第6話 遭遇

 ─四月中旬 教室 夕方─


 放課後、俺は魔道具屋に行こうと思った。侵入魔術のための道具が足りなかったので買いに行くのだ。紙が足りなかった。魔術式をかくための1m四方くらいのやつだ。意外と安くて、持ち運びが面倒だから買いだめしていたのだが、いつの間になくなってたんだよな。

 とにかく教室から出ていかないとな。

 

 廊下を歩いていると前方に青い髪の若い男が見えた。聞き込みかビラ配りか分からないが道行く人に話しかけている。部活動紹介とかはもう終わっていたと思うんだが。


 スルーしようと思い廊下の端を歩いたが無意味だったようだ。


 「すいません、質問いいですか?」


 「急いでます。」


 そう断ったが、横について歩いて話しだした。厚かましいやつだな。


 「先日エリアチャットなるものが届きましてそれについて何か知りませんか?」


 昨日の桜が送ってたやつの話か。

 エリアチャットは超越個体特有の機能だ。それが聞こえるのは超越個体の細胞や何かしらのつながりを持つ者なのだろう。

 俺は細胞つながりで聞こえる。ほら、0話でさされてたでしょ。迷惑なことにエリアチャットは範囲指定で誰にでも送られる。

 宣言するーとか言ってたしな周りに聞こえるようにやったのだろう。聞こえる人は俺以外に見たことはなかったのだけどな。

 しかし、そんな基本を知らないことはない。使い方をアナウンスしてくれるからだ。俺は目の前の生徒が厄介事を抱えていることを推測した。


 「知らない。」


 俺は嘘をついた。


 「そうですか、ありがとうございます。」


 感謝された。まあ、知らない方がいいこともあるからな。


 「一年の夕霧周ゆうぎりしゅうです。何かわかったら連絡ください。」


 「まあ、がんばってな。」


 「ありがとうございました。」


 そう言って離れていった。なにか疑われて声をかけられたと思ったのだが、本当に何も知らないらしい。

 さっさと買いに行こう。学校で時間を使ってしまったな。


 ─魔道具屋─


 魔道具屋に着いた。ここらでは有名なチェーン店であり、外見はホームセンターに似ているが、並んでいる商品は全自動ほうき、世界樹の木材、大容量異次元じょうろなどの魔術が関係しているものが多い。

 中に入ってみると蛍光灯の光で眩しいくらいに店内が照らされている。ここもホームセンターに似ていたが、並んでいる商品はやはり魔術関連のものだ。


 少し歩いて紙を探す。見つけたが、複数の類似品があってどれにしようかと迷う。複写式!!魔術紙、最高峰の手触りをあなたに、限定品20枚増量、などの多数の売り文句を見ながら誰が手触りなんか気にしているのだろうか?ティッシュじゃないんだからと思った。

 結局、俺が選んだのはいつも買っている魔術紙と同じものだった。俺は安定を求めているのだろうか。いつもと違って書きにくいとかなると困るからな。それにしても少なくはあるがこの悩んだ時間は完全に無駄だったな。

 カートに数個入れる。また買いだめをするためだ。これでかいからあんまり頻繁に持ち運びしたくないんだよね。


 レジに向かおうと思ったところで知り合いを見つけた。図書委員仲間の木手だった。特に用もないので無言で通り過ぎようしたところ声をかけられた。


 「あれ、天掛じゃん。魔術紙を買いにきたのね。」


 木手はカートを見ながらそう言った。


 「そうだ。木手は何を買いに来たんだ?」


 「私も同じだよ。ちょうどなかったんだよね。にしても珍しいな。天掛っていつも話しててもゲームか漫画って感じだからここにいるのは違和感があるよ。家でゲームしてるから外にはあんまり出ないのかなって思ってた。」


 「そんなにいつも言ってないだろ。たしかに俺の趣味ではあるけど、そもそもそれを知らないって人には話さないからな。」


 「そうかも。」


 「つーか俺が学校以外は引きこもってるみたいな感じで言ってないか。」


 「イヤー、ソンナコトナイヨ。ほら、あなたってその、筋トレとかしてるでしょ。私はやらないから見かけないのかなって。」


 ダンジョンとかに行って体も動かしているのだが、おそらく見たことも言った覚えもないから予想の候補として上がっていないのだろう。


 「意外にも俺は半分インドアって感じの生活なんだ。ずっと中にいると健康にも悪いだろ。」


 「へー、私はあんまりだね。用でもないと家で静かに過ごしちゃうな。」


 「あーだから色白で小さいのか。」


 「あぁ、ぶっ飛ばすぞ。誰がちびで引きこもりのメガネで可憐な美少女だって?」


 木手から魔力の高まりを感じる。それはまるで熱気のように大気を揺らして周囲の景色を歪ませている。


 「いやいやそこまで言ってないでしょ。褒めてもないし。」


 「あはは、冗談だよ。」


 「冗談に聞こえないんだよ。明らかに魔術を使おうとしてたでしょ。こえーよ。分かった。悪かった。謝るから。」


 木手は笑顔でこちらに話しかけていたが、そこはかとない圧があった。


 「まーいいよ。ほぼ事実だからね。私は事実を言われてキレるような人ではない。そうでしょ。」


 そうは思えなかったが、ここは素直に頷いておいた。


 その後は買い物を済ませて家に帰った。学校以外で人に会うのは本当に珍しいことだったと思い返す。いや、ほんとに珍しいな。

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