第11話 最上くんは宣言する
球技大会決勝戦の相手は三年生だった。
三年チームのメンバーの半数以上がサッカー部だったから、大方の予想では一年チームに勝ち目はないとおもわれていた。が、後半に入っても両チームとも無得点のまま。一年チームの完封記録はつづいていた──
(正直、ここまでやれるとは……)塚本はおもった。
じつはサッカー部の塚本以外にもサッカー経験者がクラスに何人かいた。
(サッカーをやってた奴らはみんな攻撃的なポジションをやりたがった。そのおかげで守備陣はサッカー未経験者および運動が苦手な連中ばかりに──それなのに無失点記録を更新しつづけている。その要因は……)
塚本は、戦況すべてを掌握しているかのような
塚本はおもう。
(この試合をみてる人間の中でいったい何人がわかってるんだろう──この試合を
〈中盤の底〉にポジションをとり、相手の攻撃の芽を事前に摘み、後方から前線にボールを供給していたのは──最上ガモンだった。
そのプレイはFCバルセロナのピボーテ(※1)、ブスケツを彷彿とさせた。
「おい、塚本」サッカー部の先輩が試合の合間に声をかけてきた。「お前んとこのディフェンスいいな。お前が教えたのか?」
「あ……いえ」
「なかなかやるじゃん。でもウチらが勝つぜ」
実際、三年チームに攻めつづけられて防戦一方な試合展開になっていた。そのせいで、一年チーム内には疲れと苛立ちがつのっていた。
──そんな中、ついにディフェンスラインが突破され、初失点を許してしまった。
フラストレーションがたまっていた一年チームのサッカー経験者の一人が、
「おい、なにやってんだよ! 下手クソ!」
と味方の守備陣を責めるような発言をした。
それを聞いた塚本が、
「おい、そんないい方ないだろ。あいつらはいままでゼロ点に抑えてたんだぞ」
といった。
「……悪りぃ。そうだったな」
「それにみろよ。一番悔しがってるのはあいつらだ」
いままでサッカーなんかまったく興味がなく、いつも教室の隅で目立たないようにしていた連中が、たった一点の失点に心底悔しがっていた。
(五点くらい点をとられててもおかしくなかったのに……)塚本はおもう。
「はいはい。まだ試合は終わってないぞ。引きずるな。切り替えてこう」
最上が守備陣に声をかける。
(ああやって未経験者が萎縮したりしないように声をかけつづけ、
三年チームの老獪なポジショニングのせいで、一年チームのパスはカットされ、ドリブルは止められた。塚本には攻撃できる隙をみつけることができなかった。
「なあ、林。ちょっと任せていいか」という最上の声が聞こえた。みると、最上がセンターバックの林にいっていた。
「任せるって……」林が不安げにいう。
「ちょっとココ離れるわ。点、
最上は宣言した。
(※1)ピボーテ……スペイン語で「軸」の意味。サッカーにおいて中盤の底からゲームをつくるプレイヤー、ポジションのことをいう。代表的な選手にグアルディオラ、ブスケツなど。
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