UMAの本懐12
「どんなですか?」
ニコニコを通り越してギラギラとすら感じる笑みを浮かべた推理は、俺と綾にこう言い放った。
「新聞社のインタビューを受けたの!ネット記事に乗るらしいわ」
あとから追い付いてきた葵木が襖の陰からひょっこりと顔を出し、補足する。
「地元の新聞社……らしい、けですけどね」
息も絶え絶えという感じで、よほどの距離を走ってきたのだろうと言う事が安易に想像できた。
二重の意味で行かなくて良かったなと思いつつ、葵木からまだ話したりなそうな推理に視線を戻す。
「それでも構わないの。大事な事は、真理部の名がネット上に、日本中に轟くって事よ」
ツチノコの方じゃねえのかよ!とツッコミを入れたくもあったが、それは自重して、その真意を問いただす。
「それになんの意味があるんです?」
これはごもっともな感想だと思う。
真理部は地方都市の中堅公立高校で、存在する部活の中でもかなりマイナーな部類だ。
まだ入部一週間くらいの俺がそう実感しているのだ。生徒によっては存在そのものを知らない可能性すらある。
「意味?意味なんてないわ。私の敬愛する真理の名が世に出ることに意味があるの」
「そうですか」
かなり興奮気味に話す推理を見て、これ以上何を言っても無駄だと判断して話をここで切り上げる事にする。
「なあ葵木。インタビューって言うのは、推理先輩だけが受けたのか?」
「いいや。違うよ。目撃したって人だいたいがインタビューをされたみたいだね」
「それはあのおにぎり三人組も?」
「おにぎり?」
「いや、ごめん。坊主の中学生三人組の事だ。推理先輩が詳しい話を聞いてメモを取ってただろ?」
「あー、おにぎり。そういう事ね」
葵木は呆れたように苦笑いを浮かべ、言葉を続ける。それ言ったの俺じゃないから。推理先輩だから。
「あの三人も受けていたよ。メモの証言と食い違いがないかも確認しておいたよ」
おーこいつできる男だ。まさに俺が今聞こうとしていた事だ。ここで矛盾があるのならば、あの中学生の証言が疑わしいと言う事になるが……
「おおよそ同じ受け答えをしていたよ。口裏を合わせているって様子でもなかったね」
「そうか」
推理と確認した時のような三重チェックが行われた可能性は低そうだが、あの時とほぼ同じ証言をしたということは、賞金目的で嘘を付いていた可能性はかなり低くなる。
人は嘘をついていると、『嘘』に背びれ尾ひれがついて、あらぬ方向に話が膨らんでいくものだ。
三人もいて、それがないという事はあの三人は嘘をついていない。白と断定しても良いのかもしれない。
「他の目撃者のインタビューも同じような受け答えだったよ。坊主三人組の話した内容とほぼ一致したんだ。大きさから、色合い、模様なんかも」
「なるほどな……」
だとすれば、やはりこの町の住人には、何かしらのバイアスがかかっている可能性がある。伝承やなんかで皆がそれを見聞きしていたとか。共通の認識があったとか。
「あー、あとね興味深いなーと思った事があったんだ。他県から来たこの町に
「その通りよ!」
推理が力強く。葵木の発言を養護する。
本当にそうなのだろうか?
ツチノコは存在する?
俺が最初から疑っていたせいで、逆に俺にバイアスがかかってしまっているのか……
グルグルと巡る俺の思考を他所に、推理と葵木はキャッキャッと騒ぎ立てる。
果たして本当にそうか……何か引っかかりのようなものを覚えるのだが、それは何に対してだ……?
はしゃぐ二人とは距離を置いて、落ち着く為に縁側の方に歩いて行き、腰をおろすと庭のすぐ先は大自然だ。
まるで、部室のような安心感を覚える。部屋の中の喧騒が遠く感じられる。
なんとなしに物干しの方に目を向けると、ツチノコの着ぐるみが目に入った。
「……ん?」
ツチノコの着ぐるみか……うん……?
背後を振り返って、もう一つ葵木に質問をした。
「なあ葵木。ツチノコの目撃情報が集中している時間帯とかってなかったか?」
早くもう一度探しに戻った方がいいんじゃないかとはしゃぐ二人のうちの一人、葵木がこちらに振り返り、ポケットにしまわれたメモ帳を取り出してペラペラとめくり、少し思案してから答えた。
「うん。集中している時間帯が存在しているね。坊主の三人組が最も早い時間だけど、だいたいが昼前までだ。もしかしたらツチノコは涼しい時間帯にしか行動しないのかもしれないね。だとすると、次は夕方辺りに……ってそれじゃあもうイベントが終わってしまっているか」
「なるほどね」
葵木は活動をしている時間が涼しい時間帯なのではないかと推測した。
果たしてそうか?
俺は葵木とは違う意見にぶち当たった。
俺達が昼ごはんを食べに戻って来た時は、ツチノコの着ぐるみは物干し台には干されていなかった。
綾は干したはずだと言っていたはずなのに。
そして、目撃情報がなくなった暑い時間帯。
今は着ぐるみが干されている。
有ったものが無くなって、それがまた戻ってくる。
野生動物に持っていかれたり、風に飛ばされたりしていたらならば、戻って来るはずがない。
着ぐるみが戻って来ているという事は、そこに人為的な何かがあるのは間違いない。
まだ、家の人達にツチノコの着ぐるみを触ったのかどうなのか確認する必要は残されてはいるが、状況的な証拠が示す結論は______ツチノコの目撃情報は誰かの手によって、作り出されている。
「真悟。そろそろ体調も良くなったでしょう?そろそろパートナーとして、私と行動を共にしたらどうなの」
思案にフケッていた俺の背後に気配もなく推理は立ち、そんな事を言い出した。
ツチノコが存在しないことを示す証拠は、揃いつつある。
自体は、動機を調べるフェーズに入ったのだ。
「良いですね。そうしましょうか」
推理の提案を受け付け、立ち上がると「それでこそ真理部員。名探偵である私のパートナーね」と喜んでいる様子だ。
意図せずにその鼻っ柱を折る羽目になってしまいそうなのが申し訳ない。
「綾はまだ休んでいなさい。葵木君行くわよ」
「うん。わかった」
「はい!」
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