第十三話
天井が崩れた瞬間、何者かの気配も一緒に近づいてくる感覚がした。誰かは分からないが、良い予感はしなかった。
刀を抜いて構える時間がなかったので、咄嗟に抜刀しないまま鞘ごと攻撃を受け止めた。天井も落ちてきたからか、思った以上に衝撃は重く、そのまま床に打ちつけられた。
砂埃が舞ってもよく映える銀の刃は、容赦なく顔目掛けて鋒を向けられており、その力は衰えることがない。
「おやおや。気持ち悪い気配があると思ったら、小娘じゃナイ」
「うわ」
視界が開けて出てきたのは、できれば二度と見たくなかった狐顔。まとわりつくようなねちっこいオカマ口調に、秋花はうんざりな表情を見せた。
「あーんたみたいな小娘が、まだ生きていたなんて、アタシったら運がいいわ!!」
「運が悪いの間違いで……は!!」
防御した鞘の力を緩めた弾みで秋花は思い切り膝を振り上げた。振り上げた足は勢いよく奴の急所に直撃した。
「ああああああああああああああああdkljf;あdjがljgl;あdj;gぁjl;dgじゃlj!!!!!!」
悶え苦しんでいる隙に、秋花は続けざまに顔面を殴り、馬乗り状態から抜け出した。
「知り合いか?」
「彼は……名前は忘れましたが、要はうちの商売敵です。弱いクセに話し方も性格もねちっこいのでどうも嫌いで」
「蛇の邪碑よ! 私もあんたのこと大っ嫌いよ!! たかが一回運良く優勢取れただけで!!」
「その格好で虚勢を張られても……」
股間へのダメージが強すぎて一歩も動けないまま、邪碑は顔を向ける代わりにケツ穴をこちらに向けて会話している。
「それより、何故貴方がここに」
「加勢の依頼を受けたの。喧嘩ふっかけるから来てくれって。縁あってあんたが噛んでる案件だって言うから、喜んで引き受けてやったわ。せっかく命拾いしたのに私に目をつけられてご愁傷様!」
「!!」
そう言って振り返りざまに、邪碑は何かを秋花に向けて黒い物体を放り投げた。
秋花の足元に転がるその黒い物体は、すでに着火された手榴弾。投げ返す間もなく、3人の至近距離で手榴弾は爆発した。
邪碑が寄越した手榴弾は、彼手製の#ただの手榴弾__・__#。
神や妖を殺すには、神通力が込められた神器や、妖力が篭もった付喪神付きの物に限られている。もちろん、この状況で妖力が込められていない手榴弾の攻撃をくらったとしても、神である二人に効果はない。つまり、これは人間を殺すためにだけ作られた武器。
邪碑は、秋花が人間であることを知っている。
「命拾いしてたのはどっちか」
煙の中から姿を現れ、邪碑を狙って大きく刀を振り下ろす秋花。痛みのピークを超えた邪碑は、軽々と彼女の攻撃を躱した。
(私を狙った武器の精製……妖力が掛けられていない武器に素戔嗚が気付けば、私の正体がバレる危険性が高い。今ここでバレるわけには!)
「今日はあんたの命、頂くわ!」
「加勢なら私よりも僧正坊様の首を狙っては?」
「あ~ら、残念! 枯れたジジイより生意気な小娘の首の方が取った甲斐があるの、ヨ!!」
秋花が首を狙った攻撃の躱しざま、邪碑は彼女の刀を切り砕いた。
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