第9話 名を明かさぬ天才と乱れる義
孫策の建国から時は遡り、董卓が長安に落ち延びた頃の話をする。
董卓軍は洛陽で贅沢三昧をし、長安に落ち延びても民から容赦ない増税を繰り返して他所の待ちでも贅沢三昧であった。
まるで、今の日本人のような悪政だ。
無論、逆らう者には法律を捻じ曲げてでも惨殺を行い、正義を拒絶し、悪人を歓迎した。
おまけに、それ見て愉快に笑っていたのである。
これに対して王允らは董卓と呂布を離間を計り、連環の計で不仲にし、呂布に董卓を殺させた。
それ以降、呂布は王允を義父と呼ぶようになる。
王允は董卓軍すべての人間を殲滅し、中原の平和のために呂布を使って戦ったが、董卓軍には呂布や李儒よりも優れる男が存在した。
その男は、人から詰まらない男だと言われ、無能なやつだとも言われていた。
その男が才を隠していたのは、人が呼ぶ英雄に興味がなかったからなのか、董卓誅殺後に自分も殺される危険性を感じて名を明かさなかったのか、どちらか定かではないだろう。
名を軽々しく挙げる男ではなかった。
それだけは確かであろう。
その男が言う。
「王允とて呂布や元董卓軍とは価値観が違う。前者は義に忠実だが、後者らは私利私欲に忠実だ。可哀想に………そろそろ来るか………」
その男こそ賈詡 文和(かく ぶんわ)であった。
賈詡がそう言うと、そこへ呂布軍がやって来る。
呂布と王允は不仲となっており、呂布単独で来ることを予想していた。
無論、呂布は賈詡達を殺すつもりだ。
近くに居た李傕らが逃亡を提案する。
賈詡は悪人に使えることもせず、仮病を使って己の才能を一時(いっとき)とて貸さなかった。
しかし、悪人を嫌う賈詡はここで一計を案じる。
そう、賈詡にとって悪人同士の同士討ち、これが世のためでもあると考えたのだ。
「李傕様、逃げるのはいつでもできます。ここは一つ、戦ってみてはどうでしょう? ご安心ください。この賈詡に一つの計略がございます。」
賈詡が計略を説明すると李傕が最もだと思い、賈詡の言う通りに従った。
「お前たちは皆殺しだ!! 覚悟しろ!!」
呂布がそう言うと中から賈詡が出てきた。
呂布は賈詡を見るも誰か解らず、問答無用で殺しに掛かってきた。
「今だ!! 打て!!」
呂布が賈詡を斬り殺そうとしたところ、李傕らが呂布目掛けて矢を放つ、とっさの出来事に呂布が怯むと賈詡が言う。
「呂布よ。貴様では天下の役不足だ。『我は王允の命により貴様を殺す』!!」
そう言うと、呂布はまんまと勘違いした。
「おのれ!! 王允のクソ野郎め!! この俺を嵌めやがったな!!」
思わぬ奇襲に遭うと包囲されてしまったために一度突破して包囲を抜け出した。
周囲を見ると一人になってしまった。
無論、王允の計略ではないが呂布は賈詡の言うことを真に受けて二度と長安に戻ることはなかった。
大勝利を挙げた李傕らは賈詡の言った通り、呂布が洛陽に戻らない所を見ると即座に長安を攻めて王允らを殺害した。
再び、長安は悪の手に落ちたのである。
これにより、無名の賈詡はその頭角を現し、世間から危険視されることになる。
「賈詡の所為で中原の平穏が奪われたのだ!!」
と泣き叫ぶ者が現れるようになってしまった。
「例え、呂布が董卓を殺しても悪政は続くだろう。一時の平穏など何の価値があるというのか?」
李傕らが賈詡に尚書僕射の地を与えて多いに感謝するも賈詡は辞退してこう言った。
「不才の身である私には相応しくありません。よって辞退します。」
上の人間がゴミなら才能ある人間は力を貸してくれたりはしない。
人の才能を活かすなら、無能なゴミ人間が有能に地位を譲らねばならない。
もし、賈詡が上に立てば長安も少しはましになっただろう。
目先しか見えない李傕らには無理な話だ。
無能は有能を上におかず、李傕らが丞相となってしまう。
