるのですよ。新種が!


「さぁ、居るかなぁ? 無色スライムにホワイトダンジョンエビ。あ! 居ましたよ、ダンジョンタニシの幼生です。ちょっとスポイドで掬って水槽の中に入れて観察してみましょうか」


 ダンジョンモンスターは地上の空気に弱いんです。なので、ダンジョンから発生する湧き水の中に入れて観察する。そうすれば消滅することなくじっくりと見ることができるんですね。


 ダンジョンタニシの幼生。

 体長は2ミリ程度。


「ふふふ。可愛いですね。……あ!」


 ダンジョンタニシはジャンプして水槽から飛び出てしまいました。


 シュワァァア……。


「あちゃあ。消滅しちゃいました。そのまま戻してあげようと思ったんですけどね」


 お、視聴者が10人になりました。

 今日はいつもより多いですね。

 ふふふ。コメントくれてます。


『ダンジョンタニシ可愛いよね』

『跳ねるのが怖いけどw』

『今日は見つかるかな? 無色スライム』


 無色スライムは新種と噂される透明のスライムです。姿が透明なので中々見つかりません。噂の域を出ないのですが、見つけることができれば世紀の大発見ですよね。


「さぁ、居るかなぁ?」


 日がな一日、ダンジョンの壁を照明で照らして撮影する。これがダモオタ女史の休日の過ごし方。可愛い服や化粧品を買うわけでもなく、ずっと新種探し。

 ふふふ。いいのです。このワクワクは何ものにも変えがたい。


 新種なんて見つけたことはありませんが、もう楽しくて仕方ありません。起伏の少ない配信に、観てくれるのはもの好きな人だけ。今日も、今日こそ、新種を見つける、そう言って配信は終わるのです。それが私の配信でした。


 が、どうやら今日は違うみたい。


「はい? この突起物はなんでしょうか?」


 湧き水の出口に白い突起物を発見します。

 つまんで引っ張るとニュルンと伸びる。


「うわぁ! なんか出て来たぁ!」


 柔らかいけどこれ何ぃ?

 もう全部引っ張って出しちゃおっか!


ニュルルルン!


 それはサッカーボールほどの大きさがあるクラゲでした。ユラユラと宙に浮いています。


「あああ! ダンジョンクラゲだ!!」


 で、でも空気に触れたら消滅しちゃう!


『ユラユラ〜〜』


「うわぁ! 消滅しない!! しかも色が淡いピンク色で観たこともない体色だ!!」


 通常のダンジョンクラゲの体色は薄いブルーだから……。こ、これは、


「新種!? ダンジョンクラゲの新種だーーーー!! すごい! 世紀の大発見!!」


 コメントは荒れていた。


『ちょっwww』

『すげーーーー!』

『ダモ子ちゃんやったな!!』

『おめでとう!!』

『嘘でしょ? 空気で消滅しないってどゆこと!?』

『ワロタ』

『色がピンクだし!』


 な、なんかすごいことになってしまいました!




────

全15話で4万字程度。

完結保証です。

どうぞ最後までお付き合いください。

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