三国志~龍虎演舞~
飛翔鳳凰
第1話 黄巾の乱と江東の虎
「蒼天已死 黄天當立 歳在甲子 天下大吉」
人の世とは、義を通せば善人が貧しくも心豊かに暮らし、不義を貫かれれば善人が泣く。
他人の命を軽んじるも己の命は重んじ、外道が笑えば民は泣く。
漢王朝は既に死に、黄天立つべし、しかし、黄巾の乱で集められた兵士など、天下の豪傑、『呂布』の敵ではなかった。
流行り病により張角無き後、黄巾の群れは烏合の衆と成り下がり、善悪の区別もつかず、民は朝廷に税を払い、黄巾の残党から『天下のためだ』などと略奪をされる。
結局無能は無能、機転の利かぬ者は外道を行う。
そんな中、ある日のこと、一人の男が孫氏の兵法書を読んでいた。
年にして17、日本で言えば高校2年生、彼こそ『軍神』と呼ばれるに相応しい男であったかも知れない。
「孫堅、こんなところで兵法書に耽るか?」
孫堅の末裔は『大軍師』の末裔であり、孫氏の兵法書が作られたのもこの末裔が居たからである。
「『やんちゃ』ばかりしていた『俺』が『書物』に『耽る』か………そんなことを言われる日が来るとは、俺自身も思っていなかった………」
その言葉に孫堅の叔父は驚いた。
17歳にして己を過信せず、地に足を着けている。
己というものを完全に知り尽くしてしまったのだろう。
「孫氏曰く、己を知り、敵を知れば百戦危うからず………17歳ともなればそこらへんの猿なら己を天才だとか神だとか、妄言を吐くものだろう。しかし、貴様、『己』というものを既に『第三者の視点』から見るか、その心意気や良し!! それを常に怠るでないぞ………良いな?」
その言葉に対して孫堅はこう答えた。
「それは無理な話でしょう。私ごとき、そこらの猿より道理を辨(わきま)えていても、まだ17に変わりはありません。『17』で『世界』を『取る』ことなどできましょうか?」
叔父の言葉に孫堅は笑って答えた。
「年柄にもなく期待に胸を膨らませてしまったか、儂もまだまだ青いわ!!」
叔父は己の未熟さを笑い飛ばした。
しかし、次にこの期待は間違いでないことを知り、孫堅の才能に恐れ慄くのである。
「海賊が来たぞ!!」
孫堅の住む村は平穏であった。
しかし、江東の地は海に面しており、海賊の被害が相次いだ。
「おらおら!! この『大海賊』である『甘寧』様が貴様らの金を奪いに来てやったんだ!! さっさと金品差し出せや!!」
甘寧とは、後に孫権の武将となる男、剛勇ではあるが知力にかける男であった。
甘寧はまたいつものように金品財宝を略奪しようとしていた。
しかし、海賊船に一人の男が忍び込む。
その男はたった一人で荒くれ者の巣窟に無謀にも飛び込んでいった。
そして、乗組員を踊り殺し船を奪い取ってしまう。
「ふっはっはっはっは!! 大海賊の船、この孫文台が貰ったぞ!!」
村を襲ってから海賊が帰ってくるまでの出来事であった。
孫堅はたった一人で大海賊の船2隻(せき)を制圧したのだ。
17歳の男がたった一人で海賊船を2隻も手中に収めたのである。
「な、何だと!!? 俺たちの船は戦艦だぞ!! そんな戦艦2隻を制圧しただと!!?」
孫堅は甘寧のことを愚かな男だと思っていたが、非凡であると思った。
「あぁ、俺一人でやった!!」
その言葉に甘寧は的ながらも感服してしまう。
「甘寧とか言ったな………金品を置いてとっととこの村から消えろ………」
孫文台が甘寧を上から見下ろして忠告する。
しかし、甘寧は『海賊』、そんな約束など聞くはずもない。
「『おっと、船に乗る時は下から入れよ?』」
甘寧は孫堅の言葉に従った。
それも今だけである。
そう自分に言い聞かせた。
だが、甘寧は戦艦内の光景に驚愕し、考えをすぐに改めることとなる。
「ば、馬鹿な………こ、こんなことが!!?」
戦艦内に居たのは無惨にも大量殺害された仲間たちだった。
その夥しい死体の数々に甘寧の戦意も喪失した。
そう、急に自分の命が惜しくなったのである。
しかも、これで17歳だという。
その伝説は末永く語り継がれるであろう。
甘寧は生まれて始めて悔しさを知った。
「くそぉ………いつか絶対殺してやる!!」
孫堅は甘寧を優しく叱った。
「賊に生きるな………また会おう………」
孫堅は甘寧を愚か者と理解しているが、こんな愚か者でも改心すれば世のためになるのではと考えた。
賊が改心するか試したのである。
故に、『甘さ』が出てしまったのだ。
その後、孫堅の噂は広まった。
17歳で海賊をたった一人、単身で躍り込み、皆殺しにした男だと………
村では、すっかり英雄となった孫堅、それを称えて皆が敬服する。
「流石は『大軍師の末裔、孫文台』だ!!」
祭りができるほど裕福な村ではなかった。
しかし、民の心は孫堅に集まっていた。
世は乱世でも江東の地では孫堅が守ってくれる。
人々は彼を『江東の虎』と呼んだ。
やがて月日は流れて、董卓が朝廷を牛耳るようになり、曹操が董卓の暗殺を試みるも失敗、難を逃れた曹操は指名手配犯となり、大陸全土から命を狙われる身となる。
その後、妥当董卓のため、天下に檄文を飛ばすのであった。
「我は帝の密命を受け、逆賊董卓の暗殺を決行するが無念にも失敗に終わり、この地に逃れた!! 天は我を見捨てず大義名分のため、同士に告げる!! 打倒、逆賊董卓!! その志を持つ同士はこの地に集まれ!! 我らが正義だ!!」
その檄文は孫堅にまで届くこととなる。
孫堅は叔父に言った。
「私一人では『世界』を取ることはできない。しかし、国賊は見過ごすことができません。腐った役人共が多い中、国を救うために好みを捧げようと思います。」
この言葉に叔父の血が騒ぐ。
「孫堅よ。この老いぼれの体を壊す気か? 儂もまだまだ若いわ………良かろう。しかし、『天下の豪傑』と称えられる『呂布』が『敵』となるだろう。奴は『江東の地』だけではなく『天下』に『認められた豪傑』、だが、お前なら『奴』にも負けんだろう!!」
己を知り、敵を知る孫堅はこう答えた。
「甥がそう申されれば心強い。この孫文台の『才』を存分に発揮してくることにしましょう!!」
そう言って孫堅は息子の孫策、周瑜、程普、各々の名高る武将を引き入れて天下へと打って出たのであった。
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