密室に置かれた予告状10

 大人しく授業を受け、ホームルームもこなし、いよいよ放課後となった。


 俺としても、犯人としても消化不良な結果にはなってしまうが、カメラを回収して、映像を確認すれば、全て解決に導かれるはずだ。


 何を求めて怪文書を部室内に置いたのか。そんな事は犯人をとっ捕まえて、直接聞き出せばいいのさ。


 なんせあの怪文書がノイズとなって、に取りかかれないのは、俺にとってはマイナスでしかないのだから。


 悪いな犯人。タイミングが悪かったと割り切ってくれ。


 机の中の荷物を全てリュックの中に移して、準備万端と背中に背負って、いざ準備室へ。


「もう部室へ行くのかい?」


 真理部の部員である、葵木は俺の前の席だ。そのせいで、隠密行動を取るには、かなり不利ではあるが、適当に誤魔化せない相手ではない。


「いや、ちょっと寄り道してからいく」


「へえ。逢引とか?」


「どうしてそうなんだよ。ちょっと用事があるだけだ」


「冗談だよ。雨宮先輩に少し遅くなるかもって、さっき廊下でたまたますれ違った時に言われたんだ。阿部君にも伝えておいてくれって言われたからね。でも逢引しにいくなら問題ないよね」


 ニコリと表情を崩しながら言った。

 今どき逢引なんて表現、初めて聞いたまであるが、それで納得してくれているなら、まあそれでも良いだろう。


 しかも、推理が遅れて来るというのはこちらにとってはかなりのアドバンテージだ。カメラを回収している所を見つかる可能性をかなり下げられる。


「ところでさっきから葵木は何書いてるんだ?」


「ああ、進路調査票だよ。提出するのを忘れていてね。期限が近いから、時間ができた今やっておこうと思ってね」


「ああ。そんなんあったな。すっかり忘れてた」


 ここ最近、考える事が多すぎてすっぽりと抜け落ちてしまっていた。

 家に帰ったら、今日中に俺も書かないとな。

 その頃には煩わしい事が一つ減っている訳だし。うん。


「にしても字上手いな」


 葵木が記入する進路調査票には均整のとれた、特徴的な文字が並んでいた。


 まるで本で見る活字のようなバランスの文字だ。

 こんなのが人間が書けるのかと思わず関心してしまう。


「ああ。小さい頃から辞書が好なんだ。それを真似してノートに写していたら、いつの間にかこうなっていたんだよ」


 辞書を写す。初めて聞く言葉だった。そんな事をするやつが居るんだな。


「やっぱりお前変わってるな」


「いやー。よく言われる」


 別に褒めたつもりはないのに照れる葵木に少し呆れた。


「じゃあそろそろ行くわ」


 葵木に不信感を与える訳にもいかないが、あまり時間を消費するとカメラを回収できなくなる可能性もある。


「ああ。うん。また後でね」


 葵木に見送られ教室を後にし、急いで部室へと向かう。


「だれもいないな」


 周囲を見回して一応確認してみるが、人の気配はない。

 今がチャンスだとカメラを設置した場所を見上げる。

 朝と変わらぬ位置にちゃんと存在していた。


「まいったな」


 しかし、困った事があった。


 170センチそこそこの身長では天井に届かない。


 試しにジャンプしてみたが、微妙に届かない。


 回収する時の事を失念していた。


 近くの空いている教室から椅子でも持ってくるか……


「お前、またなにやってんだ?」


 振り返るまでもなく誰だかわかった。

 こんな人の少ない旧校舎の準備室の近くでフラフラとしていて俺の事をと呼称する女子生徒は一人しかいない。


「良いところに来てくれましたね。俺が馬になるのでカメラを取って下さい」


「えっ、あっ、ああ。いいぞ」


 事態はよく飲み込めていないようだが馬になった俺に乗り、紡はカメラを回収してくれた。


 俺の背中から飛び降りた紡からカメラを受け取り、すぐに歩き始めた。


「どこに行くんだ?」


「いつ誰が来るかわかりません。人が来なそうな場所に行きましょう」


 紡は反論することもなく、大人しく俺の後をついてきた。


 ───────────────────────


 旧校舎の階段の最上階。屋上へと続く踊り場で、俺は


「こんなのありえない」


「急に大きな声を出すからびっくりしたぞ!どうしたんだ」


「大声の一つくらい出したくもなりますよ。だって朝、真理部の四人が部室から出てから、誰も部室の中に入っていないんです」


 人感センサー付きカメラの誤作動も疑ったが、他のものには反応して十件程の録画があったことから、それはないと判断できた。


「それがどうした。当たり前の事じゃないか?」


「当たり前じゃないんですよそれが。真理部にはここ最近、毎日何かしらの物品が外部から持ち込まれているです。俺達が部室にいない間に」


 もしかしたら、犯人に感づかれ、今日は物品が持ち込まれていないのかもしれないが。



「ふーん。だったら、急にパッと現れたんじゃないのか?魔法みたいに」


「そんなことあるわけないじゃないですか。ん……?」


 いや、待てよ。


 急にパッと現れた。か

 無くはない話なのかもしれない。

 昨日の俺もそんな発想をしていたはずだ。

 ジニアは最初からそこにあったのではないかと。


 思い至った結末の正しさを証明するため、俺は今すぐ部室に向かわなければならない。

 もし、今日も新たな物品が現れているとしたら、犯人はあいつでしかありえない。


「先輩すいません。部活に行かなければ行けないので失礼します」


「急にどうしたんだ?」


 不思議そうな顔をする紡に返答もせず、階段を駆け降りた。


「おーい。どうしたんだよー」

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