新学期編
第1話 新学期における
「
遠慮がちに拍手が起こった。つまらない挨拶だが百点満点だな。個人的に自己紹介というものは個性が出ると思う。その個性を消すことで俺はモブな人物だと周囲に知らしめる。それによって自己紹介で派手なことをする必要は全くない。そんな流れを作り出す。その方が心臓に優しいだろう。個性など後々に知ってゆくものなんだ。
どうも、今年から魔術学校の二年生の天掛だ。クラスを見まわすと人、エルフっぽい人、耳が獣っぽい人、やけに背が低い人、高い人とぱっと見でも様々な人種がいるようだな。昔は見かける度に驚いたものだったが流石に今は慣れて、ああいるなくらいになっているんだがな。
今日は四月某日の始業式で現在新クラスメイトたちが自己紹介をしている最中だ。
ちょうど今最後の人が紹介を終えた。
「では、皆さん自己紹介できましたか。今日からよろしくお願いしますね。二年三組の担当の
おおイケメンだ。銀髪の長身で心なしか笑顔が光り輝いている気さえしてきた。いや、気のせいか。
魔術教師で若手ってことはかなりのやり手なんだろうか。それともコネか?どちらかというとあの雰囲気はエリート魔術師一族なきがするが、うわっこっちみた。
咄嗟に目を逸らす。気まずいな。どうにも先生というか人の視線は苦手なんだよな。そう考えていると号令を先生がかけた。
「今日のホームルームはここまでです。礼。」
『ありがとうございましたー』
―放課後の教室―
「新しい先生イケメンだったな!」
「確かにたしかに」
「一流の気配ありっすな。」
クラスメイトの会話に俺は心の中で頷きつつ、静かに鞄を手に持って帰ることにした。教室には残らない派の人間だ。そのせいか友達が少ない。早くに教室を出るから一緒に下校ということもないし、クラスメイトとの会話の機会も減る。これは負のサイクルなのではないかと考えるが二年生になってもその習慣を変えるつもりも機会も勇気もなかった。
「ただいまー」
返事がない。早くに学校が終わったから誰もいないのか。帰ってくるのはいつになるんだろう。さっさと手を洗って部屋に戻る。
「てってれー天掛樫人のおやつターイム!」
三時頃、俺はやっていたゲームを中断してリビングにやってきた。帰りのコンビニで買ったお菓子と柑橘系のジュースを机に並べて、テレビをつけてから食べ始める。
「うめぇ」
テレビを見る。ニュース番組がやっている。
「今日から新学期という人も多いと思いますので、タイミングよく桜が満開ですねー。」
画面のキャスターの後ろに桜の道っていう感じの公園がある。
桜か、学校にも門の前とかに植えてあったな。あの学校は広いからあそこ以外にも生えてたりするのかな。中庭とか。
そんなこんなで十分くらいテレビを見ながらおやつを食べた。ジュースと包装紙をごみ箱に捨て、テレビを消す。部屋に戻ってゲームを再開した。
その後は夕飯食って、シャワーを浴びて部屋の椅子に座る。魔術を使い続けるとその魔術系統が得意になるらしいので訓練をする。俗に言う空打ち訓練だ。これをより早くマナが減り少しの疲労を覚えるまで繰り返す。早くやるのは終えてさっさと寝たいからだ。時間かけて成果が上がったって話は聞いたことないしな。
空中に結晶魔術と宇宙魔術を平行して使う。右手で結晶生成、左手でプチふれあを使い結晶を砕く。散った結晶は魔術強度が下がり透明になり消えていく。部屋が散らかさないかつ両手で行うことで速度は二倍、なんて効率が良いのだろうか。天才と呼んでもらって構わないよ。
続けていると全身がだるくなる。これがあるから魔術の訓練って嫌なんだよね。
失敗したらたまに爆発するし、成功しても効果を実感できたのは最初の三か月とかで今は変わってんのかこれってくらい何も感じないんだよな。その割に体はしっかりだるくなるしな。まあ、いいや。今日もお疲れ、おやすみなさい。
―翌日―
目覚める。時計を見て今日が明日であることを確認する。当然のように日付が変わっている。まだ、五時半か。もう少し寝れるな。
六時半に目覚ましに叩き起こされて母が作った朝ごはんを食べた。目玉焼きにサラダ、主食は米だ。
「ごちそうさま。」
今日もおいしかった。毎日作ってくれることに感謝する。今日も学校だ。今日からは通常授業なので面倒に思う。忘れ物がないかを確認して、
「いってきまーす。」
「いってらっしゃーい。」
後ろから母の声が聞こえた。父は俺が寝ている間にすでに家を出ていたので声は聞こえない。
学校に着いてさっさと教室に向かう。教室には既にクラスメイトの半数以上が来ているようだった。無言で席に向かい、そして座る。
「おはよう。」
「ああ、おはようございます。」
隣の席の奴が挨拶をしてきた。目立つ赤髪に活発そうな笑顔であり、昨日の自己紹介でもウケ狙いの挨拶だったと思う。たしか名前は、
「俺、
「
「なあ、このクラスって美人が多いよな。これからの新学期が楽しみになるもんだよな。天掛はどう思う。」
周りを見る。こいつは多数の人間がいる中でもこの発言をできるのか。無難な返しをすることが必要だ。クラスメイトが聞いているかもしれない。慎重になれ。
「たしかにそうかもしれないが、女子と話すことって少なくないか。」
「それな!でも、これからだぜ。」
それから、少し去年のことについて雑談をしていると、ドアが開いた。
「出席とりまーす。」
そして授業が進んでいく。
これで最後の授業だな。
「では、学級委員長や委員会を決めます。」
クラス長やりたい奴とかいるのかな。正直、クラスの雑事と面倒事を押し付けられているだけだと思うんだけど。膠着状態になると予想するが、すぐに手が上がった。
「はい。」
先生が辺りを見渡す。
「他にやりたい人もいないようなので軽く挨拶をお願いします。」
一人の女生徒が前に歩いて行った。
「エリーズ レフテンシアです。えーと、これからクラスの皆さんをまとめてより良い学校生活を送れるようにしたいと思っています。よろしくお願いします。」
大きな拍手が起こった。俺もその一部である。
エルフの女子だ。金髪で色白の美人、この容姿は人生において大いに得してそうである。羨ましい限りだね。まったく。
お辞儀をしてその拍手に応えている。
「ありがとうございました。この後の委員会決めはレフテンシアさんにお願いします。やってくれますか。」
「はい。」
それから委員会や係が順調に決まっていった。俺は去年に引き続き図書委員になった。図書委員といっても魔導書の管理は生徒には許可されていないので結構楽な仕事だ。この学校の図書館は広いから普通の本も多いように思えるがゴーレムさんがその本の整理もやってくれる。本の貸し出しも目の前の機械でできる。俺がやるのはせいぜい本を読むことくらいだ。
放課後、俺は静かに鞄を持って帰ることにした。もちろん一人で。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます