第3話 魔術戦闘訓練は面倒
「うおおお、風の精霊よ吹き飛ばせ。」
黒の戦闘用ローブを着た赤髪の青年が大きな声を張り魔術を構成する。薄緑の魔術式から突風がもう一人の黒髪の青年に襲いかかる。
「なんで攻撃前に喋るんだ。」
俺はこの程度の風では飛ばないので筋力で耐える。意外と余裕があったので反撃で金棒を横振りした。
後ろに大きく避けられる。
「あっぶねー。おい、魔術訓練だろ。物理で戦うなよ。」
「惜しかったなー。」
焦っている様子の赤髪の青年に黒髪の青年は距離を詰めて右手で金棒を振り回しながら左手に魔術を構成する。
「無視かよ!」
避けられずに金棒が当たりかけるが、
「風の精霊よ。」
風の加速により左に大きく避けられる。
「まだだ。」
宇宙の輝きを持つ尖った結晶が天掛の魔術式から放たれた。
「避けられねぇな。」
赤髪の青年は何かを悟ったような表情をする。同時に彼のシールドが砕け散る。白いガラス片のようなものが飛び散り霧散していく。
「そこまで。」
蟹沢先生から終了の声がかかった。
「天掛、お前強いな。」
訓練で疲れた様子の明石に話しかけられる。
「そうだろ。明石、見たか俺の魔術を。」
クラスの別の組合わせが訓練するのを見ながら答えた。
「いや、力が。あんな金棒振り回す人見たことねぇよ。ほら、今やってるのを見てみろよ。」
明石が指をさした先にいる訓練中のクラスメイトは魔術補助のための杖や水晶を持っているが振り回してはいなかった。
「そうか、魔術も頑張ってるんだがな。」
ダンジョン攻略を一人でやるには必要だったんだよな。いくらシールド発生装置が開発されて子どもでも怪我はしないと言われるようになったとはいえ、全ての物理攻撃をシールドで受けながら行くのは無理があるしな。
「魔術も十分に強かったですよ。」
横で話を聞いていた蟹沢先生がフォローをした。今の訓練は別の先生が見ているようだ。
「あ、先生。ありがとうございます。」
「先生、天掛が物理メインで戦うんですよ。いいんすか、魔術訓練ですよ。正直、あの金棒はでかくてトゲトゲで怖いっすよ。」
「いいと思いますよ。物理メインの魔術師もいないことはないですからね。授業で習ったかもしれませんが、大昔に実在したとされる勇者の仲間の魔術師であっても杖を武器にして戦ったとされていますよ。」
たしかに古い魔術師一族は今でも武器を使うって噂を聞いたことがあるな。しかし、勇者か。本当にいたのかね。あの教科書が参考にした歴史書は宗教色が強いって話でかなり盛られているそうじゃないか。
「ええー。そうなんすか。」
明石は納得できないといった様子だ。
「そうですよ。これからの授業で近接戦闘の基礎は教える機会があるかもしれません。それにしても身体能力の強化を含めても凄い筋力ですね、天掛くん。」
「ありがとうございます。」
「俺も筋トレしようかな。」
明石がぽろっと言った。
「はぁ、疲れた。これだから魔術訓練は。」
金棒のせいで人一倍疲れた。別に重くないということはなく、慣れない頃は今より疲れていた記憶がある。
今は放課後の図書室で委員の仕事として座っていた。人は少ない。本を使って調べものをする真面目学生は少ないからな。
そもそも調べものならここじゃなくて、インターネットでできるからな。
「すごかったですね天掛さん。どうやって振り回してるんですか。」
ゆったりと椅子に座って本を読んでいると、金髪のエルフが話しかけてきた。たしか俺のクラスの委員長だったな。名前は、
「レフテンシアさん。どうって筋力ですよ。パワーこそが戦闘を勝利する鍵なんですよ。」
「そうなんですか。私も筋トレします。」
真面目に関心した表情をしている。
「冗談です。信じないでくださいよ。俺らは魔術学徒なんですよ。筋トレもありですが、基本は魔術をコツコツ練習するんです。筋力も魔術で強化されていますからね。」
「騙されました。そうですよね。」
はっとした顔をしている。本当に真面目に言ってたのか。正直、ネタだと思っていた。
まあ、一旦いいや。
「何か用ですか。まさかそれを聞きたいだけってことはないですよね。」
「それだけと言えばそれだけなんですが。」
「え。」
「いやいや違いますよ。天掛さん。いつもすぐに帰ってしまいますしクラス長としてどんな人か見てみようと思いまして。」
「誰が放課後直帰勢の悲しい人ですか。ひどいです。」
泣き真似をする。少しだけ本当の涙もあったかもしれない。
「あっあっ、すいません!。」
90°のお辞儀だった。見てるこっちが申し訳なくなるくらい誠意が伝わってきた。
「いや、本気で謝らないでください。びびりますって。」
「うわ、天掛が女の子謝らせてる。」
隣に座ってた木手が話しかけてきた。
「いや、ちがうわ。顔をあげてくださいレフテンシアさん。」
「はい。」
やめてくれた。新手のいじめだろうか。
「あれ、美月さん。今年も図書委員なんですか。」
「なんだ、知り合いか。」
委員の仕事中は大抵お互いに本を読んでいて、そんなに喋ることはないので木手の友人関係はよく知らない。
「まぁ、去年のクラスのね。エリーズはバカ真面目なの。気をつけてね。」
「いやーそれほどじゃないですよ。」
自覚ないのか。わざとかもしれないけど。
それから少しだけ三人で雑談をした。
「では、委員会がんばってください。」
「ありがとうございます。」
「どうも、またね。」
レフテンシアさんが去った後。
「へーあの子ってこんな感じだったのか。」
「かわいい子でしょ。真面目すぎるけど。」
「そうだな。真面目だ。」
「でしょ。」
「だが、あの真面目さで問題にならなければいいんだが。去年は何もなかったのか。」
「うーん、ちょっと煙たがれてたかな。でも根はいい子だし周りもそれは知ってるから、そこまでだったと思うよ。」
「そうか。」
意外とわきまえてるのか。それとも、あの真面目さに影響されて周囲もそうなったのかな。今後の学校生活で何もなければいいか。
「ていうか、敬語似合わないね。ちょっときもいよ。」
初めて喋る人や女子相手だと敬語になってしまう。いつこんな癖がついたのかは分からないのだが砕けすぎな態度であるよりもいいだろうと直すつもりはなかった。
「いや、木手にも初期は敬語だったろ。」
「そうだったけ、忘れちゃった。」
「忘れないでくださいよ。つい一年前のことじゃないですか。」
「やっぱり、ちょっときもい。ふふっ。」
イラっとした。見た目がお子さまだからよりいっそう。
「今日の鍵当番は木手な。」
「えー、じゃんけんでしょー。」
「それもそうだな。」
じゃんけんには負けた。うまくいかないものだ。悪いことでもしたのかな。運気を下げるようなことをした覚えはないのだけど。
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