その後、王允の腹心らが殺されそうになるも賈詡が助け、李傕らが仲間割れしたときも、やはり、賈詡が助けたという。
無能らは賈詡をこう呼ぶ。
『縁の下の力持ち』と………
しかし、長安は乱れに乱れたために、献帝は長安を脱走し洛陽へ落ち延びることとなる。
献帝が居なくなれば賈詡も献帝を追うようにして長安を脱出する。
しかし、献帝が曹操を招き入れたために、賈詡は献帝の下へ行くのを断念した。
曹操は呂布の被害にあっている。
それは賈詡の計略によるものだ。
今の曹操は賈詡を許してはくれないだろう。
賈詡は華陰のところに落ち延たが、段煨という男が賈詡に己の地位を奪われるかもと嫉妬し、嫌がらせを受けた。
賈詡は華陰という男も無能と考えて、他の地へと旅立とうと計画する。
そんな時に張繡(ちょうしゅう)は賈詡と段煨のことを見かねて賈詡を引き取った。
賈詡はこれに応じると張繡に使えるようになり、手厚く迎えられる。
その後、賈詡は漢王朝のため、張繡に劉表との同盟を進言する。
賈詡は自ら赴き、張繡と共に劉表と会見し、同盟を結託させた。
解散した董卓討伐軍は袁紹が吸収する形となった。
袁紹軍はここで野心を剥き出しにする。
「この膨大な兵力、最早、董卓など取るに足らん。この袁紹が天下を手に入れる。」
文醜、顔良も頷きあった。
「そうです!! 最早我々に敵は居りません!!」
実は、袁紹は雨季の季節で大群を野営させ、硬直状態だった。
故に、食料も尽きてしまい、上の者だけが食料を貪る始末で脱走兵が後を絶たなかった。
「しかしよぉ………大義名分が無ければ俺たちが狙われますぜ?」
麴義が袁紹の天下取りに呆れる。
「そんなものなど、どうだって良い!! どっかの金持ちを殺して贅沢な暮らしをしようぜ!!」
文醜の言葉に袁紹もドン引きして言う。
「それでは董卓と何も変わらんではないか、私にいい考えがある。」
すると、袁紹は書状を2つしたためて片方は韓馥(かんふく)に、もう片方は公孫瓚に使者を送った。
まず、公孫瓚のところに届いた書状は、韓馥が董卓に繋がり、我々を狙っているとのこと、公孫瓚は袁紹を信用しているわけではないが、董卓と協定を結んでいるなら許せず、出兵した。
すると、韓馥の方にも書状が届いた。
韓馥の方では公孫瓚に野心が芽生えたために狙われている。
直ちに、対策せよ。
これを見た韓馥は大慌て、韓馥は臆病な成り金野郎故に戦を避けたいと考えてしまった。
名門袁紹なら義によって助けてくれる。
そう思ってまんまと袁紹に助けを求めて入城させてしまった。
すると、袁紹はまるで人が変わったかのようにして韓馥の富を奪い、贅沢三昧を兵士たちに味あわせた。
酷く後悔した税金食い虫の韓馥は金品財宝をある程度持って野に下ったという。
丁度、到着した公孫瓚は袁紹にまんまと嵌められたと理解した。
公孫瓚は弟の公孫越(こうそんえつ)を抗議の使者として送り込む。
公孫越は袁紹に韓馥の冀州(きしゅう)から出るよう要求したが、公孫越は袁紹に殺されてしまう。
これに公孫瓚の怒りは爆発、冀州を巡って両雄争う形となってしまった。
両雄激しくぶつかり合う中で袁紹は窮地に追い込まれてしまう。
「フン!! 名門が聞いて呆れるな。袁紹!!」
公孫瓚の白馬軍に囲まれてしまった袁紹は死を覚悟した。
しかし、そんな中で一人の男が切り込んできた。
これぞ麴義である。
「公孫瓚!! この麴義には手温い相手よ!!」
麴義は単騎で公孫瓚自慢の白馬陣を突破し、袁紹を助ければ無傷で逃れたという。
これにはあの公孫瓚も驚くばかりであった。
その後で公孫瓚は惜しみながらも言う。
「『麴義』さえ居なければ袁紹など木端微塵だっただろう………」
「はっはっはっは!! 袁紹、この俺様に感謝するんだな!!」
麴義に助けられた袁紹は麴義の傲慢な態度に感謝するどころかますます腹を立てていった。
