第2話 作戦会議
―五月中旬 朝 教室―
「で、俺は思ったわけよ。見た目のいい魔術はかっこいいし、モテるための一つの要素だってな。」
三十木の話はこうだ。昨日の夕霧の盾のような見た目の魔術は格好良かった。だから女子にモテているのだと。俺はすぐに夕霧の魔術とモテは特に関係がないことに気づいたので説得を試みる。
「魔術のカッコよさと夕霧のモテは関係ないと思うぞ。」
「それは俺もわかっている。俺らが昨日のことから学んだことはなんだ。機械の不安定さか? 違うだろ、モテの秘訣だ。そのための第一歩が目立つことだ。藤堂先輩、明石くん、夕霧くん、全員がクラスまたは学校でそれなりの知名度を誇っている。つまり、まずは見てもらわないことには始まらないということなんだ。わかったか、天掛。」
「ふん、具体的な方法は?」
「特訓だ。見た目のいい魔術の特訓をするぞ。もちろんお前もだ。」
俺は極力目立ちたくはないけど、この程度なら大丈夫かな。クラスで目立っても監視の対象になることはないだろうな。
「放課後、よろしくな。」
「俺は図書委員の仕事なんだがな。」
―夕方 図書館―
「作戦会議を始める。」
三十木が俺の座っている図書館のすみっこの席で両手を口元においている。その状態で話しているので少し声がくぐもっていた。
「ここでやらなくたっていいじゃないか。」
「図書館ってなんか作戦を考える場所っぽくないか。ていうか天掛が図書委員の仕事があるって話だからここに来たんだよ。仕事つってもただ座ってるだけなんだろ。ほぼ人来ないしな。」
「そうは言っても人が来た時に、一緒に委員の仕事をやる人がかわいそうだとは思わないのか。」
「大丈夫だ。さっき木手さんに天掛借りていい?って聞いたら、いいよーって言ってたからな。天掛も横にいたよね。何、嫌なんか?」
「嫌に決まってるだろ。こんなばかげた計画のために魔術の訓練はしたくないからな。」
俺は朝のテンションから冷静になってみると三十木の話がおかしなことに気づいたのだった。
「天掛、お前…モテたくないのか。この学園生活を満喫したいとは考えていないのか。そうかたしかに天掛はあまり人と関わるような性格ではないと思ってたけどここまでとはな。俺は残念だよ。」
俺はそう言われて思う。これまでの人生で人に注目されることなどなかった。しかし、俺はそれでいいと思ってきた。でも本当にそうか?俺は人目を避けることに必死になって学校生活をないがしろにしてはなかっただろうか。それに三十木の作戦が本当に成功したとき、俺は三十木を見てどう思う。遠くへ行ってしまった? あいつも変わった? それは許されないな。三十木が手の届かない高みから一人でこっちを見下す光景は非常に憎たらしい。こいつの煽りに負けたわけではないが、乗ってやろうじゃないか。そのモテの作戦とやらに。
「はぁ? 別に人と関わってるが、全然今でもモテモテなんだが。でも、まあ特別にその作戦とやらを聞いてやろう。」
「そうだな。次の魔術戦闘訓練の授業の相手は天掛だ。その時にクラス全体に華麗な魔術を見せつけてやろうって寸法よ。」
「オーケー、ならば早速準備を始めよう!」
俺は右手を差し出す。
「もちろんだ!」
三十木は固く俺と握手をした。
―図書館 受付―
「はぁ、男って本当にバカね。」
木手はため息をついた。
「そう言ってやるな。彼らは本気なんだからな。」
シアンマは笑いながらそう言った。
「お、戻ってくるぞ。」
「よーっす。悪かったな木手、今から仕事に戻るわ。あれ、シアンマさんは何の用でした?」
受付に戻るとシアンマさんが木手と話していた。
「別にいなくても結構よ。私一人でもここでやることはあまりにも少ないのだから。」
「素直に寂しかったって言えばいいのに。」
「誰がよ。」
木手はシアンマを睨みつけている。
「わ、悪かったよ。そんなに睨まないでくれ。」
ふむ、やはり木手の顔の表情に変化はない。やっぱりこいつは俺に惚れてはいないのだろうな。
「なによ、こっち見て。気になることでもあるの。」
木手は不思議そうな顔でこっちを見た。
「なにも。 で、シアンマさんはどうしてここに。」
シアンマさんが急にこっちに向いて頭を下げた。
「この前はすまなかったね。まさか私もあの機械が壊れるとは思わなかったんだ。こっちで試験的に使ったときもエラーは起こらなかったんだが、いやこれは言い訳だね。とにかく本当に申し訳ない。」
「あれは事故みたいなものだったからな。この世界に夕霧がいなければ起こらないレベルの奇跡的なものだったといっても過言ではないしな。」
そう言いつつこの前の残骸を返す。
「これは、そうなのか。それほどまでに夕霧君はモテているのだろうかね。」
どうやら数値が原因で壊れたことに察しがついたらしい。
「どうだろうな。普段から見てるわけじゃないからよくわからないな。」
「ふーん。そんな人なら一度くらい見てみたいね。」
「同じ学校だから見かけるくらいは普通にあると思うけどな。」
―休日 訓練室―
「じゃ、特訓しよう。」
ここは訓練室。休日も魔術の練習をしたい学生のために許可をとれば使える部屋となっている。それなりに人気なので今日は隅っこの方の一部屋を借りた形になる。ちょうど教室一部屋分くらいの大きさであり、机が置かれていない分普段より大きく感じられる。それでもいつも魔術戦闘訓練の授業で使っている体育館のような場所に比べれば小さすぎるくらいなものだが。
「見た目のいい魔術ね。俺はマナ形質が結晶と宇宙だからいくらでもやりようはあるけどな。三十木はどうするんだ。」
「まあ見とけって。これをこうよ。」
三十木の背中に展開された魔術式から大量の半透明の白い手が生えてきた。白い手は細々と枯れ木のようでいて手の先は鋭い爪が生えている。手の不安定な透明さを見ていると不安感が呼び起こされる。
「相変わらずあまりいい見た目ではないな。三十木の心霊魔術は。」
「まだだ、『思い込みはその姿を自由に豹変させる』」
三十木が無駄にしか思えない詠唱をすると白い手は姿を変えて白猫の手になった。デフォルメされた猫の手はやわらかそうな肉球がとってもキュートであった。
「見たか!これが女子受けの極致、光徳流魔術式【ネコの手も借りたい】だ。」
「う~ん。」
そういう方向性かよ!
「見ろ。」
三十木の口からひょろひょろと半透明の細長い何かが出てくる。俗に言う幽体離脱というやつなんだろう。
「もう一回だ。『思い込みはその姿を自由に豹変させる』」
霊魂から声が聞こえる。普通にこわきもい。そして、やはりというか霊魂の見た目はデフォルメされた白猫だった。なんとなく風船のような印象を受ける。
「かっこいいはどこに行ったんだ。」
「甘いな天掛。今の時代かっこいいだけじゃダメなんだ。女子受けとはかわいいも必要なんだよ。お前がかっこいい担当、俺がかわいい担当よ。」
「三十木、もしかして心霊魔術じゃかっこよくできなかったのか。前に竜とか出してたけどなぜか見た目が腐り倒してたもんな。」
あれは酷かった。俗に言うドラゴンゾンビだ。
「そうともいう。」
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