第31話 最上くんはROCKする①
音楽室に近づくにつれ、なにやら楽器を演奏している音が聞こえてきた。
音楽室は、いつもなら吹奏楽部が部室としてつかっているので放課後になるといろいろな管楽器の音色が織りなす完璧にコントロールされた演奏が聞こえてくるが、今日はちがった。荒々しいエレキギターやドラムの音だ。
『軽音楽部ライブ会場』
と貼り紙された薄い木製の扉に遮音効果はほぼなく、室内の大音量が漏れている。
「軽音楽部?」フミカのつぶやきは大音量にかき消され、ヒナとユズハには届かなかった。
「うひょー! ライブだって、面白そう! はやく入ろう!」ヒナが大声を張り上げる。
扉を開けるとさっきの倍以上の音量が鼓膜を突き刺した。おもわず耳を塞ぐフミカ。
音楽室は遮光カーテンが閉められて暗く、ステージだけが部屋の両脇に立てられたスポットライトに照らされていた。スポットライトには四色のフィルムが貼られた車輪がついており、それをクルクル回すことでステージは赤、青、黄色、緑と目まぐるしく色を変え、華やかに映えた。
ステージの上では五人構成のバンドが最近のヒットソングを演奏していた。その演奏はフミカの素人の耳にもわかるほど技術的に洗練されていた。
客入りは音楽室がほぼ埋まるほどで、一曲終わるごとに歓声が上がる。
フミカは、両隣でヒナとユズハが踊り狂っていたことに閉口したが、それでもフミカなりにライブをたのしんだ。
バンドが最後の曲を演奏し終わり、称賛の拍手のなか舞台を降りた。しばらくして次のバンドがステージに上がりセッティングをはじめたのだが、彼らの恰好をみた観客たちがざわつきはじめた。
ステージに上がった四人全員が、制服の上に柔道着の上衣だけ羽織り、顔にはサングラスをかけていた。そして同様に、柔道着とサングラスをつけた
「え、ちょっ。もしや、あれは
「ええ、まさか~」とフミカは目を凝らす。サングラスで気づかなかったが、たしかに最上だ。
「ほんとだ、最上くんじゃん」ヒナも気づいたようだ。
ステージの四人はお互いにアイコンタクトを送って、セッティングが完了したことを確認した。
最上が中央のマイクにむかって言う。
「こんにちわ。フライング・ダッチマンズです」
最上は後ろを振り返り、カウント(ワン、ツー、スリー、フォー)の代わりに、
「
と叫んだ。
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