麴義が袁紹を本陣に投げ捨てればこう言い捨てる。
「食料係でもやってろよ。名門さん………はっはっはっは!!」
麴義は多いに功績を稼いだ。
その頃、文醜、顔良は一人の男に手を焼くこととなる。
武力だけなら文醜、顔良は呂布にも引けをとらないだろう。
「クソ、なんてやつだ!!」
その男は長さ3mもある長い槍、涯角槍を持っており、剛腕でありながらも一切の乱れもなく鋭い攻撃をしてくる。
そのため、文醜と顔良は攻撃が見えなかったという。
この男こそ趙雲 子龍(ちょううん しりゅう)であった。
趙雲はとても穏やかで冷静沈着としており、一歩一歩歩むだけで文醜と顔良は追い詰められていった。
「なんだ? 二人がかりでそのざまは?」
そこへ麴義が現れると二人に嫌味を言い捨てて槍と盾を構えた。
趙雲は三人が相手となると表情も真剣になり涯角槍を強く握り締める。
すると先手を取ってきた。
武人に置いて背中、頭上を取られることは敗北を意味する。
趙雲は危険を顧みず一気に前へと詰めれば麴義に猛攻を仕掛けた。
激しい攻めの中で涯角槍のリーチに圧倒されてしまう麴義、そのリーチから余裕が生まれれば涯角槍を自在に操り不意を突こうとする文醜、顔良の攻撃も牽制した。
趙雲の猛攻撃を捌く麴義には余裕がない。
仕方ないので、返し技を狙うために趙雲の攻撃を誘った。
しかし、麴義が受け身になると趙雲は全力で攻め立ててくる。
あまりの速さに、返すはずだった麴義の槍を振り払われてしまう。
これには思わず文醜も驚いてこういう。
「なんてやつだ!! あの麴義から槍を振り払うとは!!」
だが、麴義もたった一人で公孫瓚軍を相手にする豪傑、趙雲の突きを盾と腕の間で受け止めて、その隙間で趙雲の槍を封じ込めてしまう。
槍を通す時に麴義の腕に切り傷が走ると腕が負傷して使えなくなる前になんとか涯角槍をへし折る。
すると文醜、顔良に命ずる。
「今だ!! やれぇ~~~~!!」
麴義の思わぬ防御術に流石の趙雲も驚き、折れた涯角槍で攻撃を捌くもリーチが無くなり、二人の豪傑を捌くも形勢は不利となった。
そんな時、劉備が現れたのである。
「我は劉備!! 義によって公孫瓚に助太刀する!!」
趙雲の勇姿に打たれた関羽と張飛は文醜、顔良を足止めする。
関羽は顔良、張飛は文醜と戦った。
劉備が趙雲を救出すれば趙雲は劉備に深い恩を感じてしまう。
形勢は公孫瓚に傾き、袁紹軍は一度冀州城へ退却してしまう。
公孫瓚は劉備を盛大に持て成せば公孫瓚の陣営に加える事となる。
両軍激しく戦う中で多勢に無勢であったが、被害はお互いに甚大であり、流れる血が多すぎるため戦は和睦となった。
一時の平穏が訪れる。
戦が終われば劉備は平原へと向かい、趙雲は劉備軍に志願するもそれを一時断り袁紹との戦に決着が着いた際には迎えると約束した。
多いに喜んだ趙雲は劉備の言う通り、公孫瓚のもとへと帰っていった。
平原へ落ち延びた劉備は刺客を送られてしまうも刺客は丁重にもてなしを受けたため、劉備を殺すのが忍びなくなり、自分の任務を劉備に話して帰っていった。
これを聞いた劉備は徐州の方へと落ち延びていくこととなる。
その頃、曹操が袁術の領土を一部占領し、徐州を攻略しようとしていた。
曹操も乱世の奸雄、故に親孝行をしようとして父親を招き入れようとしたが、徐州を通った後で盗賊に遭い、殺されてしまうと父親の仇として徐州に向けて全兵力を送り付けた。
この時、曹操は父親を殺した恨みを晴らさんばかりか、己の城を空城にしてしまった。
奸雄もまだ大義名分のために一心不乱で戦に望んだのであろう。
しかし、それが仇となる。
曹操に敗れた袁術は徐州と同盟関係にあるにも関わらず、援軍を拒否した。
これに対して徐州の太守である陶謙(とうけん)は絶望し病が悪化してしまう。
