第23話 最上くんは出てこない

 私の名前は、本郷ほんごうツバサ──文芸誌の編集者をしている。


 慢性的な肩コリと腰痛持ちの私は週に一回整体にかよっているのだが、今日はその日だった。


「こんにちわ」


「こんにちわ、本郷さん。お待ちしてました。奥へどうぞ」


 奥の更衣室で施術用の服に着替えて、マッサージベッドにうつ伏せに寝る。


 この整体院はウチの編集長におしえてもらったのだが、どうやら以前ここの院長と編集長が組んで健康本を出版したことがあるらしい。


 その本のタイトルは、


『ぽっこりお腹と下半身太りもコレで解決! サンチン立ちとナンバ歩きでやせるダイエット法!』


 だそうだ……まあ、タイトルだけではどんなダイエット法なのかいまいちわからないが、なんと当時大ヒットして「ドバッと」が流行語大賞にノミネートされたとか、されないとか──。


「本郷さん、最近座り作業がつづいてましたか?」


「えっ、なんでわかるんですか? 昨日締切だったので先週から追い込みでした」


「サンチン立ちはやってますか?」


 院長曰く──サンチン立ちを毎日十秒つづけるだけで全身の骨の歪みが矯正され、リンパの流れがよくなり、疲れにくい体になるそうだ。


「いや、ちょっとサボってます」


「十秒でいいんでね、やってくださいね。ダイエット効果もありますから」


「はい、やります」




 施術が終わり、服を着替え、会計をしていたときだった。受付のうしろの壁にかけてあった写真が目が入った。


「あっ!」


 私はおもわず声が出てしまった。


「え? どうしました?」


 院長が不思議そうに私をみていた。


「え、いや、あの……うしろの写真に写っているのは院長のお子さんですか?」


「え? ああ、そうですよ。これは小四のときですけどね。もう来年中学生になります」


 写真に写っていたのは、私がこの前ガモン君のデートを目撃したときにみかけた少年だった。スンゴイ顔でガモン君と隣の女の子を睨みつけていた少年──どこかでみたことがあるとおもったが、まさかこの整体院だったとは……。


「失礼ですが、お子様のお名前は?」


「フトシといいます。最近生意気でね。手を焼いてますよ」


「そ、そうですか……あ、もしかしてお姉さんとかいらっしゃいますか?」


「ええ、ご存じでしたっけ? 高一の女の子がいます」


(ビンゴ!)


 私は心のなかで叫んだ。なにがビンゴなのかよくわからないが……。


 私は不思議な高揚感に浸りながら整体院をあとにしたのだった。

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