密室に置かれた予告状7

 放課後。


 真っ直ぐに準備室に向かうことは無く、紡と約束をした旧校舎の階段を目指した。


 紡は言葉遣いや態度とは違い根は素直なようで、階段に座り、俺が来るのを待っていた。


「すいませんね。先輩。結構待ちました?」


 暇を持て余していたのだろう、紡はポチポチとスマホを弄っていて、俺の声に驚いてスマホを階段に落とした。


 スマホは何段か落下した後、画面側を下にして止まった。


「アワワワ。おっ、おい大丈夫かスマホちゃん」


 慌ててスマホを追いかけて拾い上げると、安堵の表情を浮かべた所から、どうやら画面は無事だったらしい。


「急に話しかけるなよ!危ないだろ!」


「そう言われましても、俺が声をかけなきゃいつまでも気が付かなかったですよね」


「あたしが気がつくまで大人しく待っていれば良かったんだ!」


「次からは善処します。で、さっそく本題なんですけど」


「ほ、ホンダイ!?」


 紡は自らの体を庇うように身構える。

 俺に何かされるとでも本気で思っているのだろう。

 少し遊んでやるか。


「先輩。そこに座って下さい」


「す、座るだけか?」


 紡は拒否する訳でもなく、恐る恐ると言った様子で階段に腰を下ろす。


「そしたら、目をつむって下さい」


「目、目を!?なんで!?」


「推理先輩と、橋渡先輩────」


「わ、わかったよ!目を瞑れば良いんだろ」


 慌てた様子で目を瞑る紡。


「こちらに唇を突き出して下さい」


「ど、どうして突き出さにゃいかにゃいんだ!?」


 かなり慌てた様子で反論をしてくるが、しっかりと両目は閉じられたままだ。


 なんともからかいがいのある先輩だ。


「推理────」



「あー、もうわーたっよ!」


 ヤケクソとまるで絵に描かれたタコのように唇を突き出した。何をされるのかわかっていない紡はぷるぷると震えている。


 パシャリ。


「ちょっ!?お前!何をした」


「写真を取っただけですよ」


 言って撮影した画面を突きつける。


「あーっ!消せ、今すぐ消せ!」


「これをこの場で消した所で、既にクラウドに保存されて全世界に拡散されている所ですよ」


 嘘だ。完全に嘘っぱちだった。クラウドに保存されるのは本当だが、全世界になんて拡散されるはずがない。俺が悪意を持ってSNSででも拡散しない限り。


「な、なんと!?まだ、彼氏もできたこともないのにー」


 わかりやすく項垂れる紡の肩に手を置いて、励ましてやった。


「なーに。すぐにみんな忘れ去りますよ。人の噂も七十五日って言うでしょ」


 「しちじゅうご?なんだよそれ。今すぐ消せ。今すぐ消せよ!」


 あまりに信じている物だから、なんか不便になってきた。



「大丈夫ですよ。全部嘘です。画像も消します」


 眼の前で画像を消去すると、安心したのか先程までの勢いを取り戻し。


「全く、最近の後輩と来たら、先輩を馬鹿にして、もう少し先輩を敬え!」


 クラウドに画像は残っているのだがそれは黙っておこう。

 いつか、何かに使えるかもしれないし。


「すいませんでした。紡先輩は素晴らしい先輩です」


「うむ。わかればよろしい」


 えっへんと胸を張る紡は歳上ながら少し可愛いなと思ってしまった。


 しかし、こんな性格の紡がなぜ推理に嫌われてしまったのだろうか?

 むしろ、好かれそうな気がするが。


「先輩。なんで推理先輩と仲が悪くなってしまったんですか?」


「ぐぬぬぬ。それには答えられないね」


 答えちゃくれないか。画像で脅せば答えてくれそうだが、そこは良心の呵責が勝つ。


「わかりました」


 だったら、さっそく俺が聞きたかった本題を聞くとしよう。

 散々弄って遊んだ後ではあるが。


「もしかして、先輩はずっと推理先輩を見張っていましたか?」


 ギクリと肩を怒らせて、紡は否定する。


「そ、そんな訳無いだろ。ストーカーじゃあるまいし」


 そっぽを向いている事からも、質問に大しての肯定としか取れなかった。


 だったらそのまま話は続けさせて貰おう。


「ここ最近、準備室に真理部のメンバー以外が侵入する所を見ませんでしたか?」


「侵入するところ?多分見てないぞ。朝と放課後、君等が居なくなるまでしっかりと見張っていたから間違いないぞ!」


 すぐに自分で肯定しやがった。なんてガバガバなんだ。

 しかし、それすら愛くるしく感じるようになってきた。


「そうですか。ご協力ありがとうございました」


 言ってすぐに踵を返すと、ガシリと肩を掴まれた。


「もう終わりなのか!?」


 特に今聞かなければいけないことはないよな。

 ────ないな。


「今日の所はこれで終わりです。また会いに来ますよ」


「わかった。あたしは暇じゃないけど、お前は中々面白いやつだからな。また相手してやる」


 腕組みをして偉そうなポーズを取ってはいるが、顔はニヤけていた。


 どうもわかりやすくて嫌いになれないな。


「じゃあ失礼します」


 紡と別れ、階段を降りながら少し考え事をした。


 紡の話が正しいのなら、犯人にとって最も有利な時間に犯行が行われている訳ではなさそうだな。


 休み時間と言う線もなくはないが、教師が集中する休み時間の職員室で誰にも見られずに鍵を持ち出す事はできるだろうか?

 しかも、戻す事も考えるとさらに不可能に感じる。


 待てよ───!はなから部室内に花が置いてあったとするならば、その前提は崩れる。


 ジニアという花はどれくらい日持ちするのだろう。

 それを調べる必要がありそうだな。


 そして、部室前までたどり着き、扉を開く。


 扉を開いた瞬間だった。


 興奮気味な推理が、俺に早く座るように促したのだ。

 そして俺が座るか座らないかのタイミングで言った。


「さっき葵木君が見つけたんだけど、新しい物が置かれていたのよ!」



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