第2話 実習開始
今日はついに実習の日である。朝、目覚めたときはさぼってやろうかと思ったものの気づけば家を出ていた。今日の目的地は学校ではなく転移門と呼ばれるこの都市に設置されている移動用の装置だ。この街にある別の転移門まで一瞬で移動できるものであり、今日は都市の外側の近くにある門まで移動することになっている。
「到着っと。」
天掛は地下に設置された転移門に続く階段を下り、無事に受付までたどり着いた。
ええと、たしかチケットを職員に見せればいいんだっけ。普段来ないとよく分からなくて困る。つーかここのチケット便利な分高いんだよな。今回みたいに学校からチケット配られないとここに来る機会はないしな。
チケットを見せてから転移門の前まで来た。前も思ったけどこれダンジョンの侵入装置に似てるんだよな。正方形の囲いに謎の霧というか空間の歪み。もしかして同じところが作ってたりするのかね。
―平原 結界の手前―
天掛が門を通り、地下の施設から出るとそこは豊かな平原に奥の方には森林が広がる緑が溢れた景色があった。
おおー緑だなぁ。ここは保護区でダンジョンから出てくる怪物以外にも野生の怪物がいるらしい。なんでわざわざ保護区にしてるかだって?街に展開してる結界には限りがあるからな。人が住んでいない所には省エネのために結界は展開しないんだよ。しかも意外と野生の怪物ってのがダンジョン産の怪物を抑えてくれてるからここは特別に保護区って訳だ。
「もうここからでも見えるくらいに怪物がいるな。」
時間まで携帯でもいじっていようと思ったら、三十木が話しかけてきた。
「三十木、おはよう。」
「おはよう。今回は一班あたり30体倒すと終わるらしいよ。」
「30かー。結構、数が多いんだな。去年は20くらいだったっけ。」
「そんなもんだったな。ま、どうせ時間が過ぎるまでは実習は終わらないんだからのんびりやろうぜ。」
平原には巨大なカエル、ナメクジ、カタツムリの怪物がそこかしこに見られる。
「あれらは森から出てきたんだろうな。弱い個体はこっちの平原に追いやられてんだろうよ。」
「そうなんだ。」
三十木はへぇーという顔をしている。
「多分な。」
それから俺たちは特に話すこともなく静かに自分たちのクラスの集合場所で実習が始まるのを待っていた。
「では、今日の実習のルールを軽く確認するからよく聞いておくように。」
俺がよく知らない男性の先生がした説明をまとめるとこうだ。
・平原から森の手前まで行って帰ってくるくらいで駆除数はちょうどよくなる。
・森の方まで近づくけど原生の怪物は危険がなければ倒してはいけない。
・大体一班30体くらい駆除してくれると平原には見当たらなくなる。
・他の班の邪魔にならないように十分に距離をとること。
・今日は雨じゃなくてよかったね。
・怪我をしないようにがんばれよ。
去年の感じを考慮すると他の班はぎりぎり目視で見えるくらいだな。この平原ははっきり言って広すぎるんだよな。一班あたりの個体数が去年より増えてるのは多分去年と場所が違うからかな。二年生の担当エリアだから去年より怪物が多かったりするかもしれん。
「確認も済んだし、そろそろ始めるぞ。担当になったエリアまでそれぞれの班は行って、準備ができ次第、教員に連絡を送ってから活動を開始せよ。」
先生の言葉に学生たちはぞろぞろと動き始めたのだった。
―平原―
「こちら二年三組の27班、エリーズ レフテンシア行動を開始します。」
『了解。報告は班の番号だけでいいですよ。』
俺たちはとことこと広すぎる平原を歩いて班が担当するエリアに着いた後、レフテンシアに報告を任して行動を開始した。
「いるな。」
天掛たちの前に三匹のカエルが近づいてくる。体長は大体1mくらいで毒々しい水色をしているが人に毒はない。厄介なのは体表に粘液を纏っていることで攻撃を当てると飛び散って服にかかることだ。
「私が凍らせるから後ろから魔術を叩き込んで。」
先頭を三十木とともに歩くメデアナが言った。
「凍りつけ!」
カエルの足元から円形に魔術が発動し、見事に三体は動かない氷像となった。
「お見事、砕け!」
