第3話 天下無双の呂布と名馬・赤兎馬

 董卓討伐連合軍は汜水関を攻略し、洛陽までは最早目と鼻の先であった。


 何故ならば、洛陽の目の前に虎牢関という関所がある。


 それ故に、洛陽からでも孫堅軍が見えるほどなのだ。


 虎牢関の前に陣を取る孫堅軍は陣内でこんな話をしていた。


「あれが虎牢関ですか、高いところから見れば、洛陽もここから見えますね。」


 将軍の程普が孫堅に言う。


 勝利は目前だと………


「洛陽を守っているのは、あの虎牢関という関所だけ、洛陽の民も我らの勝利を祈っていることでしょう。」


 副将の朱治が言う。


「だとしたら、早めに攻め落とすのが得策でしょう。長引けば董卓が民に何を仕出かすかわかりません!!」


 孫堅も同じ気持ちであった。


「だが、焦る訳にはいかない。奴らには『天下無双の呂布』が居る。」


 一方、洛陽では………


「何!!? 汜水関が1日で破られただと!!? 汜水関が落ちれば最早洛陽は目の前だぞ!!」


 董卓が僅か1日で関所が陥落したことに激怒する。


「董卓様、何を取り乱しているのでしょう? ここに『呂布』が居るではありませんか?」


 激怒していた董卓は呂布の言葉に安心する。


「おお、呂布か!! お前がいれば安心だ。孫堅軍を蹴散らしてくれ!!」


 董卓の言葉に呂布の血が騒ぐ。


「はッ、この呂布、伊達に『名馬・赤兎馬』を持っていないということをお見せしましょう!!」


 名馬・赤兎馬とは、1日に千里を駆けるという中国一の名馬であり、その赤兎馬が天下無双の呂布に与えられたのだ。


 呂布にとって、赤兎馬での出陣は初めてだ。


 武人として、赤兎馬を与えられ、戦争に生きることが出来る。


 これほど嬉しいことはないだろう。


「よく言ったぞ!! それでは呂布に屈強な兵士15万の内、10万を与えよう。孫堅軍など木端微塵にしてやれ!!」


 呂布は直ちに虎牢関の守りを固めた。


 孫堅の軍勢は農民の軍勢、正面から戦えば董卓の言う通り、木っ端微塵となる。


 孫堅の軍勢は、援軍が送られたとはいえ、たった1万4千、とても10万の精鋭には敵わない。


 孫堅が攻めようとして、対落石用に造らせた梯子を用意させると虎牢関の門が開かれた。


 何事かと思って見てみれば、呂布が軍を率いて出陣してきたのである。


「りょ、呂布だ~~~!!!」


 天下無双と言われた呂布、その名は大陸全土に広まり、農民の耳にも入るほど、呂布をひと目見ただけで、農民兵士らは散り散りとなってしまった。


「ひ、怯むな!! 俺たちを苦しめている呂布だぞ!! ここで一死報………ひゃ~~~!!!」


 果敢な農民が皆に活を入れようとするも圧倒的兵力と武装に恐れおののいて逃げ出してしまった。


「な、なんて数なんだ!!」


 孫堅が兵士たちに指示をする。


「対落石用の梯子を隠せ!! 呂布め………わざわざ打って出てきたか、しかし、呂布は孤立している。あの後方の大群は何なんだ?」


 呂布は一人で先に出てきた。


 呂布の軍とは、かなり離れている。


 たった一人で戦う気なのだろうか?


