第10話 話題のあの人
─五月初旬 教室─
「あー、つまりマナ形質と人の性格との間には何も関係はないということです。友達や知り合いのマナ形質から性格を推測することはできません。近年はこれらの事情による差別やいじめが少なくなりましたが皆さんもよく理解を深めておくように。他にも…」
ね、眠い。中学までで聞いたことのある話をしているせいでまるで興味が持てない。しかも道徳的な話をしているせいでもっと興味が薄れる。つーか明らかにマナ形質に性格を引っ張られている奴とかいるからな。テレビの宣伝とかでもイメージに使われてるし悪いのはいじめとか差別だろ。ってことをずっと聞かされているんだ。もういいよ。分かったよ。
鐘の音がなる。
あ、今日の授業終わった。
「天掛、知ってるか。桜が咲き続ける奇妙な現象を一年生が解決したらしいぜ。」
授業が終わった後、明石が話しかけてきた。もちろん知っているので、
「あーあれ。知ってる。」
「知ってるのか。じゃあ、あのQ&Aの記事も見てきたのか?」
「いや、見てないな。朝から学校中で話題だから知ってるんだ。」
「お、それならこれ見てみろよ。」
そう言って明石はスマホの画面をこちらに向けてきた。
「悪いな、見にくいだろ。同じものが学校のネット掲示板に載ってるから自分で調べてみてくれ。」
「ああ。」
Q&Aの概要はこうだ。
Q:今回の現象にはいつ気がつきましたか。
A:どこからかアナウンスが聞こえてそれで気づきました。
Q:どうやって解決したんですか。
A:異界にて管理者との話し合いの末、解決しました。
Q:異界! どうやってそこへいくのですか。
A:僕もよく知らなくて、詳しくはシアンマさんに聞いてください。
Q:シアンマさんかぁ。ところで異界はどんな場所だったんですか。
A:桜でいっぱいのきれいな場所でした。ここだけの話、少しお花見もしたんですよ。
Q:それは羨ましいな~。協力者はいなかったのですか。
A:いやいや、シアンマさんの協力がなければ僕はなにもできてないですよ。他には誰もいませんね。
Q:そうでしたか。謙虚なんですね。いやぁ戦闘とかがなくてよかったですね。
A:戦闘はありましたよ。
Q:あったんですか! どんな展開で! 話し合いではなかったんですか。
A:あーそうですね。話し合いの結果、怪物の駆除を頼まれたんですよ。驚きの怪物でしたね。二種類いたんですが…
Q:口と手足が生えたさくらんぼ! 大きな桜桃から生まれた人間! すごいね。一年生が一人で戦うのは厳しいと思ってたけど、見た目に似合わず戦闘が得意なんですね。
以降は学校生活についてや夕霧の性格など事件に関係のない質問が続いている。
「ふーん。」
黒エルフのクラスメイトがこちらを見て呟いた。
「何か用か?」
「いや~天掛なら何か知ってるのかなって思っただけ。ほら、枝を持って帰っていたじゃない。」
メデアナと明石にはその姿を見られていたな。
「あれは特に調べても何も出てこなかったよ。悪いが取材は勘弁してくれ。」
「あれ、私って天掛にこのQ&Aを書いたこと話したっけ。しばらくはこのネタを擦ってやろうと思ってたの。アテが外れて残念だわ。」
「へーそうなんだ。」
「なんだ偶然か。知ってるのかと思ったよ。じゃあ、もう用はないから、さいならー。」
メデアナは手を振って離れていった。忙しそうな人だな。
「さよならー。」
―夕方 図書館―
「君が天掛君かな?」
俺が委員会の仕事で座っていると白髪の女が話しかけてきた。とても見覚えと聞き覚えのある容姿をしていたので警戒心を覚えた。
「悪いが人違いだ。」
「いや、あんたでしょ。」
横で本を読んでいた木手が会話に加わった。
「ああ、そうなのか。本当に間違えてしまったと思ったよ。私は二年生のシアンマ・バッドヘルスだ。天掛君、話があるからちょっと時間をくれないか?君は美月じゃないか。助かったよ。」
「いえ、人違いです。」
こ、こいつぅー。俺は驚きと呆れで声がでなかった。
「いやいや、二回は間違えないよ。その身長は一度見たら忘れられないよ。」
「だれがチビだっ! はっ。」
語るに落ちたな。
「はははっ変わらないね。そもそも友人を見間違うわけないよね。」
「誰が友人だ! また怪しい食べ物を持ってきたら容赦しないからね。あんたは友人を実験動物としか思っていないじゃない。それはね、友人じゃないの。分かってんの。」
「気のせいさ。私は善意であげたんだよ。」
こいつら仲良さそうだな。
「で、何の用なんだ。」
夕霧を通してバレたかな。
「君、桜の異変を知っていただろう。君が校門の近くで桜の枝を持って友人と話していたのを私は見たよ。何か知っているんだろう。」
あ、そっちかー。
「クラスメイトにも話したが、あれは調べても何も出てこなかった。」
「そうか、しかし何故あのタイミングで異変に気づいていたんだ。夕霧君以外にはおかしいということに気づけてすらいなかった。つまり何らかの錯覚魔術が使われていたということだ。私と同様にな。」
「それなら私知ってるよ。」
「美月が?」
美月が眉をひそめた。
「シアンマ、あんたは私のことを舐めているときがあるよね。ともかく、天掛のabilityは状態異常を防ぐものじゃなかった?それで錯覚魔術が効かなかったんでしょ。」
俺に状態異常は効きにくい。それは時計の怪物に指された針のような細胞が俺の体を作り変えたからだ。だから俺の身体能力は高く、病気にも強い。でも、ちょっと人間には無理があるくらい強いから力をセーブしてるし、状態異常系統の魔術が効かないのも健康すぎるからabilityということにしている。
abilityには謎が多い。神からの送りもの、才能、突然変異、様々な説が唱えられており、突拍子のない不思議なものとして知られている。だから誤魔化せるのだ。
「それだ。」
「そうだったのか。ところでここに私特製のクッキーがあるんだが、いるかい?」
「木手に食わせとけ。」
早速、実験体にされるところだった。
「いるか!! 用が終わったらさっさと帰れ。」
「いらないのか。夕霧君にでもあげようかな。」
シアンマは少ししょんぼりした。
すまん。夕霧、守れなかった。
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