最悪の実習編

第1話 六月の最悪な行事

六月中旬 教室 朝 雨


 梅雨、じめじめとしたこの季節は微妙な蒸し暑さと共に最悪な行事を我々にもたらす。

 そう、六月は何かのキャンペーンでもしているのかダンジョンが大量に観測され、怪物が外に出てくるようになる期間も一週間程度に大幅短縮、いつもの三ヶ月の猶予はなんだったんだ。ふざけんなよ!えぇ!

 失礼。そんなわけで魔術学校には毎年の行事として出現した怪物を駆除するという実習がある。いい実戦の機会とか学校は言っているが要は雑用を押し付けられているだけだ。まあ、ここまでなら俺も許してた。むしろ日頃のストレス解消にちょうどよかっただろう。だが、外に出た怪物は受肉しているんだ。ダンジョンみたいに死体が消えてなくならないから服が汚れる。しかも出てくる怪物はカエルにナメクジ、カタツムリと周囲に謎の粘液を撒き散らす3Kな精鋭だ。去年は学校に騙された。でろでろの粘液まみれになった俺は全身を使って同じ班の仲間を道連れにしてやった。後ろで笑ってっからそうなるんだよ。アハハハハハハ。はあ。

 だから今年の俺は一味違う。同じ轍は踏まない。同じ轍を踏むのは俺以外だけだ。




「天掛くんはどう思います?」


 そんなことを思っているとレフテンシアと三十木がこちらに問いかけてきていた。話を聞くにレフテンシアは最近ちょっと話題になって調子に乗っているワカメ髪野郎と梅雨の実習について話していたらしい。レフテンシアは怪物を駆除するのはいいけど服が汚れるのは嫌ですよね。と言った。


「俺も服が汚れるのは嫌ですね。良いと思う奴なんかいないと思いますけど。アハハ。」


 そう言うと三十木はなにかを思い出したような顔をした。


「天掛、去年のことは忘れてないからな。」


「はて?なんのことだ。」


 首をかしげる。


「忘れたのか! 粘液を撒き散らしながら金棒を振って俺ら班員をドロドロにしたことは忘れてないからな。」


「ハハハ。何を言うかと思えば、あれは事故だと言っただろう。」


「よく言うね。あの時の天掛は満面の笑顔だったじゃないか。アハハハハって笑い声が悪夢に出てきそうで今でも思い出すんだよ。エリーズさんも天掛はたまにやらかす男ってことを覚えておいた方がいいよ。」


「うーん。天掛さん本当なんですか?いつもの静かな姿からは考えられないのですが。」


「いや、気のせいだと思いますね。俺はそんなに壮絶なことはしてませんから。」


「嘘つけ!」「そうですよね。」


 レフテンシアは素直に信じたようだった。


教室 夕方 雨


「それでは今年の実習の班員を発表しますね。プリント配ります。」


 実習の班は同じクラスの人をできるだけ戦闘能力を等しくして構成されるが、行事故にそれほどの強さの怪物ではないので誰と同じになってもいいという思いが天掛はあった。


 配られたプリントを見たところ四人班で俺の班はレフテンシアさん、メデアナさん、三十木の三人が一緒の班か。


 この時の俺はふーんと思っただけだが後にこの中の一人が...などと考えている内に連絡事項はこれで終わりだったようで解散となった。


 今日はこれで帰ろうと思い、鞄を持って帰ろうとしたが班員になったレフテンシアさんに話し合いをしましょうと誘われたので教室に残ることにした。


 どうやらレフテンシアさんは他の二人も呼んでいたようでメデアナさんと三十木が席に座っていた。


「名前を見て嫌な予感はしてたけど今年も天掛と一緒かよ。」


 三十木は俺見て顔を歪ませた。


「俺と同姓同名の人はこのクラスにはいないからな。」


「天掛くんに何かあるの?」


 メデアナが質問をする。


「こいつは去年な...。」


「えー! そんなことしてたの。」


「誇張しすぎだと思うけどな。それに去年みたいに近接では戦わねーよ。」


「ま、私みたいに遠距離で戦っても結構汚れてたしね。去年はみんな帰るときに死んだ目してたよね。」


 メデアナは笑いながら言った。


「私も去年のことはあまり思い出したくはありませんね。」


「エリーズちゃんはどれくらい汚れたの?」


「面積で言えばそれほどでもなかったんですが頭から粘液を被ってしまって。」


「それは最悪だね。」


「同意するよ。」


「俺も。」


 四人の話の雰囲気が悪くなった。


「去年は全員が初めてでしたから失敗しましたけど今年はしっかりと対策したいですね。」


「そうだな。でも具体的にどうする?」


「俺は白い手と魂砲で中遠距離できるよ。」


「俺も結晶が飛ばせる。」


「私も氷を使って遠くから戦えるわ。」


「私も雷撃で遠くから戦えます。」


「お、いいね。全員で怪物を見かけたら遠距離で倒していく感じでいこう。」


 三十木が提案する。


「もし怪物が近くまで来たらどうする?」


「そこは私の魔術で凍らせよう。凍らせれば汚れるのは最低限だからね。」


 陣形はどうしようかな。あんまり女子を前に置くのは申し訳ないんだが。


「じゃあ、並びはメデアナさんを前にする感じか?」


「俺もいざとなれば幽体化で攻撃はほぼ無効にできるし前寄りでいいぞ。」


「では二人が前で私と天掛さんが後ろでいきましょう。」


「私は賛成かな。」「いいと思うよ。」「同じく。」


「大体のことは決まったし、そろそろ解散でいいか?」


 話すこともないので解散を提案する。


「じゃあ、解散で。」


「了解です。」「お疲れー。」


 レフテンシアとメデアナの返事で四人はそれぞれの方向に去っていった。天掛は家に。三人はそれぞれの仲のいいクラスのグループに。


 あれ、なんか俺だけ寂しくね。いや、家にやりたいゲームがあるだけ。気のせいだ。


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