密室に置かれた予告状8

 推理の正面に置かれていたのは、六枚のコインと一枚の紙。


 コインの方は大中様々で丸い物が四枚。

 七角形の物が二枚。


 紙の方に手を伸ばしてみると、文字が書かれている。

 読んでみると、しっかりとした文章のようだが、一部伏せ字で言葉が隠されている。


『コインにはオモテと◯◯がある』

 その伏せ字の上には注釈がつけられていて『※1』と数字が振られている。


 その下にも伏せ字込みの文章で、同じく注釈『※1』と書かれている。


『あの話しには◯◯がある』


 上の例文から読み解くに、◯◯に入るのはウラだろう。  


 だとすると、同じ注釈1なのだから、下の例文にも当てはめてみると『あの話しにはウラがある』と読み溶ける。


 そもそもあの話しとは、どの話しの事を指しているのだろうか?


 その下にももう一問、例題が書かれている。


『コインの◯◯には意味がある』


 これにも注釈がついていて『※1』と書かれている事から同じくウラが入るのだろう。


 推理の前から一番大きいコインをつまみ上げて裏を見てみると、よくわからない模様が描かれていた。


 右側に獣のような物、左側によくわからない三角形のような模様。それぞれの模様が独立している事を示すように真ん中に線が引かれていて、下には『FIFTY PENSE』とローマ字で書かれている。


 表側も見てみると、年配の横顔の女性が描かれていて、その周りを取り囲むように、円状にローマ字が書かれている。


 それを読み解こうとしていると、葵木が横から口を挟んできた。


「それはイギリスの硬貨みたいだよ。日本で言う所の五十円玉くらいの価値のお金だね」


「よくわかったな」


 葵木は微笑みをたたえてスマホを指さした。


 なるほど。検索したと言う事か。


「残りのコインは?」


「全部イギリスの硬貨みたいだね。小さい方から1ペニー、2ペンス、5ペンス、10ペンス、20ペンス硬貨で、阿部くんが持っているのが50ペンスみたいだね」



「なるほど」


 やはりこういう時、葵木は役に立つ。細かいことを調べてさせたら右に出る者はそうそうと居ないだろう。


「裏の模様はよくわからないわね」


 残りの全部のコインをめくって眺めている推理の感想がそれだった。


 横から覗き込んでみると、推理の言う通り、たしかに裏の模様には統一性は無く、よくわからないデザインだ。


 これの裏面にどんな意味があると言うのだろうか?


「阿部君。まだ設問がもう一問あるみたいだよ」


「えっ、ああ」


 葵木の言う通り、一番下にもう一問設問があった。


『その話の◯◯にはコインにも通ずる秘密がある』


 そもそもその話というのは何を指しているのいるのだろうか?


 コインと通ずる話しね……うん。全くなにも浮かんでこない。


 設問の書いてある紙を推理に返し、皆に一つ質問をした。


「この設問にある、話しとやらに心当たりがある人はいますか?」


 綾と葵木はすぐに首を横に振り、推理の方へ視線を向ける。

 つられて俺もそちらを向くが、推理は今回置かれていた文書の方に夢中な様子で、俺達の視線には気がついていない。


「推理先輩」


 先程より大きな声で呼びかけると、渋々といった様子で顔を上げた。


「なによ。今、思考をするために全精力を使っているから忙しいのだけど」


「はあ。今、先輩が読んでいる文書に書かれているに心当たりはありますか?」


 推理は少し考えるように視線を彷徨わせた後、こちらに向き直り一言だけ。


「ないわね」


「そうですか」


 というより、でしょうねと思ったけど口には出さなかった。


 同じことを思っていたのか葵木と綾も少しガックリしているように見える。


 まあ、推理には期待はしない方が良いだろう。


 その前にもう一つ確認して置かなければならないことを二人に聞いておこう。

 葵木はスマホをポチポチといじっているからここは綾に聞くとする。


「橋渡先輩。このコインはどこに置かれていたんですか?」


「あ、はい。それは葵木君が見つけてくれたんです。本が入っているそこの棚の縁に無造作に置かれていたみたいですよ」


 棚に近づき、他に何か以上はないか見回してみるが特にこれと言った異常は見つからない。


「他の場所も探してみたんですか?」


「いえ。葵木君がすぐに見つけたので。でも、今日は、もう見つからないんじゃないかなと思います」


「どうしてそう言い切れるんですか?」


「そ、それは……」


 俺の問に明らかな動揺を見せる綾。


「怪文書が見つかった日には何も見つからなかった。その次の日にはジニアが見つかった。そして今日、新たなコインと設問が見つかった。一日につき一つだと認識していたという事ですよね。先輩?」


 横から入ってきたのは葵木だ。

 まあたしかにそう誤認識していたと言われれば、それ以上責めることはできないが────


「は、はい。その通りです。一日一つだと思い込んでいました」


 ペコリと頭をさげる綾。


「こちらこそすいません。別に先輩を責めようと思った訳ではないんですよ」


 俺はただ真実を知りたいだけ。犯人を捕まえたいだけなのだ。

 たとえそれが、正攻法では無いとしても。


「阿部君の言う通り、まだ何か隠されているかもしれないし、解読は雨宮先輩に任せて僕達はもう少し探してみようか」


 言って葵木が立ち上がると、それに続き綾も立ち上がる。


 言い出しっぺの俺もやらないわけにはいかないし、俺も立ち上がり、決して広いとは言えない部室内を探し回った。


 結局、この日はコイン以外の物が見つかることはなかった。

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