きれいなだけの魔術編
第1話 モテる秘訣とは
─五月中旬 教室─
「相談があるんだ。」
「何だ? 聞きだけはしてやろう。」
朝からクラスメイトに話しかけられた。名前は
「モテたいんだ。どうすればいいと思う?」
「どうしようもない。そもそも俺がモテないんだ。勘弁してくれよ。」
こいつは常時こんなことばかり言っている。これを聞いたのは既に回数を忘れるほどだ。
「いや、お前には木手ちゃんがいるだろ。図書館でいつも一緒じゃないか。」
「ハローなんちゃらちゃんのことなら知っているけどな。」
「ちげーよ。
三十木はにやけたような笑みを浮かべて煽ってくる。
「あいつとはほぼ話さないんだ。お前も知ってるだろ。」
「それもそうなんだよな。木手さんって図書館で見かけても本を読んでいることしかないんだよな。ワンチャンお前に惚れてて、照れて話せないとかないか?」
「ないな。」
「ないかぁ~。話が逸れたな。どうする?」
「とりあえずモテない二人で話してても不毛だから他の奴に聞いてみよう。」
「それもそうだな。」
チャイムがちょうど鳴ったので俺たちは席に戻った。
─放課後 教室─
「というわけで明石、協力してくれ。」
俺と三十木は教室でもなかなかモテ力が高いと見ている明石に考えてもらうことにした。
「なんでも聞いてくれ。」
「明石のモテ力は3000といったところか。これはクラスの人気者レベルだな。」
「流石だ。」
俺は虫眼鏡型のモテ力判定装置を明石にかざしてからそう言った。
「何を基準に測ってるんだ。ていうか俺もたいしてモテる訳じゃないからな。そうだなぁ、やっぱり自分に自信を持つことじゃないか。自分を高めることで長所を伸ばして、自己肯定感を高める。やっぱり自信満々な人は安心感というかそうゆうのがあるだろ。」
「なるほど。参考にしよう。」
思ったよりためになるというか。まともなことを言うものなんだな。
「ありがとう。でも長期的な改善だよねそれは。今すぐモテるとかいうのはないのかなーなんて。」
「三十木、モテの道は長い。諦めろ。」
「そうだよなー。」
─風紀会─
「ここにモテの達人がいると聞いて。」
「右に同じ。」
「一応、活動中なんだが。」
俺たちは風紀会室にいる藤堂先輩のもとへやって来ていた。椅子に座った彼は面倒だなと言わんばかりにため息をついた。
「藤堂先輩、お聞きしたいことがあるんです。」
三十木が話を切り出した。ちなみに彼と藤堂先輩は初対面である。
説明中...
「なるほど。天掛、お前なんで俺のとこに連れてきたんだ。今日は偶然仕事がないからよかったが、今度からは活動中は来るなよ。で、モテの技術か?そんなの顔に決まってるだろ。それ以外はファッションに気を付けるとか、言っちまえば見た目だよ。スタンダートに清潔感がある格好をすればいいんじゃないか。」
そう語る藤堂さんは毎日同じ深緑色の軍服を着ている。やっぱり顔か、イケメンだもんな藤堂さん。キリっとした顔は繊細で均衡がとれており、切れ長の眼からは理知的な印象を覚える。
「服装か。なるほど他にはありませんか。」
三十木は今回、結構本気らしい。
「そのモテたいという積極的な態度を俺に使うのではなく女子に使ったらどうだ。」
「いやぁ女子に話しかけるなんてそんなハードルが高いことはどうにも。」
「風紀会に凸ってくるような人が言うセリフではないだろ。」
藤堂さんは呆れたように笑った。
「天掛、現状確認だ。俺たちの服装は?」
「俺はネイビーのシャツに黒のズボンだ。三十木は白のTシャツに黒のローブ、下はなんていうかぶかぶかの黒のズボンか?それに頭にワカメを乗せている。」
「まあ、そこまで外してる格好ではないな。」
「藤堂先輩もそう思いますか?ならこのままでいいかな。つーか天掛、お前は俺の髪型をいじりすぎなんだよ。もはやお前のせいで俺の髪はワカメになってるまであるからな。」
「あんまり髪の毛に触り続けると良くないらしいしな。」
「そういう意味じゃないからな。」
万年軍服の人を信用したくはないが、藤堂さんはしっかりと着こなしてはいるからな。
俺たちは藤堂さんに感謝をしてから風紀会室を出た。
─廊下─
「天掛、今俺たちのモテ力は確実に上がっている。」
俺は虫眼鏡型のモテ力測定装置を三十木にかざす。
「おお、すごい。200もあるぞ。先週は5しかなかったというのに。ちなみに藤堂さんは5500だった。」
「いや、俺も気になってたけどそれ何?先週にそれ見た覚えないんだけど。てか先週の俺のモテ力低いな。40倍じゃん。」
「俺も知らん。先週、図書館に来たシアンマさんにもらった。」
「シアンマさん? ああ、あの。ってあの人、美人さんじゃん。羨ましい。それが今すぐ爆発することを祈るよ。」
「本当に祈らないでくれ。実は手に持っている俺が一番びびってるから。」
「離せよ。」
「ひひ、チキンレースだぜ。三十木ぃ。俺一人で爆発か二人で爆発かのなぁ。」
「お前そんなキャラじゃないだろ。」
「そうだな。『安全には気を使ったからよっぽどのことがないと壊れない』らしい。」
「安心したよ。」
廊下を軽口を叩いて歩きながら今日のところは終わってもう帰るかと思っていた。
「あれっ天掛さん。何してるんですか。」
声をかけてきたのは青髪の男子、夕霧だ。隣にはウェーブがかかった赤い髪の女子を連れている。夕霧は今、桜の件でちょっとした有名人になった。あれが監視なんだろうか。有名になった生徒で実力が不明な者には監視がつくという噂がこの学校にはある。
「もしかして夕霧くん?天掛と知り合いなんだ。俺は三十木光徳、よろしくね。」
三十木はいつもの二割増しの笑顔で自己紹介をした。
「実は今かくかくしかじかで、」
「なるほど。ちょっとその測定器が気になりますね。」
「じゃあ、測るね。」
ピピピ、ぴ?ピーーーー!
測定器から煙が上がっている。今にも爆発しそうな感じだ。
「すごい数値だ。9998、9999、まだ上がるのか。あっ」
俺はすぐにシールド発生装置を意識して薄い魔力壁を発生させる。
夕霧はおそらく形成魔術で盾のようなものを作って自分と赤髪の人を守っている。赤い髪の人はわぁっとか言って夕霧に抱きつく。
三十木は自身を半透明にしてあたり判定を消している。
小規模な爆発だった。手から離した測定装置は閃光と共に俺の方向に床から飛んできた。跳ねるように飛んできた装置はシールドに軽い音でぶつかると地面に落ちた。
「ほんとに爆発したよ。」
「まじですみません。」
「僕もまさかこうなるとは思ってなかったので仕方ないですよ。」
唖然とする三十木に直角に頭を下げて謝る俺、優しい夕霧であった。
「あのそろそろ離れてくれない?」
爆発したときに夕霧に咄嗟に抱きついた赤髪の子に夕霧が言った。
「ご、ごめん。守ってくれてありがと。」
女の子は顔を赤くして礼をした。
その様子を三十木が羨望の眼差しで見ていた。これが爆発の原因だろうか。
ちりとりで落ちた時に割れた虫眼鏡のガラス片を集めながら俺は思う。あの人は噂通りの危険人物だったと。
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