第32話 最上くんはROCKする②

 僕の名前は高橋タダフミ。女人にょにん鑑定家であり、音楽評論家(自称)だ。


 ネットなどで手軽にかつ大量に手に入れられる情報や練習機材の進化によって、昨今のバンドマンの演奏スキルはかなり高くなってきている。


 現に、いま僕の目の前で最近のヒットソングを演奏している文化祭バンドは、「プロか?」と見間違えるほど完璧にコピーしている。


 たしかに上手い。しかし、何かが物足りない。みんな上品で仲良しでお行儀がよくて──そして退屈だ。


(なんでこんなに退屈なんだろうか?)


 などと、もの思いに耽っていたときだった。




Rアール! Oオー! Cシー! Kケイ!」




 ドスの利いた声で変なカウントが叫ばれて、僕は驚いて飛び上がった。


 これは──九〇年代後半に活躍したオルタナバンドがやっていたお約束のカウント方法じゃないか! って、今どきだれが知ってるっていうんだよ!


 そのあとシンプルなリフが爆音で鳴った。


 他のバンドがニコニコ笑顔で和気藹々わきあいあいと演奏していたのに対し、このバンドは楽器を刀がわりにして四つ巴の真剣勝負でもしているかのように、お互いを睨みつけて威嚇し合っている。


 ジャージャージャジャッ、チッチッチッチッ、ジャージャージャジャッ──


 このイントロのリフには聞き覚えがある──八〇年代の日本のハードコアパンクロックバンドで……たしかバンド名がどっかの独裁者の名前だったような……


 にしても、ひどい演奏だ。ドラムは思いっきり素人。ドカドカとうるさいだけで、テンポキープさえできていない。それになんだ、あのビニール風船人形ダッチワイフは? もしかしてあれって、体育祭のときに会場を阿鼻叫喚にした人形じゃないか?


 で、リーゼント頭のベースは……カッコいいじゃないか。細身の高身長で白いフェンダープレシジョンベースを腰の下で低く構え、口元を歪めて弾くさまは、まさにシド・ヴィシャス! でも、こちらも暴れることを目的にしているようで、まともに演奏する気はないようだ。


 そしてギターは──え? 女子か? ベースの奴とは対照的に背が小さい。ウチの制服を着ていなければ中学生かとおもっただろう。いかにも陰キャのサブカル女子って感じだけど、演奏は……え? すごくないか? わざと不協和音を鳴らしているようなオブリ(合いの手のようなフレーズ)とか、カッコよ。なにこの子!


 そして、ボーカルギターの奴は……ジャッキジャキだな。脇に抱えるようにして高い位置で弾いてるテレキャスターから出る音が硬質の金属音のようにジャッキジャキだ。歌もダミ声でギャーギャー喚いているだけだし──て、ちょっ……ちょっと待てよ! もしかしてアレって、我が崇高な趣味であるOP鑑定の邪魔をした憎き宿敵〈最上もがみガモン〉ではないか!


 なんで……なんでアイツがこんなバンドやってんだよ!

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