第8話 おしゃべりドライアド
俺たちは歩いて樹高100mはあるだろう桜の巨木に向かって歩いて行った。近くに行けば行くほど自然の雄大さを感じられる立派な木だ。なんといっても木の半径と高さがほかの木とは段違いだ。
巨木に着いた俺たちは周囲を調べている最中だった。
「この巨木がこの異界の主ってことなのかな。」
夕霧が周囲を調べながら言った。
「どうだろうな。あの宣言をした奴ではなさそうなんだけどな。」
あのおしゃべりな奴がこの巨木とは思えないんだよな。この木からは何があっても動かない悠々とした不動心を感じる。
「何かあったか。」
「なにもないですね。初めはきれいな所だと思ってたけど同じ景色が続くと頭がおかしくなりそうですよ。」
「それはある。」
実際にさっきまではちょっと疲れていた。さくらんぼ潰してその気持ちは薄れたけど。
しかし本当になにもないな。あまり試したくはなかったのだが、木を破壊してみるか。こういう異界の物質は破壊すると危険な反応があることが多いんだが。
「夕霧、ちょっとこの木に刺激を加えようと思うんだ。危ないから離れてくれ。」
「了解です。」
夕霧が返事とともに巨木のそばから離れた。
右手に紺色の魔術式を展開する。展開された魔術式から宇宙のような深い青色一色の棒状の結晶を地面に突き刺した。棒の先は尖っており、表面は岩肌のように粗い。
「さすがに火気厳禁だよな。」
ここは周囲が開けていないから魔力の火とはいえ燃え移ることがあるかもしれない。
右手に持ったそれを槍投げのように身体を捻ってから投げる。
結晶の棒は勢いよく直線的に桜の巨木に向かって飛んでいく。
『なにしてんのー!?』
木に刺さる直前に巨木に人一人分の円状の
ガシャーン、グサッ
その人間はピンクの長髪に赤い目、ピンクの着物に黒い袴を着ていた。
そして今バリアらしきものを破壊され、桜の巨木に藁人形のように磔にされていた。
「え、どうゆうこと。」
近くで見ていた夕霧が驚きで固まっている。
「た、助けて~。」
「天掛さん、ちょっと下ろしてきます。」
夕霧がすぐに硬直から解かれて謎の人物のもとに向かった。
え、あれ助けるの?多分、今回の元凶だよあれ。
「や、やさしくね。あんまり強くしないでね。」
「はい、いきますよー よっと。」
「あんっ。」
夕霧による槍の刺さった女性の救出がスムーズに完了した。俺は落ちてきた女性を受けとめる役としてそれをこなした。
「で、君は誰なんだ。」
現在、俺たちはいつの間にか用意されていたブルーシートの上に一人対二人の割合で座り込んで質問をしていた。
「私は桜次元の管理者のセレザだよ。まったく礼儀がなってないよね。いくらここに桜しかないからっていきなり槍をぶっ刺してくるかな?こないよね。観光するんだとしてもマナーというかルールだよね。観光スポットだからここ!」
セレザは頬をふくらませて両手を挙げて抗議した。
「観光スポットなんですかここ?」
「そうだよ。ここは別の次元からお客を招くことをビジネスとした観光施設なんだ。まあ、人気はないけど。」
夕霧は驚いたようだった。
「そうだとしてもこっちの次元に干渉してきてたのはどういうことだ。概念侵略だったか?随分と物騒な言葉だな。」
「まあ、宣伝的な意味だよ。どっちもね。言ったでしょ。桜の布教計画だって。桜が咲き続いてたら『きれいだな~あそこの次元近いし行ってみようかな~』とか思ってくれるかなって。あーもしかしてまずかった?」
「よくないな。環境が乱れるんだよ。」
「そっかー。じゃあそれは解いておくね。もしかしてだけどそんなに文明が進んでないのかな。ここになんとか来られるってところなの?戦闘力は十分にあるから意外だよ。」
「大体はそっちの予想通りだ。」
これで一先ずは安心だな。事件解決、ヨシ。
「そういえば自然と座って話してたけど体は大丈夫なんですか?刺さってましたよね。棒が。」
たしかに気になってはいた。
「私は桜を守るドライアドなんだ。まさか木を守るための障壁を壊されるとは思わなかったけどあの程度の傷なら一日くらいはそのままでも大丈夫だよ。傷は棒を抜いてもらったときに服と一緒に直しておいたよ。心配してくれたのかな。これでもこの体は魔法で強化されているんだよ。」
セレザは腕をまくってコブを作ってみせたが、見えるのは華奢な腕のみだった。
「そうか。」「そうなんですか。よかった。」
どうやら夕霧は悪いことをしたと思っていたらしく素直に安心していた。
「ところでここに来るまでの間に気味の悪いさくらんぼに出会ったんだがあれは何だったんだ。」
「あれはさくらんぼがこの辺りに充満している魔素にあてられて魔物に変化したものだよ。ちょうど今の時期は魔力嵐が起きやすからね。今日は休園日だったんだよ。私もさっきまでゆっくりと部屋で寝ていたしね。」
セレザはハッとした様子で手を打った。
「そうだ! 君たちが無断でここに来たことは黙っておくからさ、魔物の駆除に協力してくれない?」
「いいですよ。引き受けます。」
「まあ、それくらいはやるよ。」
刺してしまったのは悪いと思ってるからな。
「ん?ここって無断以外にどうやってくるんだ?」
「普通に連絡くれたら予約がとれるよ。そっちにも連絡機器みたいなものがあるでしょ。宣伝メールで送っておいたから。でも誰も連絡してこなかったのよねぇ。」
迷惑メールとしか思われなかったんだろうな。言わないけど。
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