UMAの本懐10
食卓を真理部の四人、燿さんとで囲む。
昼食とあって、廊下で燿さんに捕獲された葵木も、しぶしぶといった様子で食卓を囲んでいる。
「あんまり時間がなかったから、簡単な物しか作れなかったけどどうぞ、召し上がれ」
昼食のメニューはザルうどん。
綾の体調も考慮すれば、最高のメニューだろう。
俺自身も体調が戻ったとは言え、車酔いをしていた手前、消化に優しい食べ物で助かった。
『いただきます』と真理部の面々が呪文のように唱え、昼食がスタートした。
「生姜使いたい人は、このチューブの使ってね」
「はい。ありがとうございます」
断りを入れてからチューブを手に取り、適量を受け皿の中に投入した。うん。やっぱりこれがないとね。
「そう言えば、あちこちでツチノコが目撃されているらしいわよ」
ニヤリと訳知り顔で、燿さんがそう切り出した。
「そうなんですか!?」
いち早く食いついたのは葵木。
うどんを受け皿に運ぶ手を止めて燿さんの方に向き直った。
「詳しく聞かせてください!」
推理だけならず、葵木もツチノコに御執心な様子だ。
推理は会話には入らないが、意識的に耳を傾けているようだ。
心なしかこの話題になってから少し重心が前のめりになった気がする。
「町会長の茂さんは沢で目撃、二丁目のカネさんは農作業中にそれらしき物を目撃。そして中学生三人組も崖で目撃、エトセトラー」
中学生と言うのは、俺と推理が話を聞いたあの三人組のことだろう。
「あの、おにぎり三人組ね」
ポツリと推理が呟く。
おにぎりね。たしかに三人とも坊主頭だったけど、推理にはそういう風に見えていたのか……
とはいえ推理と俺も現場に居合わせた関係上、中学生三人組の話は知っているが、前の二件の話は知らない。
「どんな状況で目撃されたんですか?」
「さあ。そこまでは。そんな話が上がってきているのを聞いただけだから」
「なるほど。だったら現場で聞き込みをするしかないか……」
相槌を打ったあと、葵木は考え込むような素振りを見せて呟いた。
「その通りよ葵木君!よーく、言ったわ!綾も復活した今、真理部総出動でツチノコをいの一番に見つけるの!」
「はい!」
葵木はそう元気よく返事を返すと、ザルに乗っているうどんを一気に受け皿に漬け込んだ。
そしてそれを一気に口に放り込むと、よく噛まないまま飲み込んでしまった。
「僕は準備完了です!」
葵木の早食いを満足そうに見届けたあと、推理も女の子とは思えない大口を開けて食事を開始。
この人にはどうせ何を言っても無駄だと思うから、見て見ぬふりをすることにした。
「ちょっと、早食いは体に悪いわよ」
燿さんの忠告も無視して、推理もすぐに完食。
それを尻目にモクモクとうどんを口へと運ぶ綾と俺。
テーブルを挟んで、対極的な光景が繰り広げられていた。
「早くしなさいよ。ツチノコだって、親だって、時間だって待ってはくれないのよ!?」
「ふぇー、推理ちゃん、ちょっとまってよ」
推理は綾に喝を入れようと声をはるが、それは逆効果なようで食べる手を止めてしまった。
「真悟!あなたもよ。早くしなさい!」
「ちょっとまだ、体調が優れないのでパスで。橋渡先輩もまだ完全じゃないみたいだし、葵木と二人で行ってきてくださいよ」
「ふーん……」
推理は意味深な視線を綾と俺と交互に巡らせた後、「好きにすればいいわ」と言って立ち上がった。
どうしたら良いのか困っている葵木が俺と推理を交互に見ていたが、行ってやれよと目で合図を送ると、葵木はごめんとハンドサインをだして、推理の後について行った。
二人がいなくなった瞬間、リビングに静寂が訪れる。
「……」
「本当に騒がしいわね、推理ちゃんは。なんか懐かしいなーこの感じ」
嫌味と言う訳ではなさそうな、柔らかな笑顔。推理が出ていった、襖の先を優しいまなざしが見つめ続けた。
「あの燿さん、少し質問してもいいですか?」
「ん?いいよ。なに?」
俺が推理について行かなかった理由。それは体調不良なんかじゃない。
実際の所はもうバッチリと回復している。
