第9話 魔物の駆除

 「お、この団子はうまいな。」


 「先輩、こっちの餡子あんこのやつもおいしいですよ。」


 「あーじゃあそっちもいただこうかな。ズズッ、ふぅ~。」


 「いいよいいよどんどん食べて。」




―1時間後—


「へえーそうなの。そっちの世界は魔術って言うんだ~。…って早くしろ~!いつまでおやつ食ってんだよ。もうさっき駆除しに行くって話してから一時間くらい経ってるんだけど!」


 急にセレザが大声を出したので驚いた俺は今までの出来事を振り返って思う。

 なんとなくセレザにちょっと休憩したいと言ったらブルーシートの上にお菓子や緑茶を用意してくれたのでまあ、少しだけ、本当に少し休憩したかったんだけどね。なんか居心地がよくてさぁ。話もめっちゃ盛り上がりはしないけどなんかちょうどよく盛り上がっちゃってなんか切り上げにくかったんだよな。

 これはリーダー的なキャラが機能してないからなんだろうな。なんとなく俺と夕霧は受け身でセレザはリーダーだけど休憩を許した手前、言いにくかったんだろうな。「もういくよ」とか言い出しにくよな。そんなことないか?そうか。


 「す、すいません。行きます。」


 夕霧がすっと立ち上がった。俺も一緒に立ち上がって言う。


 「そうだな。そろそろ行くか。」




 ─桜次元 大通り─


 俺たちはさっきまで通っていた道に戻って通りかかったさくらんぼを駆除していた。

 俺はいつも通りに金棒を振り回してさくらんぼを潰して、夕霧は腰に付けていたナイフが魔術の補助道具だったらしく杖のように先端から魔術式を展開して白色の三角錐を飛ばしていた。


 「さっきから魔術を見ていて思ったんだが夕霧のマナ形質は何なんだ。」


 「マナ形質?」


 セレザが首を傾げる。


 「僕のは形成です。マナの形を整えて高速で発射してるんですよ。セレザさん、マナ形質っていうのは簡単に言うと得意な魔術の種類って感じですね。」


 「へぇー、天掛は何が得意なの?」


 「天掛先輩は結晶じゃないかな。」


 「ああ、結晶と宇宙だよ。」


 「二つ持ってるんだ。もしかして珍しいんじゃないの?。」


 「いや、珍しくはないな。」


 「そうなの。」


 「まあ、二つは結構いますね。」


 五人いれば二人くらいは二つ持ちって感じだな。




 そのまま俺たちはセレザの案内に従って道を進んでいった。進んだ先にあった広場にはこれまた巨大なさくらんぼが落ちていた。手足は生えておらず、直径で4mくらいはある。


 「またかよ。」 「またか。」


 「巨大にしとけばいいってもんじゃねーぞ。」


 「同感です。」


 俺と夕霧は同じ反応をした。


 「あれー今年は多いとは思ってたけど、さすがにこれが動くのは困っちゃうな。」


 「どうする。壊してみるか?」


 セレザと相談している間にさくらんぼが少し動いた。


 「あれ、動きましたよね。」


 それからさくらんぼはさらに揺れ、だんだんと揺れが大きくなっていく。それは今にも動き出しそうな雰囲気がしてまずいという感情が沸き上がり、無視できなくなっていく。


 「ええっ!」


 夕霧が驚いた声を出した。俺は絶句してその光景を見た。

 さくらんぼが真っ二つに割れて甘い匂いが充満する。汁が割れた面から溢れ出して川のように流れていく。種が入っていると思われた中身は多くが空洞でありそこには人影が見える。


 「なぜセレザがもう一人いるんだ。」


 その人影は今も共にその光景を見ているセレザに酷似しているがその肌色だけは薄緑色でありその色は魔物たちの手足と同じ色合いであった。着物、袴、髪、眼、姿形そのすべてが同じ見た目であるその人物はこちらを見ると刀を持ち、走り寄ってくる。


 「先輩!!」


 先頭にいた俺に切りかかってきたので慌てて金棒を振り払う。相手はバックステップで俊敏に避けた。


 「セレザ、あれは?」


 「私も初めて見たんだけど、おそらく魔物なんだろうね。さくらんぼを培養装置にして生み出したのかな。私の見た目を真似ているのはよくわかんないけど。自分のクローンを見ているようで複雑な気分だよ。まあ、魔物なのは変わらないから倒しちゃっていいよ。」


