密室に置かれた予告状5

 翌日の朝活、ならぬ朝部活は一堂に返していた。


 葵木と綾はまたイチャついて来ないものと思っていたが、怪文書のことがよほど気になっていたのだろうに違いない。


「じゃあさっそくだけど、新たに増えている物がないか探すわよ」


 推理が号令をかけると、一斉に皆が立ち上がり、警察官が家探しをするように隅々から確認していく。


「推理先輩。確認なんですけど、鍵の貸し出し記録はどうでしたか?」


 推理の事だ。怪文書に集中しすぎて、確認をしていなかったと言う答えが返ってくる物だとばかり思っていたが、意外にもしっかりと見ていたようで。


「あー、それなら昨日の放課後、私が返してから誰もこの部屋の鍵は借りていなかったわ」


「そうですか」


 完全下校時刻ギリギリに帰って、昇降口が開くと同時に入って来たのだから、それは当然の事なのだが、少しがっかりもした。


 まあそんな簡単に尻尾を現すような犯人ではない。と言う事か。

 相手にとって不足なしだな。


 お陰様で、課題に関してはまともに考える時間も取れなかった。

 まあ、既に手元にあるのだから焦る必要もないわけだけど。


 推理は仁王立ちで何か異常がないか周囲を見回し、綾は昨日植木鉢が隠されていたカーテンをめくったり、葵木は本棚を探し、俺は渦高く積まれたダンボールの中を一つ一つ精査していく。


 しかし、ここで一つ思い至る事があった。


「あの推理先輩」


「なによ?話している暇があったら手を動かしなさい」


 推理の言う事もごもっともなのだが、俺にとって、おそらく葵木にとっても問題が一つあるのだ。


「おそらく葵木もそうだと思うんですけど、この部室内になにがあってなにが無いのか俺は把握していないです」


 この部室に立ち入るようになってからまだ一ヶ月と少し。


 元からあって、元からなにが無かったのか、判断に困る事に気がついたのだ。


 昨日みたいに、犯人がわかりやすく隠してくれたのなら良いが、元からあるものと同じように隠されたのなら果たして区別はつくだろうか。


「それもそうね」


 推理は少しうつむき加減でそう呟き、変わりに葵木が答えた。


「犯人だってきっと気が付かれたくてやっているのだから、一目みてわからない物は隠さないと思うよ」


「まあ、そりゃ確かにそうだが」


 葵木の言う事も一理ある。しかし、捻くれた犯人だった場合そうは行くだろうか?


「予告状にも書いてあったじゃないか。『』って」


 葵木が主張するに、謎を隠そうとするのなら分かりづらい物を隠すだろうが、見つけ出して欲しい、謎を解いてほしいのなら、わかりやすい、発見しやすい場所に隠すだろうと言う事。


 まあ言ってる事はわかるような気もするが、俺が犯人だったら簡単に看破されてしまったら悔しいような気もするが。


「それは、阿部君がそう思うだけで、犯人がそう思うとは限らないじゃないか」


「まるで、犯人のような言い分だな」


「まさか、僕がそんな事をする理由はないよ」


 それもそうだよな。さっきもこんな事を考えていたが、葵木もこの学校にやって来てまだ一ヶ月と少しなのだ。


 わざわざこんな大掛かりな事をして、探し求める程の物があるとも思えない。


「葵木君の言っている事がおおよそ正しいと判断したわ。真悟は大人しく仕事に戻りなさい」


 俺と葵木の会話に割って入り、推理は最終判断を下した。

 この場は俺の負けだな。


 大人しく指示に従い、ダンボールを開けてはしまいを繰り返し、結果、何も見つける事はできなかった。


 同じように、推理、綾、葵木も何も見つける事はなかった。


 普通に考えて、犯人が隠す隙がなかったよな。


「じゃあ、朝の部活はこれにて終了。解散よ」


 少し悔しそうに、歯の間に何かが引っかかっているように推理が告げると、朝の部活はこれにて終了と相成った。


「じゃあ、阿部君。教室へ行こうか」


 真っ先にそう声を掛けてきたのは葵木だ。


「ああ。そうするか」


 真理部の面々は揃って廊下に出ると、推理が鍵を閉めるのを確認してからそれぞれのクラスへと散っていく。


 しかし、少し気になった物が目に入ってしまった。


 俺以外、誰も気がついて居ない様子だ。


「悪い葵木。ちょっと腹痛くなったから先に教室に行っててくれ」


「わかった」


 一応皆を騙す為、準備室から教室二つ向こうのトイレに飛び込んで、少ししてから廊下の様子を伺うと、誰も居なくなっていた。


 準備室とは反対方向、階段へ足を向け、少し思案した。


 下には職員室がある。

 鍵を返しに行った推理が降りていったはずだ。

 だとすれば、


 階段を登っていくと、手すりの影からこちらを盗み見ようとする影を見つけた。


「そこに隠れているんでしょう。バレバレですよ。もう他の真理部員いない。推理先輩もいない。出てきたらどうですか?」


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