すると、平原に居た劉備が義によって少数だが曹操の包囲を突破し、援軍に駆けつけてくれたという。
これには陶謙も深く恩を感じてしまい。
劉備にこう申す。
「曹操軍は大軍、我らは少数、勝ち目はありません。劉備殿のお気持ちだけでこの陶謙は幸せです。どうぞ裏口からお逃げください。」
その言葉に劉備はこういう。
「確かに、曹操軍と戦いは厳しいものになるでしょう。従って、曹操に書状を送ってみたいと存じます。」
そう言うと劉備は曹操に使者を送った。
「曹操様、徐州から使者が送られてきました。」
曹操は書状に目を通すとそこにはこう書かれていた。
『私情は捨て、国難を救うべし、さすれば乱世も終わり、平穏が訪れましょう。ここで争えば、親を失う子供は増えます。どうか英断を………』
これを見た曹操は大いに怒り書状を使者に投げつけた。
「ふざけるな!! この曹操、劉備に命令される筋合いはないわ!! こいつを切れ!!」
曹操が命じると一人の者が曹操に知らせを届けた。
「曹操様、一大事です!!」
曹操は奥へと行くと長安から追放された呂布が曹操の城を次々と落としているということであった。
曹操は真っ青になって劉備の使者に返答する。
「すまぬ。この曹操、少々熱くなっていたようだ。劉備の言う通りにする。者共!! 引き上げるぞ!!」
劉備や陶謙らが使者の帰りを待っていると使者は役目を終えて皆に報告した。
「曹操は反省して退却の準備に入りました。」
その知らせを聞いて皆は多いに喜んだ。
翌日、陶謙は遺言を残してこの世を去る。
その遺言には徐州を劉備に任せるということであった。
無能は有能を己の上に上げることができないが、陶謙は違った。
しかし、琉弥は陶謙に子供が居たため、辞退する。
しかし、乱世から徐州を守るには英雄が必要である。
徐州の民を救って欲しい。
そう言われては劉備も断れなかった。
義によって劉備はこの遺言を受け入れて徐州牧となったのであった。
乱世における義とは今も変わらず、名を隠して義を貫く賈詡、義を利用して成り上がる袁紹、義と欲望に溺れる曹操、そして、人のために義を果たす劉備、義を誠に捉えるものこそ賢者で勘違いするものは馬鹿で臆病者であった。
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ここから下は解説編にいずれ書き込みます
ここだけ公開かな~?
孫策に奇襲を提案した男の名を出す前に、やはり、賈詡を出しておこうと思いました。
従って、申し訳ありません。
本来では、『え? どの道、郭嘉の言った通り、孫策は殺されるじゃん。』と思わせてから、そういった方々の度肝を抜くセリフを言わせようとしておりました。
なので、ここに書いておきます。
ネタバレになるので見たくない方はこの下のお話は見ないでください。
『孫策を今叩かなければ強大な国ができてしまい。攻略は困難になるでしょう………』
孫策を早めに叩いていれば『呉』という国はできませんでした。
それは、赤壁の戦いを有利に進められたかも知れません。
袁紹を滅ぼし、劉表も降伏、孫策に攻められていた所を助けられた劉繇は曹操の恩を感じて降伏、袁紹を倒すだけで天下統一が一気に近づいたことでしょう。
アンチと考えの足りない方々が作品に文句を付けていて、ファンが苦しんでいるならとここに記しておきます。
因みに、麴義ですが、麴義は元々韓馥の武将です。
しかし、韓馥は麴義に裏切られるために、早めに参戦させました。
公孫瓚が袁紹を窮地に追い込んだ際に助けたのが麴義でしたので真のエースは麴義であることを主張してみました。
麴義のお話をこれ以上するとネタバレになるので、今回はここまでにします。
麴義のご活躍をご覧あれ。
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