 「あれも駆除していいのか。倒すほうも知り合いの姿はちょっと心にくるな。」


 話は終わったかと言わんばかりにもう一度切りかかってくる。

 金棒で受けてやろうと構えたがあちらの腕がピンク色に発光する。その発光は持っている刀にまで伝播して振った刀に残光を残した。


 「重い。」


 強化された一撃は重く、体が後ろに飛ばされる。


 「あなたは危険。 『木々の拘束』」


 薄緑のセレザがボソっと声を出した。


 「おっと、なんだ。」


 足に螺旋状に木の根が絡みついた。驚いているうちに木の根は上半身にも巻き付いて俺はミイラのような姿になってしまった。


 「あはははは。最高のセンスね。人に結晶なんて刺すからそうなるのよ。」


 こっちのセレザが指をさして笑っている。こいつ根に持ってやがった。


 「天掛さん!!」


 「解くには時間がかかりそうだ。後は頼んだ。」


 正直に言えばこの程度の拘束はすぐに解けたがそれには隠している力を使うことになるから夕霧の前では使えなかった。これ以上言い訳の理由を考えるのが面倒というか流石にごまかせないんだよね。



―夕霧視点―


 やばい。天掛さんが捕まった。自分の実力ではあれの相手は厳しい。そうは思うが弱音は吐いてられないよな。

 ナイフを取り出して構える。魔術式を展開して三角錐を打ち出す準備を始める。


 刀を構えた二人目のセレザさんに発射。


 余裕の表情で避けられる。ならば連続して二、三発目も発射。


 ダメだ。当たらない。そして近づいたセレザさんは刀を振り上げたのに反応してナイフで咄嗟に受ける。当然、受けきれるような武器でも筋力でもないので受けたときにナイフを落としてしまった。


 動揺した僕の腹に衝撃が走る。数メートル転がった僕は蹴られたことを理解する。


 しれっと混ざって観戦をしている手足と口がついているさくらんぼたち数体が「おおーー」とか反応している。肌色のセレザさんはその集団に混ざって薄緑のセレザさんに「そこだーやれ、させ」とヤジを飛ばす。


 「冗談じゃない。こんな状況でやられるわけにはいかない。」


 「もう終わりか?」「所詮はその程度か。」「賭けに負けちまうよ。」


 うるさい。よろよろと立ち上がりながらそう思った。僕はだんだんと腹が立っている自分に気がついた。


 再び発射した三角錐も当たらない。ナイフがなくて狙いも威力もない。近づいたセレザさんの刀の横振りを形成魔術を盾のように展開して防ぐが、今度はその盾の上から蹴飛ばされる。


 どうしてこんな珍妙な場所で怪物の駆除なんかしているんだろう。再び立ち上がりながら考える。調べ始めてから流されるままにここにいて今に至っている。

 思えば今までの人生も流されるままに生きてきた。変えようと思ったのはつい最近でこの新学期は上手くいっていたんだ。この調査もその一環だった。でも始めてからは誰も知らない分からないの連続で結局、そのままの流れでやめるところだった。運がよかった。シアンマさんがいなければまた同じ選択を繰り返すところだった。ここに来てからも天掛さんの雰囲気に呑まれてだらだらとしていた。


 違うだろ。「流されない」を目標にこれからは生きるんだ。


 「ability 『番狂わせ』」


 そう目標を再確認したとき口から自然とその言葉が出ていた。



―天掛視点―


 そこからの流れは一方的だった。夕霧がability を発動した瞬間に夕霧の周囲の景色が歪むほどのマナが湧き出て、鎧のように形成魔術を発動した夕霧は風のように走ってセレザを殴った後に拾ったナイフに形成魔術を纏わせて5mはある巨大な剣状にして転んで立ち上がれないセレザに向かってて振り下ろした。


 薄緑色のセレザは花びらになって消えていった。同時に俺の拘束が解除される。


 「やっぱり魔物だったんだね。よかった。」


 「ヤジとばしてねーで助けろや。」


 俺は平然と話しかけてきたセレザに向かって右ストレートを叩き込んだ。


 腹にクリーンヒットしたのでセレザは腹を抑えて蹲った。


 「何すんだよぉ。酷いじゃないかぁ。」


 「セレザさん、当然の報いです。」


 夕霧はやけにすっきりした表情で言った。こいつも戦いながら邪魔に思っていたのだろうか。

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