第24話 最上くんは帰らない

 夏休みが終わり、二学期となった。


 新学期をむかえた蘆毛あしもフミカは、夏休み中の部活動のせいで、小麦色に日焼けしていた。


「透き通る色白もよかったですが、健康的褐色肌のフミカ氏もなかなかソソるものがありますなぁ」


 フミカの中学時代からの悪友ユズハがよだれをぬぐう仕草をみせた。


「いっそのこと髪の毛を金髪にして黒ギャルになっちゃうってのもいいんじゃない?」


 もう一人の悪友ヒナがここぞとばかりにイジる。


「むおお、そりゃエロいっすわー」とユズハがのっかる。


 この二人が悪ふざけモードに入ったら気が済むまでやめないことを知っているので、フミカは諦めてされるがままだ。


 新学期初日の教室、ひさしぶりに会う友人の夏休み中に起きた変化──だれもがいつもよりすこしだけ浮かれてしまうのはしかたがない。


 フミカは横目で最上もがみガモンの席をみる。イヤホンをしながら文庫本を読んでいる最上の姿があった。


(最上くんは夏休み前とおんなじ……かわらないな)


 フミカは夏休みに最上といっしょに映画を観にいったことを思い出す。


(あれってやっぱり、デート……だよね)


 生まれてはじめてのデートについてはヒナとユズハにはまだ話していない。というか、なにをいわれるかわからないからこのまま二人には話さなくていいか、などとフミカは考えていた。




     ×   ×   ×




 一日分の授業が終了し、帰りのホームルームのあと、最上がフミカの席にやってきた。


「蘆毛さん」


「あ、最上くん。わたし今日も部活なんだ」


 フミカが部活の日は、最上はいつも部活が終わるまで待ってくれていた。駅までの短い距離をいっしょに帰るために。だから今日いつも通り「じゃあ、待ってるよ」という台詞が返ってくるとおもっていた。しかし今日ちがった。


「そのことなんだけど──」




     ×   ×   ×




 西陽の差す一階玄関で、フミカは下駄箱にあったローファーを取り出し、上履きを仕舞う。


(べつに必ず帰るって約束してたわけじゃないし……)


 ローファーを履くとフミカは一人で校舎を出た。


(最上くんにだって用事はあるだろうし……)


 駅までは数百メートルほどで十分足らずで着いてしまう。そんな短い帰り道、フミカの隣に最上はいない。


 フミカは放課後に最上にいわれたことを思い出していた。




「そのことなんだけど、俺、今月はちょっと用事があって、しばらく一緒に帰れないんだ。ごめん」




 ──ああ、なんだろ? だんだんイライラしてきた。つーか、なによ用事って? いったいどんな用事? はっきり言えばいいじゃない。それともわたしに言えないような用事なのかしら? それに「一緒に帰れないんだ。ごめん」てなに? まるでこっちが「一緒に帰ってください」ってお願いしたみたいじゃない。なによ! わたしのこと「好き」っていったくせに! あああ、なんかすんげーイライラする! 最上くんのバカ!

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