UMAの本懐13
綾の祖母と母親への聞き取りの結果、ツチノコの着ぐるみには触れていないと言う事が判明した。
それが指し示す意味は、誰かが意図的に持ち去り、何らかの目的があって元の場所に戻した事になる。
このイベントが開催されている特性上、犯人はある程度絞られる。
なぜ、そんな事をしたか、に着目していけば、自ずと道は開けてくるものなのだ。
イベントに人を呼びたくて、その為にツチノコの目撃騒ぎを起こした。
そうだったのならば、犯人の目星はある程度つく。イベント関係者、もしくは商店街の関係者又はそれらに近しい者。
さらにその可能性を高める為に、もう一つ裏取りをする必要があるが……
「ちょっと真悟。さっきからブツブツ言っているみたいだけど、そんな事に脳の容量を使うのはやめて、ツチノコを探す方に全て使いなさい!」
「ちゃんと探してますよ」
推理に付き合わされて、俺と葵木はツチノコの目撃情報のあった草むらを掻き分けていた。
目撃情報からして、ツチノコの大きさは結構なものだ。こんな背の低い草むらをわざわざ草を分けて探す必要性はないようにも思える。第一にツチノコは存在していないのだから。
しかし、部長様のご意向だ。意味のない事でも文句を言わずにやらなければ部員失格の烙印を押されかねない。
ただ黙々と、部長様が良いと言うまで黙って草の根を分けづつけるしかないのだ。
そんな意味が無いと思われていた行動にも、唐突に光明が差すなんてことは往々にしてあるものだ。
「ん?なんだこれ」
木の枝に、少し茶色みががった布の切れ端のような物が付着していたのだ。
この色合い、どこかで見たような……
「真悟!葵木君!次はあっちに移動するわよ」
推理はここらの捜索に飽きたようで、別の場所に移動すると指示を出してきた。
「はーい」
適当に返事をして、木に付着していた物をポケットにしまい、推理の後に続いた。
「次はどこを探しますか?」
「沢のほうに行ってみようと思うの。葵木君の推察が正しいのなら、ツチノコは涼しい場所を好むと思うし」
「なるほどです」
なにがなるほどです。だよ。
「あ、推理ちゃんさっきはありがとうね。そろそろ帰ろうかと思っていたところなんだよ。帰る前に挨拶できて良かったよ」
前からやってきて声をかけてきた男性の胸元にはデジカメがぶら下がっている。歳の頃は三十半ば。メガネを掛けていて優しそうな印象を覚える。
「こちらこそありがとうございました。絶対に真理部の名前は使ってくださいね」
「誰?」
コソコソと葵木に聞いてみると、地元の新聞社の人だと教えてくれた。
これは手間が省けた。探してでも会おうと思っていた人物だ。
しかも帰る寸前だったなんて。これを逃したらツチノコ目撃情報でっち上げは迷宮入りする所だった。
「あのすいません。二、三聞きたい事があるのですが、宜しいでしょうか?」
談笑している推理と男性の間に割って入ると、推理は少しムッとしたような顔をしたが気が付かないふりをして男性の方を見た。
「ああ。もちろんいいよ。僕はこういうものだ。君は」
名刺だ。
受け取り方の作法なんてわからないから、なるべく丁寧に見えるように、卒業証書を受け取る作法で受け取ると、なにがおかしかったのか男性は吹き出した。
「ごめんね。笑うつもりはなかったんだけど」
「いえ。大丈夫です。僕は
恥はかきたくないからな。今日帰ったら茜さんに名刺受け渡しの作法を聞いておこう。
名刺の名前を確認してみると、男性は
「これはご丁寧にどうも。阿部くんは僕に何を聞きたいのかな?」
「荒木さん。このツチノコのイベントには毎年取材に来ているのでしょうか?」
「いや、今年が初めてだね。ちょっと怖い先輩に頼まれちゃってさ」
ハハハハと朗らかに荒木は笑うが、怖い先輩とはどういう意味なのだろうか……
「あ、怖いとは言っても普通の一般人だよ。学生の頃から頭が上がらない先輩でね」
「この町の人ですか?」
「推理ちゃんと一緒に居るってことは、君も顔見知りだよね……」
荒木は少し考えるように俺から視線を逸らし、しばらくするとこちらへ視線を戻した。
「
橋渡燿。それは綾の母親に他ならない。
燿が怖いだなんて想像もつかないが、どう怖いと言うのだろうか……?
気になるけど聞かないほうが良い気がする。
「……なるほどです」
しかし、これで点と点は繋がった。ツチノコの目撃情報を作り、拡散しようとしていた人物が。
「他に何か聞きたいことはあるかな?」
「いえ、大丈夫です」
「そうかい。だったら僕はここでお暇させてもらうよ。じゃあ、またね。真理部の後輩達」
そう言って荒木は去っていった。荒木の後ろ姿が見えなくなった所で唐突に耳に激痛が走る。
「ちょっと!私の許しなしに質問するなんてどういう事?探偵は私で、真悟はそのパートナーなのよ!」
少しむくれた推理が背伸びをして、俺の耳を釣り上げるようにして掴んでいた。
「イタタタ。推理先輩。痛いです。離してください」
俺の悲鳴を聞き、渋々と言った様子で手を離すと、推理はプイとそっぽを向いた。
「どういう言い訳をするわけ?」
まだ耳はヒリヒリとしているが、答えない訳にはいかない空気だった。答えによってはもう一発、何かありそうな雰囲気。
「今回のツチノコ騒動、先程の質問で証拠集めが全て終わりました。あとは探偵の見せ場ですよ。先輩」
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