 孫堅が念のために兵士を下がらせる。


「大軍ですが、呂布は孤立しています。呂布を引き寄せてから矢の雨を降らせてやりましょう。皆の者、矢を構えよ!!」


 と朱治が言う。


「いや、この軍はそんなことで従わないだろう。おい、お前たち!! 呂布は単騎だ!! 皆で矢を構えよ!! 呂布を仕留めたものには褒賞を与えよう!!」


 孫堅の命令を聞いた農民たちは功績に目が眩み、逃げるのをやめて矢を構えた。


 孫堅が再び命を出す。


「そのまま引き付けろ!! 俺の合図を待て!!」


 農民は功に焦っている者たちも居る。


 無論、孫堅の合図など待つつもりもなかった。


「はっは、一番手柄貰った~!! 呂布!! 俺はてめぇのことが嫌いだったんだよ~~!!!」


 元華雄軍の2000の兵士が一気に前に出て呂布の首を狙おうとした。


「お、おい、待て!!」


 元華雄軍は烏合の衆、孫堅の命令など聞かず、功に走った。


 しかし、呂布の矢は元華雄軍を撃ち抜いたのである。


「ぐわあああ!!」


 これには孫堅も驚いた。


 あの距離から矢が飛んできたのだ。


 しかも、百発百中、鎧の隙間を的確に撃ち抜いてくる。


 天下が認める豪傑だけあり、弓も非凡である。


「あ、あの距離から矢を放って当てただと!!」


 2矢、3矢、続けて呂布が打ち続ける。


 命中、命中、次々と元華雄軍は射殺されていった。


「退却~~!! 退却~~!!」


 元華雄軍が敗走した時、孫堅が自分の軍に言う。


「『我々』も急いで『退却』しろ!! 早く!!」


 孫権軍は生きた心地がしなかった。


 孫権軍はすっかり士気が低下し、逃げ出すものも現れ始めた。


 呂布の名を聞いただけで皆が恐怖した。


 孫堅の退却命令は正しかった。


 呂布の赤兎馬は1日で千里駆ける。


 詰まり、逃げるのが遅ければ一方的に射殺されていただろう。


 現代で例えるなら、スナイパーライフル相手に剣で立ち向かうようなものだ。


 呂布の射程とはそれほどまでにすごいものなのである。


「フン、孫堅は逃げたか、口ほどにもない………これではつまらんな。」


 呂布が不服そうに本陣へと帰っていく。


 呂布の大勝利に董卓は大喜び、そして、孫堅の味方であるはずの袁術も孫堅の大敗に大喜びである。


「呂布か、恐ろしい男だ。もし、退却が遅ければ俺も死んでいたかもしれん。」


 孫堅は一度汜水関へと戻ることとなった。


 これを待っていたと言わんばかりに袁術が言う。


「なんじゃ? 半日もしない内にもう帰られたのか? 情けない。これだから田舎者の猿に戦は任せられんのじゃ!!」


 これを聞いた孫堅は激怒する。


 孫堅はこの連合軍に加わるために、董卓の虚報を信じ込む情弱な役人共を斬り殺してきた。


 現代で言えばN○Kに受信料を支払うゴミどものようなものだ。


 犯罪と傲慢なN○Kに金を支払うゴミ人間が居るように、董卓も肥えているのだ。


 資産家は特に無能や成金が多い。


 そういったゴミどもを切り捨ててきた孫堅は袁術も斬り殺そうとした。


 しかし、袁紹のことが頭によぎる。


「良いか袁術!! 貴様の兄でさえも命を賭けて董卓に刃を向けたのだぞ!! 貴様の行為は立派な兄を侮辱していることになる!!」


 これを聞いた袁術は思わず声を挙げる。


「なッ!!?」


 袁術が驚いているところを見れば孫堅も少しは応えたかと思いその場を立ち去ったが、道理を辨えぬ袁術は自分のことしか考えてなかった。


「お、己、孫堅め!! この私が袁紹以下だと!!? この屈辱………絶対に許さんぞ!! 何倍にでもして返してやる!!」


 立派な兄を愚鈍な兄と罵り、そんな愚鈍な兄よりも自分が下と見られていることが袁術にとって衝撃であり、耐え難い屈辱であった。


 無論、袁術は我慢などできない貴族様であるが………


「どうしたのだ弟よ?」


 そんな時、袁術の前に袁紹が現れる。


「転んで大怪我でもしたのか? あまり無茶はするなよ?」


 袁紹が袁術に手を差し伸べると袁術はその手を払い除けた。


「兄上はこれだから『愚鈍』なのです!!」


 その言葉に袁紹が何を言っているのかわからなかった。


「孫堅が私に刃を向けて侮辱してきたのですぞ!!」


 袁紹は袁術の言葉を全く信用しなかった。


「どうせ貴様が下らんことでもしたのだろう。良いか袁術、いつまでも弟だからと甘えるな!! 好きなことばかり、やりたいことばかりを口にする軟弱なゴミになるな!!」


 袁術は激怒して感情に任せてこんな事を言った。


「『したい』ことを『したい』と言って何が悪い!! 『嫌』なことを『嫌』と言って何が悪い!! 兄上はそうやって『遠慮』ばかりしているから『愚鈍』なのだ!!」


 まるでヤクザや無能な猿どもの言い分だ。


 袁術は激怒したまま自室へと戻っていった。


 そんな袁術を見て袁紹が困った様子でこういう。


「『我儘』ばかり言う。愚か者に育ってしまったか、兄であるこの俺が甘やかしすぎたのかもしれん………孫堅に詫びねばな………」


 袁紹は上質な酒を持って孫堅のもとへと出向いた。


「弟の袁術が無礼を申した。故に、この袁紹、お詫びを申し上げる。これは本の気持ちです。どうかお受け取りください………」


 その言葉に苛立っていた孫堅の心はすっかりと晴れていった。


「総大将………これはまた………我軍は農民の集まり、総大将を持て成せるようなものはここにはございません。ですが、必ず洛陽奪還を実現してみせます。我々はこれから夜襲を仕掛けますので………」


 袁紹は酒を受け取ってくれない孫堅を不審に思ってしまった。


 袁紹は本質が無能故に、孫堅が上司との付き合いが悪いと思い込んでしまったのだ。


 上下関係がなってないのは野心のせいか?


 そんな疑いをし始めた。


 丁寧に、夜襲の話をしているのに対してくだらん『上下関係』を重視するゴミ人間も多いのが人としての常だ。


 これを、老害と呼んでいる。


「しかし、今夜は飲みましょうぞ?」


 孫堅は袁紹の言葉に何を『言ってるんだ?』と思い始める。


 無能の考えはよくわからん。


「むッ!!? そろそろ時間だ!! 行くぞ!! では、我軍はこれにて!!」


 袁紹はこの孫堅の振る舞いに疑惑を深めてしまう。


「『我儘』な弟の所為で、この俺まで疑われてしまったのではないだろうな?」


 最大の問題は袁術にあった。


 袁術のせいで袁紹も狂い始めたのである。


 それをストーカーのようにして見ていた袁術が部屋から蜂蜜水を飲みながら言う。


「10万の兵に5000の農民が敵うわけ無いだろう。孫堅なんて死んでしまえ!!」


 しかし、孫堅は袁術の期待を大きく裏切ることになる。


 孫堅軍は皆が不平不満を言う。


 呂布と戦いたくないからだ。


 孫堅が笑っていう。


「ふっはっはっはっは、安心しろ!! 我々には20万の兵力がここに居る!! 今夜の夜襲は我々は見ているだけだ!!」


 そう言うと、孫堅は馬の餌である藁を前にして皆に言った。


 農民兵士らは孫堅がおかしくなったのではと疑ったくらいだ。


 しかし、孫堅は藁で天下無双の呂布を打ち取るつもりでいる。


 しかし、我々人間は藁にも敵わないほど弱い存在でもある。


 果たして、孫堅は何をするのだろうか?

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