密室に置かれた予告状4

 誰が何のために怪文書を忍ばせたのか、真理部の部室である準備室内で発見されたということは、真理部に対しての文書だと考えていいのだろうか?


 他に可能性はないか?


 思い当たる可能性としては二つ考えられる。

 真理部に向けられたものなのか、真理部に所属する特定の誰かに対して送られた物なのか。


 しかし、そのどちらとも現時点で断定する手段はない。


 文書にはなんて書かれていたんだっけか?

 たしか────



『失われた物を取り戻すため、私はこの部室内に物を増やす事にした。

 それらを見つけ出し、失われた物を解き明かせ。』だったっけか。


 失われた物を取り戻す為に物を増やすなんて矛盾しているような気もするが、犯人はどんな意味を持たせる為にこんな怪文書を忍ばせたのだろう。


 物を見つけ出し、失われた物を解き明かせか────


 そういえば、茜から手渡されたおかげで、たまたま手に入った課題だが、元々部室内にあったオリジナルの課題は紛失していたんだっけか。


 そう考えれば失われた物=オリジナルの課題とも考えられるが、だとしたら誰が何のためにそんな事をするのだろう?


 いや、まて。失われた物=課題と決めつけるのは早計だ。  


 真理部部員にとっては失われた物=オリジナルの課題の図式は成り立つが、怪文書の犯人が部外者なのだとしたら、課題が存在していた事さえも知らない可能性すらある。


 怪文書の事も考えなければならないし、課題の謎も早く解きたい。


 もういっその事、怪文書の事は推理達に任せてしまおうか。


 なんて考えながら歩いていたら、準備室の前まで戻って来ていた。


 一応ノックをして、「どうぞ」の返答を待ってから扉を開くと、一堂それぞれが自席に座り、推理のテーブルの上に置かれた植木鉢を見つめていた。


「なんですかそれ?」


 赤、白、ピンク色の花を付けた、体高十センチ程の植物。

 植物には詳しくないため、名前はわからない。


「花よ。窓際の見え辛い所に、これが置かれていたの。こんな物は昨日までは置かれていなかったはずだわ」


 さっそく部室内にはなかったはずの物が見つかったと言うわけか。


「誰が見つけたんですか?」


「は、はい」


 恐る恐るといった感じで綾が遠慮がちに手を上げた。


「どこにあったんですか?」


「あ、こっちです」


 綾は自席から立ち上がると、窓の方へ歩いていき、窓枠端に束ねられたカーテンを指差す。


「このカーテンの裏側に置いてありました」


「なるほど」


 カーテンをめくりあげ、置かれていた、という場所を確認してみると、薄っすらと埃がツモっていた。


 鉢が置かれていであろう場所だけぽっかりと丸く埃が踏み潰されてはいるが、跡を指でさらってみるとしっかりと埃の形跡がある。


 つまりつい最近、埃がツモっている上に鉢が置かれたという事だ。


「他に何かわかった事はありますか?」


「ジニアって言うらしいわよ。この花」


 そう推理が答え、鉢の下に置かれている受け皿の方を指さした。


 窓前から移動して、推理側から受け皿を覗き込むと、受け皿と鉢の間に刺さるようプラスチック製のプレートが置かれていて、指で取り上げてみるとそこには『ジニア』と記されていた。


「スマホで検索してみたけど、花の名前は間違いないみたいだね」


 言いながら葵木がスマホの検索画面をこちらに向ける。


 まあ、葵木が言うのなら間違いないだろうと、スマホ画面は確認せずにプレートの裏面をめくって確認してみると。

 均整のとれた几帳面な字で、こう書かれていた。

 『花言葉は?』と


「葵木。この花の花言葉を調べてくれ」


「花言葉?わかった」


「おわっ!?」


 推理も気になるようで、俺が見ているプレートを横から覗き込んでいた。


 距離にしておよそ五センチ。

 少しツリ目がちで、端整な顔立ちがそこにあれば男子生徒だったならば、声を上げてしまうのは当然の事だ。


「どうしたのよ?急に大声だして」


 そんな事に理解も及ばない推理は、プレートを見つめたまま綺麗な横顔でそう言った。


 少しは年頃男子の気持ちも汲んでください!と講義したいところではあるが、ぐっと抑えてプレートを推理に手渡した。


「ありがとう」


 まるでおやつを貰った猫のような表情でプレートを受け取ると、裏返してマジマジと見たり、蛍光灯に透かしてみたりとしていた。


「やれやれ」


 そんな推理から少し距離を取って、植木鉢に手を伸ばす。


 受け皿と鉢を分離してみたり、受け皿の裏を覗き込んだりと考えうるヒントの隠し場所を探してみるも、他にヒントのような物は見つける事ができなかった。


「阿部君。ジニアの花言葉わかったよ。友情に関する物が多いみたいだね」


 葵木が手渡してきたスマホ画面には、ジニアの花言葉が表示されている。


「ふーん。花言葉って一つじゃないんだな」


 画面には複数個のジニアの花言葉が書かれていた。


 一 、絆


 二、遠い(不在)の友を思う


 三、変らない心


 四、注意を怠るな


 五、幸福


 考えようによっては、少し怖い意味が多いような気がする。


 花にプレートを仕組んだ犯人は、どの花言葉を指してジニアをこの部屋に置いたのだろう。


 上の三つは近い意味のようにも思えるが、四番はちょっと怖い。


 五番に関しては無くした物を取り戻す為にこんな事をしているのに、矛盾をしている気がする。

 無くし物をしたら幸福なはずなんてないんだからな。

 

 どちらにせよ、これだけで何かがわかると言う事はなさそうだ。


「他に何か見つかったりしなかったのか?」


 葵木は辺りを見渡すようにしながら答えた。


「多分ね。全てを探せたとも思えないけど」


 この準備室内には、乱雑に物が置かれている。


 もし、隠すように置かれていたのなら、見つけるのも容易ではないということか。


「オッケー。少し探してみるか」


「僕も手伝うよ」


「そ、それなら私も」


 プレートに夢中になっている推理を他所に、三人で、ダンボールやら、資材の置かれているロッカーやら、本棚やらを捜索をした。


 だけど、この日はジニア以外の物が見つかることはなかった。


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