UMAの本懐11

 ひかりの態度からして、綾と燿が俺に何かを隠しているのは間違いないようだ。


 その秘密を葵木も共有しているのかはわからないが、共有していたとしても、その秘密を秘密なのだと葵木が理解しているのかも怪しいように思えた。


 推理は知っているのか?


 隠されている何かは、誰までが知っていて、誰までが正しく理解しているのか……


 しかし、燿が隠す秘密を解き明かす為のヒントの欠片は貰った。このツチノコイベントの存在理由。

 集客の為、そして、キャンプのルールを周知するため。


 当てはめて行けば答えに辿り着けそうなのに、何かが不足している。ピースが足りない。歯車が回りはじめない。


 集客の為には何が必要なのか……このイベントが良い意味で注目される事。

 そしてイベントが拡散されて、次回開催以降の集客に繋げ、キャンプやゴミ拾いのルールの説明をしていく。


 これが目的なのだ。その為には何が足りない?考えろ。よく考えろ。そこに秘密が隠れているはずなのだから。


 思考にふけっていると、唐突に目の前に何かを置かれた。置かれた物にピントを合わせてみると、柑橘系のフルーツのようだ。丁寧に処理されていて、皮も取り除かれている。


「たべない?うちの庭で採れたものなんだけど」


「オレンジ、ですか?」


「そう。オレンジ。品種名までは知らないけどね。父さんが定年してから育てているんですって」


 燿は俺と綾の前にそれぞれ皿に切り分けられたオレンジを置いた。


「私これ好きー」


 一つだけ刺さっていた爪楊枝を掴むと、綾はパクリと口に放り込んだ。たいそう美味しかったのだろう、至福の笑みを浮かべた。


「じゃあ、俺もいただきます」


 パクリ。うん。たしかに美味しい。酸味は控えめで、かなり甘い。今まで食べたオレンジの中で一番美味しいまである。


「どう?」


「めちゃくちゃ美味しいです!」


 そこは嘘偽りなく答えると、燿は目を瞑りながら「そう。よかったわ」と頷き、台所へ戻っていった。


 満足そうに食べつづける綾。かわいい女の子が、美味しそうに食べてるのなんかいいよなと綾を見ていると、戸惑いのような表情を浮かべる。


「ど、どうかした?」


「いえ、凄く美味しそうに食べるなと思いまして」


「食べづらいので、あまり見ないで下さい……」


 綾は恥ずかしそうに俯いてしまった。


「わかりました。もう見ません」


「はい。それでお願いします」


 なんか損したような気分だけど、嫌だと言うことを続ける精神はしていない。

 もしやこれが葵木だったら、好きな子をからかいたくなる精神を発揮して見つめ続けるのだろうか?


 いや、葵木の性格してそれはないだろう。

 そもそも綾に気があると言うのも推理の当てずっぽうに過ぎない。


 綾からは意図的に視線を外し、庭の方に視線を向けると、物干し台に干されたツチノコが目に入った。


 あれ……さっきまであったっけ?


「あの、さっきはどうもありがとう」


「何がですか?」


「さっき推理ちゃんに連れて行かれそうになってたのかばってくれたでしょう」


「ああ気にしないで下さい」


 正直に言えばあれ歯綾の為ではない。燿さんから話を聞き出す為にした言い訳に過ぎない。


「私昔っから自分の思っている事、したい事を言えないたちなので、凄い助かりました」


 綾は言いながらペコリと頭を下げる。


「やっぱり!まだ体調悪いんですか?」


「うん。少し。なんか頭がぼーっとするの。体もふわふわして、なんだかここに居るのか居ないのかはっきりしないみたいな感じ」


「あーなんかわかる気がします」


 高熱を出した時なんかに陥る、あの感覚に似ているのだろうか?


「閉会式までにはなんとかしないといけないけど!どうにかなるかな。へへへ」


 自嘲したように綾が笑う。


「それならさっき推理先輩がでなくていいと言っていたじゃないですか?」



「そうなんだけどね。私が出ないとつむぎが出るって言い出しそうで……」


 今朝から何度か耳にしている名だ。どんな人物なのかはっきりさせられるチャンスだ。


「紡さんって、話には出ていましたけど、橋渡先輩の兄妹……なんですか?」

 

「紡は私の双子のお姉ちゃんなの。推理ちゃんとはちょっと相性が悪いみたいで、紡は推理ちゃんの事大好きなんだけどね」

 

 なるほど。紡って人は橋渡先輩の双子のお姉さんなのか。それならば顔、体型ともに綾と酷似したいるはずだ。綾サイズのツチノコの着ぐるみも着れると言うわけだな。


 本人がいない間に、本人には聞きづらい質問をしておくか。


「それは、推理先輩が一方的に嫌っているって事ですか?」



「えっと、それは」


 綾はどう答えるべきか、躊躇うように虚空に視線を彷徨わせ、口元で何かを呟いたがよく聞き取れなかった。


「なんですか?」


 決心がついたのだろうか、一つ大きく頷いてから深呼吸をして______


「___」


 綾が口を開いた瞬間に、襖が勢いよく開かれ、推理が飛び込んで来たのだ。そして開口一番にこう言ったのだ。


「大ニュースよっ!」


 驚いた綾が、開いた口をパクパクとしながら推理を見ていた。


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