第2話 正義の連合軍
悪徳非道の董卓政権から人々から怨嗟の声は止まず、曹操が董卓暗殺を決行する。
しかし、失敗に終わり、逃亡するも世界的指名手配犯とされた曹操は大陸全土から命を狙われることとなる。
追い込まれた曹操が妥当董卓のために、天下へ檄文を放ったのであった。
「我は天子の密命を受け、逆賊董卓の暗殺を決行するも失敗に終わり、逆賊呼ばわりされる始末、董卓が政権を握るようになってから悪逆非道が続く。大義名分はこの曹操にあり!! 打倒董卓を志す同士は約束の地で待つ!!」
董卓の悪政は明白、曹操の檄文に心打たれた者は多い。
北からは公孫瓚、馬騰、東からは袁紹、南からは袁術に孫堅、曹操の下に英雄らが集結した。
「これほどまでに太守諸侯が集まってくれて、心強いですね。曹操。」
曹洪が感動して思わず曹操にいう。
「ああ、だが、喜ぶのは董卓を討伐してからになるだろう。」
曹操は日夜追われており、生きた心地がしなかった。
今の曹操には董卓を消さない限り安息は訪れないだろう。
そして、曹操は一度は汚名を受けてしまった身、総大将となるには世間体に関わる。
総大将は名家の者が引き受けなくてはならない。
『乱世の奸雄』である曹操の『奸計』である。
これは、味方が裏切らないための計らいでもあった。
曹操は董卓さえ殺せれば総大将などはどうでも良かった。
「さて、総大将の話だが………」
曹操が皆の前で最も重大な話を口にする。
「総大将だと? そんなの名門の出であるこの袁術様に相応しい。曹操ごとき指名手配犯の罪人が立候補するものなら、この袁術様が有る事無い事言いまくってやるわい!! ひーっひっひっひっひ!!」
そう、小声で袁術が言い企む。
それをなんとなく察知する曹操と孫堅、劉備に公孫瓚、並びに、馬騰。
曹操以外の切れ者たちが曹操のお手並みを拝見する。
「総大将は無論、私だ!!」
しかし、曹操は強気にも自分が総大将だと申し出る。
これには皆が度肝を抜かれてしまう。
「と言いたいところだが、この曹操は帝(みかど)の命を一度失敗し、罪人になってしまった身、総大将を名乗っても帝とて不安であろう。故に、帝を安心させるために『名門・袁紹』を総大将に指名する!!」
この言葉に袁紹が驚いて平服する。
その結果に強欲の袁術も口出しができなくなる。
「くそ!! よりによって兄上が総大将だと!! 面白くない!!」
これで袁術も動けなくなる。
曹操は平伏する袁紹を称賛する。
「この男なら天下平定も夢ではない………」
しかし、袁紹は遠慮して断りを入れる。
「曹操、何を言う。総大将は私ではなく曹操、お主が名乗るべきだ。」
袁紹からすればそれは最もな意見だ。
数日前の話になる。
「この董卓、思うに天子は学に疎く、礼儀も辨えず、天子の器ではございません。よって、天子を協王子を新しい帝にすることにしました。わかりましたね?」
董卓は私利私欲に正直な男だ。
現帝はよく欠伸をして悪態を皆の前でつく。
同じ子供でも協王子は悪態もつかず、厳しく育てられた。
いや、厳しいというよりは劣悪な環境で育ったと言ったほうが正しいだろう。
学にも精通し、礼儀作法も強要された。
現帝の悪態はまるで董卓自身そのものでもあるが、董卓同様、無能故に己を直そうともしなかった。
天子を勝手に臣下が決める行為は異常なことだ。
これに対して一人の男が異を唱える。
これぞ『袁紹』であった。
「意義有り!! 天子というものは臣下が勝手に決めるものではありません!! 董卓!! 貴様、何を考えている!!」
袁紹が董卓の本性を暴こうとすれば隣に居る『呂布』も黙ってはいない。
このままでは袁紹が殺されてしまう。
そんな時に、一人の男が割って入ったのである。
これぞ『曹操』であった。
「袁紹、度が過ぎるぞ………どうしてもというのならこの私が相手をしよう。」
袁紹と曹操は友人でもあった。
袁紹は死を覚悟して立ち向かったが、友に裏切られた思いであった。
「曹操!! 貴様!! 同士だと思っていたが見損なったぞ!!」
そう言って袁紹はその場を去っていった。
董卓は曹操を大いに気に入り、腹心にした。
そんな出来事が過去にあったのだ。
「あの時、私は曹操、君を酷く軽蔑した。しかし、今思うと、『友』の『真意』も『見抜けず軽蔑』していたあの頃の私が恥ずかしい………」
其れを聞いた曹操は袁紹に慰めを言う。
「あの時、董卓に刃を向けた袁紹は紛れもなく『英雄』であった。そんな親友に軽蔑されても俺は『恥』とは思わん。寧ろ、親友として『誇り』に思っている。」
この話を聞いた太守諸侯らは異論を誰も唱えなくなっていった。
曹操は誓うのであった。
(待っていろよ董卓、例え天下の豪傑・呂布が貴様の味方になっても、この俺が許さん!!)
