第33話 最上くんはROCKする③

(え? これはなに? どういうことなの最上もがみくん? サングラスはわかるにしてもなんで柔道着なの? それにあの人形はなんなの? わからない。なにもかもがわからない──)


 蘆毛あしもフミカは困惑していた。


 ふと観客をみると、だれもがフミカと似たような反応をしていた。ナニコレ? といった顔だ。


 それにフミカがいままで聴いたことがない激しい音楽──それが大音量で迫ってきて、心臓が苦しい。


 フミカは最上の横でギターを弾いている女子に気づいた。


(……あ。あの子、この前最上くんといた……)


 最上と一緒に帰っていたギターケースを背負った女の子──遠野とおのナギだ。


 フミカの知らない最上がそこにいて、その横には自分ではない他の女の子が立っている。フミカは、心臓をギュッと握りしめられたような感覚になり、さらに胸が苦しくなった。


 四曲を演奏し終わり、五曲目がはじまった。客は相変わらずポカーンとしている。


 五曲目はすこし曲調が変わり、いままでよりもメロディーがあって、歌が聴きやすかった。


 そのせいか、歌詞の一部が聞き取れた。


 それはたとえば──




 ぐるぐるぐるぐる いったりきたり

 ぐるぐるぐるぐる いま何周目


 あの子をみかけた

 あの子をみつけた

 あの子の瞳は

 緑がかった灰色だった


 いつでもあの子を さがしてる

 毎週毎週 さがしてる

 終わりがなくても さがしてる

 灰色の瞳を さがしてる




 ──みたいな歌だった。


 どうやらそれが最後の曲だったらしい。演奏を終えると最上が、


「どうも。フライング・ダッチマンズでした」


 とマイクにむかって言った。


 それからドラムに立てかけていたビニール風船人形ダッチワイフをおもむろにつかむと、観客のド真ん中にそれを投げこんだ。


 歓声ではなく悲鳴が上がった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る