「燿さん、なにか隠してませんか?」
俺が質問した瞬間に、ブボっと綾がうどんを吹きこぼした。
「あらあら綾。こぼしちゃって、これで拭きなさい」
燿はテーブルの上に置かれていたふきんを綾に手渡した。
そして、こちらに再度視線を向け、口角を少し上げた。
「隠してるって、なんでそう思ったの?」
そう思った理由は一つ。ツチノコの話題を切り出した時、ニヤリと笑っていたこと。だが、それだけでは話を聞き出せるとは到底思えない。
燿にはヒラリとかわされるような気しかしなかった。
「……なんとなくそう思っただけです」
「ふーん。なんとなくねえ。うんうん。なかなか良い勘してると思うよ」
「ということは、やはりなにか隠しているんですか……」
「どうだろうね。隠しているかもしれないし、隠していないかもしれない」
「どっちなんですか?」
「どっちでもいいじゃない」
このままこの会話を続けていても、埒が明かないのは明らかだった。
秘密を聞き出すには、証拠が不足している。
だとすれば、別の角度から切り込むしかない……
「もう一つ、質問良いですか?」
「いいよー。正直に答えるかどうかはわからないけどねー」
目を細めながら燿は頷いた。
そんな燿をうどんを食べる手を途中で止めて恐る恐ると言った様子で見る綾。箸で持たれたうどんが宙に浮いたままプラプラと揺れている。
「このツチノコを探すと言うイベント。主催者としては、本気で探し出す気でやっているんですか?」
「それ、主催者側の私に聞いちゃうの?」
なにがおかしいのか、クスクスと笑いながら燿は答える。
「はい。だから聞いたんです」
俺はツチノコなんかいないと思っている。
ツチノコだけに限らず全てのUMAと呼称される生物も。
世間一般論であっても、きっと信じないと言う人が多数を占めるはずだ。
それを大の大人が集まって、イベントとして行っている。
現実的ではない。一千万と言う賞金。
このイベントは、なにからなにまでおかしいのだ。
まっすぐに燿から視線をそらさずに見つめていると、ふっと一つ息を吐き出してから庭の方を見た。
「まあ、本当にいると思って活動しているのは父さんだけかもね」
「と、言いますと?」
「こんな小さな町でもね、色々としがらみみたいなものがあるのよ」
燿はうどんのひとつまみを口に運ぶ。そして、小さな声でおいしい。と言ってから続けて言った。
「町おこしで人を呼びたい人、この町の良さを知ってもらいたい人。そして、キャンプに来てもらいたい人。ゴミのルールを周知したい人、とかね」
今朝、この町に着いた時に葵木が言っていたようなことを燿が話しだした。
葵木が調べた情報は正しかったと言うことが証明されたわけだ。
燿の話を要約すると、このイベントはハリボテだということになる。
人を集める為の道具としてのみ存在を許されている。
「それを橋渡先輩のおじいさんは理解しているんですか?」
「あれー?質問はもう一つだけじゃ無かった?」
「そうでしたっけ?」
「とぼけてもダメ。もう質問タイムは終了ね」
燿は言い終えると立ち上がり、推理、葵木、燿の使っていたザルと受け皿を重ねると、台所の方へ行ってしまった。
かくなる上は……事情を他に知る人物から聞き出すしかないな。
綾の方に視線を向けると、綾はわかりやすく視線をそらした。
「あっ、綾から聞き出そうとしてもダメよ。それはルール違反だから」
「はあ」
俺のどっちとも取られかねない返事を見た燿は戻ってくると、強引に俺の右手を掴み小指と小指を繋ぎ、指切りをしてきた。
「綾にいじわるしても、ハリセンボン飲ませちゃうからねー。指切った」
冗談なのか本気なのかよくわからない笑顔を浮かべ燿は再度台所の方へ向かう。
「片付かないから阿部君も綾も早く食べちゃってね」
「……はい。わかりました」
納得は行かないが、そう返事を返した。
そして、少し乾燥してしまったうどんに手を伸ばした。
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