曹操の奸計は討伐連合軍の結束を深めていったのである。
そして、名家の袁紹が総大将になることで連合軍の強大さを知らしめることとなる。
これを耳にした洛陽の民たちは打倒、董卓も夢ではないと期待を膨らませるのであった。
「『洛陽』を破るには、この『汜水関』と『虎牢関』を破らねばならん。そこで、汜水関攻撃の先陣だが………」
総大将の袁紹が会議を始める。
それに対して曹操が続く。
「我と思わん将軍はおられるかな?」
将軍各位はしばらく黙っている。
そんな静寂を一人の男が破る。
「この『公孫瓚』が戦陣を切りましょう!!」
公孫瓚の軍には旧知の部下が加わり、その者こそかの有名な劉備、関羽、張飛であった。
彼らは生死を共にする『桃園の誓い』を交わし、義兄弟となり、漢王朝復活を目指す者達でもあった。
公孫瓚の立候補に張飛は大いに喜んだ。
しかし、他の者も名乗り出たのだ。
これぞ『江東の虎』と呼ばれた『孫堅』である。
「いえ、先陣は名将である公孫瓚が出るまでもないでしょう………ここは一つ、この孫堅にお任せください。」
これを聞いた公孫瓚は大いに不満を唱えた。
「『江東の虎』よ!! この公孫瓚では『不足』と申すか!!」
それに対して孫堅はこう論じる。
「『先鋒』は『様子見』、様子見から『本命』を出してしまっては、『疲弊』してしまい、『本戦』に破れてしまっては『士気』に関わるでしょう。」
この言葉に曹操は最もだと思った。
しかし、公孫瓚は大義名分と正義の炎は燃え盛り、譲る気がない。
そこで曹操が提案する。
「なるほど、孫堅の言う通りだ。ここで『主力』を『疲弊』させては、『呂布』との『戦い』で『支障』が出よう。ここは一つ、『孫堅』に『呂布』を誘き出させてみてはどうでしょう?」
その曹操の言葉に公孫瓚は思わず声を挙げる。
「し、しかし、この私も正義のために逆賊董卓を………!!」
袁紹が口を開く。
「焦るな公孫瓚、戦いはまだ始まったばかり、『天下の白馬陣』には本命の呂布で働いてもらいたい。ここは一つ、孫堅に任せようではないか………」
公孫瓚は納得できず歯を食いしばる。
逆賊・董卓を討つ機会をずっと待っていたからだ。
誰よりも早く先陣を切りたかった。
しかし、それは叶わなかった。
無論、孫堅の言うことが理に適っていることはわかっている。
「この孫堅、必ずや呂布を引きずり出してやりましょう!!」
孫堅が戦の準備をすれば曹操がそれを本陣から見詰める。
「流石は孫氏という『大軍師の末裔』だ。あの男なら我らの思いに応えてくれるだろう。」
公孫瓚の陣営では、張飛と公孫瓚が荒れていた。
「くそぅ!! 俺たちが帝を一番にお救いしたかったのによ~!!」
張飛が酒の勢いに任せて怒鳴り散らかす。
「全くだ張飛よ。私も先陣切れずで悔しいばかり、真っ先に帝をお助けするために名を挙げたいと申すのに!!」
これに対して劉備が二人を宥める。
「はっはっは、戦いはまだ始まったばかりです。それに、この戦は厳しいものになるでしょう。」
その言葉に続いて関羽が言う。
「そうだぞ弟(張飛のこと)よ。この戦には『天下無双』の『呂布』がいる。必ず、我々にも出番が回ってくるだろう。」
誰もがこの戦で多くの命が亡くなることを覚悟していた。
袁術はどうかは知らんが、孫堅はこう考えていた。
この戦を即座に終わらせて帝をお助けし、江東の地へ帰る。
別に、天下を一度取ればそれでいい。
その後は曹操に任せるとしよう。
そう考えていたのだ。
詰まり、孫堅はこの戦で多くの命を犠牲にするなど考えてもいなかったのだ。
そして、その結果は孫堅の思った通りになる。
董卓軍自慢の豪傑・華雄が汜水関を任された。
「華雄将軍、討伐軍の孫堅が攻めてきました!!」
華雄は孫堅の軍勢を城から眺めて罵った。
「なんだあの『農民』共は!!? 我々(貴族)が『農民』に負けるとでも思っているのか!!」
華雄の言葉に部下たちも口々を合わせて孫堅軍を罵る。
