密室に置かれた予告状13
案の定と言うべきか、予想通りと言うべきか、葵木を連れ立って例の階段へと向かうと、踊り場に紡の姿があった。
「どうしてここに居るってわかったんだい?」
不思議そうな顔をする葵木だが、今はその説明よりも紡に先に聞かなければならない事がある。
「おい。後輩!真理部の奴にはあたしがここに居るって話さないって約束したじゃないか!」
たしかに紡とはそんな約束を交わした気がするが、少し違う。
というか、おい後輩って酷くない?
「いえ、違いますよ。推理先輩と、綾先輩には話すなとは言われましたが、葵木に話すなとは言われてたいませんよ」
「ぐぬぬぬ。たしかに」
自らの否を認められる潔さは持ち合わせているようで、紡は面白い顔をした後、小さく頷いた。
「先輩。単刀直入に伺いますが、推理先輩に何をしたんですか?」
「お、お前達になんで、話さないと行けないんだ!あたしは話さないぞ」
プイとそっぽを向いてしまった紡だが、チラチラとこちらに視線を送っているのは丸わかりだ。
「推理先輩と仲直りしたいんでしょう?今だったら紡先輩の出方次第では、俺も葵木も協力しないでもないんですがね」
順を追って話していると、紡では時間がかかりすぎると判断して、アメとムチ作戦に出た俺。
実際乗りかかった船だし、この際協力してやってもいいと思った訳だ。
果たして吉と出るか凶と出るか。
「ほ、本当か?で、でも、お前達もあたしを悪者にしたりしないか?」
「それは紡先輩次第。さあ、刻一刻と決断の時は迫っていますよ。十、九、八────」
自分でもよくわからないカウントダウン演出を始めると、紡はアワワワと慌てた様子を見せる。
「七、六、五、四、三」
「わ、わかったよ。言うよ。言えば良いんだろ?」
やはりこの先輩はチョロい。推理もチョロいが、その数倍は紡の方がチョロい。
俺の横に立っている葵木も、笑いを堪えるのを必死だ。
「推理先輩を停学に追い込もうとした。という所まではこちらも感知しているので、なぜそのようになってしまったのかを完結に述べてください」
「お前達、そこまで知っていたのか。あたしは停学に追い込もうとしたんじゃないぞ!推理を不良生徒から守ろうと思ったんだ!」
「不良生徒からね。まず何があったんですか?」
「まだ、お前達が入学してくる前。半年程前の話になる。まだ、あたしも綾も推理も一年生だった頃のお話だ」
横で葵木がメモを取り始め、カリカリとメモ帳の上をボールペンが走る音が踊り場に響く。
「推理はああ見えて、正義感が強いんだ。隠れてバイク通学している不良上級生を、先生にチクったんだ」
俺達の通う西高では、バイク通学はおろか、バイクに乗ることさえ禁止されていたはずだ。免許取れる歳になるのに乗れないと嘆いているクラスメイト同士の会話を耳にしたこともある。
少し言葉は悪いが、推理が上級生の不正を報告したという事だろう。
推理の行いは正しい事だろうが、相手によっては反感を買う事になるだろうな。
「そうしたら、その不良上級生達は停学になって、怒ったんだ。犯人を推理なんじゃないかと決めつけて、あたしの所に探りを入れに来たんだよ」
「ほう」
ここまではよくあるような話ではないだろうか。絶対的に正しい事が、狭いコミュニティ内においては悪だとみなされ、報復をされる。
「だから、こう言ってやったんだ。推理もバイク通学してるぞ!って」
「はっ!?してるのか!?」
唐突な紡の告白に、声を荒げて聞き返してしまった。推理は真面目そうだなと思っていたのに、意外だな。
葵木もメモから視線を外して、紡ぐの方を真っ直ぐに見ている。
「してないぞ」
「は?だったらなんでそんな事を言ったんだよ?」
あまりの驚きに思わずタメ口になってしまっていたが、この時は全く気がついていなかった。
「だって、そう言ったら推理を守れると思ったんだ。同じ悪さをしてる奴なら同じ悪さをしてる奴をチクったりはしないだろ?」
「え、あー、うん」
そうであって、そうでないような……
いや、確実に違うだろ。
それで仲間認定させて、推理を守るってのもかなり無理がある話だ。
紡がそこで肯定しても、推理本人に話が及べばすぐに瓦解してしまうような嘘。
その場しのぎとはこういう事を言うんだなとあもいながら、紡ぐの言葉を待った。
「でもな、そいつらが、今度は推理の事をチクったんだ」
「あー、なるほどね」
事件の全貌が見えてきた気がする。
「少し話を整理するがこういう事であってるか」
「なんだ?」
「若干俺の推測も入るけど、報告されたせいで、推理は教師に呼び出され、叱責された。そこで、停学もちらつかされた。しかし、推理は反論して、証拠も示し、無罪を勝ち取った。そして、その情報の出どころを探ったら紡先輩だったって所か?それで推理先輩を怒らせたと」
「そ、そのとおりだ」
「すごいね阿部君。僕は聞いてても全然わからなかったのに」
「別に凄くないさ。ロジックを組み立てて行けば誰にだってわかることさ」
葵木はえらく関心した様子で、俺に羨望の眼差しを向けてくるが、今この場の主人公は紡だ。
「で、紡先輩は謝ることも、真相を話す事もできず今にいたると?」
「その通りなのだ」
肯定すると同時に紡ぐはガックシと項垂れた。
ふむ。なるほどな。紡は良かれと思ってやった事だろうが、やり方が悪かったな。
紡の項垂れた様子からは、反省している事も見て取れるし、推理を守ろうとしてやってしまった事だと言うことも理解できた。
どういう思考をしたらそうなってしまうのかはわからないが。
しかし、同時に綾が葵木に話した事も真実なのではないかと思えた。
推理と紡がお互いを気にし合っている。
きっと推理は紡の事をよく理解しているはずなのだ。小さい頃からの幼馴染みなのだから。
つまり、推理を貶めようとした事件には裏があるのではないかと、推理も薄々は感じているのでは無いだろうか?
だとしたら、そこから導き出せる答えは。
「紡先輩。俺達が仲直りさせてやるよ」
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