三十木の背中から白く不気味な手が現れ、拳骨で氷像を砕いた。
「俺らいらねえな。」
「マナが切れる前にちゃんと言ってくださいね。三十木さんの役割は天掛さんに代われますが、メデアナさんは粘液を凍らせるために毎回魔術を使いますから。」
「うん。でもこれならあと三十体分はもつかな。」
こんな感じで俺らの班は順調に森までの道を進んでいく。
「今、何体くらい倒したんだ?」
もう森が近いところまで俺たちは進んでいた。
「今のカタツムリで27体目ですね。」
「いやぁ~すっごい順調じゃない?もうすぐで森だし、私ら誰も汚れてないし。」
「汚れるって言っても俺たちは全員かっぱ着てるけどな。」
俺たちの学年は必須の道具と伝えられていないにもかかわらず示し合わせたかのように全員が身に着けるタイプの雨具を装備していた。
「天掛、そりゃ俺たちはいいけどなもし全身にかかったら普通に中まで汚れるかもしれないからな。そうなったら女子は終わりだぜ。」
「そうですね。金銭的にも絵面的にもアウトですね。」
「そうだねぇ。ま、さすがにそんなに高い装備はつけてないけど。」
雨具以外の装備は三十木とメデアナさんが腕輪型の魔術補助道具、俺が短杖、レフテンシアさんは
「レフテンシアさんの錫杖は結構高そうに見えるぞ。」
「これは汚れても服に比べれば不快感はないですから。」
「そうか。ん、水たまり? こっちは雨が降ってたのか。」
そうやって天掛たちが余裕をかましていた時のことだった。彼らの目の前にあった雨上がりでできた水たまりが動き出し、巨大なトカゲのような形になる。その大きさは一台の大型トラックほどになり、こちらを向いた。目はなく、口だけがあるまるで子供が粘土で形だけ整えたような奇妙な見た目をしたそれはこちらに近づいてくるのであった。
俺は考える。あれが何なのかを。上級ダンジョン、奇妙な形、変形スライム、スライム、受肉、巨大、汚れる...。
「あいつはなんだ!」
三十木が焦る。
「ふん、襲ってくるならしょうがない。悪く思わないことね。凍れ。」
メデアナは咄嗟に魔術を発動する。
液体トカゲの足元から円形の魔術が発動し、少し動きを止めるが、すぐにそれは動き出した。
「うそ!」
「あれはおそらく上級ダンジョンの変形スライムだろうな。魔術に対する抵抗力が大きいんだろう。巨大化してるってことはボス個体か。」
「天掛くん、知っているなら何か対処法はありませんか?」
「まあ、幸いそんなに強くないから普通に戦えばいけると思うな。」
あれは倒すだけならいけるが、最悪なことに受肉してやがる。体積的に俺ではどう倒しても汚れるのは避けられないだろうな。あのスライム、泥みてぇな色してるし。よく見ると平原の草が混ざり込んでやがる。
「そうですか。」
「天掛、知ってるならお前が倒してくれねえか。」
「火力で言えば三十木でも十分に倒せる。ここは汚れにくいお前がやったらどうだ。」
「そうは言ってもな。俺は強い怪物とかあんまりダンジョン行かないから戦ったことないわけよ。そこは慣れている専門家の天掛がやったほうが。」
「俺も上級は行かないしな。二人でいくか?」
「お前が先頭な。」
二人の間に沈黙が訪れる。
こいつこのスライムがある意味とんでもない強敵ってことに気づいてやがる。
「メデアナはどうだ?もっと高威力の魔術であれば余裕で凍ると思うんだが。」
「あっそうか。 ...私の魔術はさっき効かなかったしなぁ。どうする?エリーズ。エリーズの雷の魔術は威力が高いし、余裕だと思うんだけど。」
メデアナも俺たちの会話からなんとなく察しがついたようでエリーズにさりげなく誘導し始めた。
「い、いや。そんなに雷の魔術って見た目よりあれ、ですからね。痺れちゃうだけだになっちゃってね、はい、とても、そう、今の状況ではなぁ~。」
レフテンシアは冷や汗を流しながら苦笑いで答えた。
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焦り始めたパーティメンバーたち、彼らの運命は如何に。
次回、大爆発
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