第4話 放課後インスタントダンジョン2
─四月中旬 ダンジョン組合─
学校の帰りにダンジョン組合に来た。明日は休みだから多少疲れても家で休めばいいかなと考えており、気が楽だった。
「あれ、天掛じゃん。いまからダンジョンか?」
黒髪の若い男に親しげに話しかけられる。
「あ、藤堂先輩どーもです。そうですよ。」
ところで、うちの学校は軍学校ではないのになぜ毎日軍服を着ているのだろうか。謎だ。
「一緒に行かないか。」
先輩は強い。楽に稼げるだろうし、一人に比べて安定感がある。
「いいですよ。行きましょう。」
「天掛、中級上位でいいか。」
前回の草原は中級下位だ。少し高めだけど問題はないかな。
「はい。」
「レバー引きました。」
囲いに黒い霧が張った。
『レッツゴー、ダンジョンアタック。』
今日は若い男の声だ。なんとなくテーマパークの乗り物の掛け声を思い出して気が抜けるような心地だ。
さっさと先輩と霧に入る。
廃都市という見た目のダンジョンだった。
曇り空で薄暗く、壊れて屋根と壁がほぼない家屋達、レンガ造りだったのか、大きめの破片が転がっている。この世界の建築様式ではないのか見覚えはない。知らないだけだろうか。道は土のままで踏み心地がよい。障害物も少ないし当たりかな。
「廃都市か当たりじゃないか。」
「そうっすね。」
ダンジョンでは火山や洞窟、沼地などの攻略に支障が出るような環境をはずれ、逆に特に何もなければ当たりと呼んでいた。
「怪物は見たところ人狼、おおとかげ、羊だな。人狼は索敵が広い避けながら行くが、警戒しておけ。とかげも攻撃的だから気をつけろよ。」
索敵の範囲が広い怪物は厄介だな。どうしても戦闘の回避が不能になるような位置にいることもあるからな。
「羊は無視でいいですか?。」
「そうだな。」
歩いて扉の方向に向かう。あれは巨大だからよく見える。
「来てしまったみたいだ。」
人狼二匹にとかげ一匹が正面から走ってこちらに向かって来ているのが見える。
「おれが人狼一匹とおおとかげをやる。天掛は余りをたのんだ。」
先輩が背負った太刀を抜いて構えた。
「状況によってはサポートしますね。」
そういって俺は金棒を虚空から取り出して両手持ちにする。
「行くぞ。」
先輩が電光のような速度で走って人狼の首を飛ばした。俺もついて走って人狼を横振りでふき飛ばす。
すぐ後に先輩が膝くらいの大きさのおおとかげの腹を太刀で刺していた。太刀を抜いておおとかげを蹴飛ばすと、おおとかげは動かなくなった。
サポートはいらなかったな。三体とも灰になって消えた後、周囲を警戒してから武器をしまう。
「さすがに中級上位ともなると少し敵が固いですね。」
「あんな風に人狼を飛ばして置いてか。太刀使ってる俺の意見なんじゃないか、それ。」
藤堂先輩は疑うような口調で言った。
「飛ばし心地がね。」
「なんだそれ。」
その後も三回戦闘をした。初回と同じように危なげない戦闘だった。先輩は強いから一緒にいると戦闘面で楽なんだよなぁ。寄生行為ではないぞ。これは先輩と後輩の放課後の楽しい交流なのだ。
そして、ボス扉前に着いた。
「あれ、誰かいますよ。」
「珍しいな。被るのは通常のダンジョンのほうが多いのだがな。」
戦っているようだった。敵はとかげと人狼が一体ずつだ。
見たところ黒髪のダークエルフ。武器は魔術補助の長杖だろうか。セクシーなローブを着ている。最近の女性は何を思ってあのような服を着るのだろうか。暑いのかもしれないな。春だし暖かくなってきたしなぁ。
とかげが噛み付き攻撃をする。
避ける気がないのかシールドで直受け。空中の白色で球体の一部のガラスらしきものにとかげが噛み付いている。カウンターで氷系魔術、とかげがコールドスリープされたように白く凍った。人狼が後ろから爪で切り裂こうとする。避ける気が あ、先輩が人狼の後ろから太刀で串刺しにしてから蹴り飛ばした。
終わったので近づくと会話をしていた。
「一人では危なくないか。ボスは手伝おうか?。」
「お願いします。」