「全くですよ。これなら俺たちが戦うまでもなく、『落石』で十二分かと………」
落石とは、城や城壁の上から岩を落として敵を攻撃すること、この時代では鉄砲も大砲も存在しないので攻城戦は困難なものとなる。
「あんな農民共に城が落とせるわけがない。酒でも飲んでゆっくりと見物してようではないか………」
華雄は己が農民以下であるということを一度だって疑ったことはないだろう。
毎日筋力トレーニングをしており、自慢の二の腕は丸太のように大きく、腕力だけなら呂布の次に並ぶと過信していた。
「筋肉は裏切らない!!」
そう言って、華雄は筋トレを熟していた。
酒を用意して落石を見物しようとしていたが、酒が届く前になにやら騒がしい様子、華雄はもう落石が始まったのかと思って部屋からのこのこと出てみたのである。
するとそこには孫堅軍の農民共が城に雪崩込んで来た。
華雄が慌てて武装をすると後ろからこんな声が聞こえる。
「華雄!! ここまでだ!! 孫文代、ここにあり!!」
華雄が慌てて跪けば恥を捨てて命乞いをした。
「ひぃ~~~!! 私は呂布と董卓が怖くて裏切れなかったのです!! どうか命だけはお助けください!!」
命乞いに孫文台は大いに笑った。
「立派な大人である豪傑・華雄に怖いものがあるのか!!」
華雄はこれを聞いてしばらく理解できず、相手を見れば自分の筋力の方が上なのではと考え始めた。
「なんだ。しょぼい筋肉しやがって、『江東の虎』と聞いて、どれほどの男かと思ったが、こんな弱そうな男か………」
華雄が本性を露せば、孫文代に刃を向けてきた。
「よせ、筋トレしかしてないその体では、この孫文台の刃は避けられんぞ?」
孫堅が忠告すれば無論、無能な華雄にはその言葉の意味もわからず攻撃に転じる。
「黙れ青二才が!!」
華雄の剣が空を切れば孫権が後ろを取って背中から『ドス』っと音を立てて剣を突き刺した。
肺が突き破られれば血液が口から溢れ出てきて溺れるような感覚が華雄を襲う。
普通、溺れるというのは水が外から入ってくるが、この場合は内から水が溢れてくる。
長く息を止めたこともない華雄にとっては、不思議な感覚で異常なほどの苦痛だった。
「筋肉は裏切らないとか言ってたな。よくわからんが、『剣技』に『裏切られた』な。」
華雄は血を吐きながらこう言った。
「ど、どうやって城の中に………」
汜水関の物資は豊富だった。
しかし、それを活かせる武将が汜水関には居なかった。
「お前らのために、この『孫文台』が『発明』した『梯子』の『威力』も発『揮せぬ』まま『終わった』わ………全く、『準備万端』で望んだ『自分』が『恥ずかしい』………もっと『頭』も鍛えるんだな………」
その言葉に華雄が最後の断末魔を挙げる。
「この無能共が………ぐふッ!!」
そう言って華雄は息絶えた。
孫堅は剣を振り払い華雄の服で血を拭き取り鞘に収めてこう言った。
「『呂布』はこういかないことを願っておくか………」
孫堅は汜水関を制圧し、民を安心させ、討伐連合軍の総大将らを迎え入れた。
この功績に民たちも大喜びし、袁紹、曹操らも大いに孫堅を労った。
正義のために先陣切りたかった公孫瓚、並びに張飛も民たちの笑顔を見て肩の力を抜き、孫堅に敬服した。
「孫堅、お前には負けたぞ………」
公孫瓚に続いて、張飛は大胆にも孫堅の方に腕を回して言う。
「全く、お前には参ったよ。がんばれよ………」
皆が孫堅を称える中で一人の男がそれに嫉妬の炎を燃やしていた。
これぞ『袁術』である。
「クソ!! クソクソクソクソっそ~~~!!!! 田舎者の分際で!! 農民の分際で!! チヤホヤされやがって!! 面白くもない!! イマニミテイロよ………孫堅!!」
袁術は孫堅への逆恨みに憎悪を燃やしていた。
果たして、孫堅は無事、虎牢関を攻略し、洛陽を奪還できるのだろうか………
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