俺の意見は無視だろうな。報酬の話だけはまとめておこう。
「報酬は三等分でいいっすよね。」
「あれ、あなた天掛さんよね。」
「知り合いか。」
え、誰。こんな美人一回見たら忘れないんだが。思いだそうとしていると話してくれた。
「同じクラスのメデアナ ルビリウムよ。」
「ああーそうだったかもしれない。」
「天掛、お前覚えてなかったろ。」
「大丈夫です。まだ四月だし覚えてなくてもしょうがないよ。」
優しく気づかいをしてくれた。
「あはは、そっちはよく覚えてましたね。」
「戦闘訓練でクラスの話題になってたよ。」
「へぇ、そりゃありがたいね。」
「みんな相手にしたくないって。」
笑い声、先輩が横で笑っていた。
「そうだよな。あんなもん授業で使ったらそうなるよな。」
「そ、そうですか。」
悲しい。だが、俺も相手が俺ならやりたくはない。
「じゃあボス戦行こうか。」
「開幕の魔術は先輩でお願いします。」
魔術は全員で放つと硬直の隙が大きいので同時には放てない。前はダンジョンのレベルが低かったが故のごり押しだ。先輩の魔術が一番強いので任せる。
「了解だ。」
「天掛が前衛、俺とメデアナが後衛でいくぞ。」
「「はい。」」
扉を開く。
特大人狼だ。4mはある。茶色の剛毛に凶暴な狼の顔面。もう熊みたいなもんだな。こちらを隙なく睨みつけていて、手足の五本指についた爪と口に見える凶悪な牙はシールドがなければこちらの肉を切り裂き、千切るだろう。
先輩の魔術が起動する。
「竜の息吹。」
赤色の魔術式から竜の首が現れ、ブレスを吐き出す。先輩の家の卓越魔術であり、特許魔術である。見た目は完全にビームだ。
人狼が両腕で防ぐ。光線が腕を焼いている。狼の呻き声が聞こえる。
俺は相手が怯んでいる間に近づく。ジャンプして金棒を振り下ろす。
頭部に命中。人狼がよろける。
「体勢を崩している。今のうちに攻撃してくれ。」
「アイスニードル。」
ルビリウムさんの氷魔術だ。人狼の腹につららが飛んでいく。
命中、よろけているからか人狼が倒れた。
先輩の追撃。太刀で逆袈裟斬り、人狼の腹が裂けた。
そのまま塵になってゲームセット。
三人分のHPがあるから少し大変だったな。
ダンジョン攻略はハメでいけるようになって初めて一人前だ。攻撃は防ぐか避けるのが基本なんだが、この黒エルフは何故一人で来たのだろうか?それに近接武器も持っていないようだし。先輩と話し合って特に叱られてないなら何か理由があるんだろうな。
宝箱が三つ現れ、扉に霧が満たされた。今回はいい物が出ることを望む。
早速、開けてしまおう。中身はなんだろなっと。
「天掛、何が入ってた?」
「これは、小瓶ですね。」
手乗りサイズの小瓶だ。何に使うんだろうか。
「小瓶の中身は?」
「空です。空。 先輩は?。」
瓶の口を下にして振って見せる。
「ネックレスだな。素材は謎だが。」
銀色のネックレスを見せられる。
「当たりじゃないっすか。魔道具かもしれないですよ。」
宝箱に入っている物には特殊な効果が付与されていることがある。ごく稀に。
そういう物は組合やその他の店に売ることができる。しかし、そのほとんどは魔術強度が低く、装備してもちょっと調子いいかもってレベルのものだ。
だが、見た目が装飾品であるとき高値で売れるのだ。付与に関係なくてもね。
「ル、ルビリウムさんは?」
「メデアナでいいよ。ノートみたい。学校で使えるわね。」
「よし、はずれだ。」
「そうね。効果もないようだし。それにしても人の不幸を喜ばないでくれるかな。」
責めるような紫色の視線が突き刺さった。
「すいません。」
先輩はエリート魔術一門だから金は持ってるんだよな。富む者はより富んでいく悲情な現実だ。
俺たちは扉の黒い霧からさっさと外に出た。
組合からの報酬を受け取った。もちろん三等分である。
その後は帰りが遅くなるという理由で各自で解散となった。
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