UMAの本懐
UMAの本懐1
程よく騒がしく感じる車窓から外をぼんやりと眺めていた。
俺の住んでいる町も決して都会と言うわけではないのだが、目的地に近づくに連れ、どんどんと視界の緑の占める悪いが増えてきたのが嫌でもわかる。
これで駅からまたバスに乗り換えると言うのだから、どれだけ田舎に向かうのだろう?
田舎は嫌いではないが、石をひっくり返したり、沢を下ったり果たして俺にできるのだろうか?
「ちょっと
四人がけのボックス席の正面に座る、上級生で真理部の部長でもある推理が不満顔で俺にそう問いかけた。
無論話は聞いていなかったわけなのだけど、そんな答えをしたら何を言われるかわかったもんじゃない。適当に「聞いてますよ」と返事をした。
「じゃあ今、葵木君が説明してくれたツチノコについて、真悟の口からもう一度説明してくれる?」
勝ち誇ったような笑みを浮かべ推理は言うが、ツチノコを探しに行くと決まった翌日から、ツチノコの話は葵木に嫌というほど聞かされている。
「江戸時代くらいからツチノコについての伝記があるんですよね。
俺の答えを聞いて推理は少し不満そうに口を尖らせるも、「まあ概ねわね。……さすが私のパートナーね」と言って葵木へと視線を戻した。
俺としてはパートナーになった気は一切ないのだが、あの日の放課後以来、なぜか探偵の相棒役として認定されてしまったのだ。
最初は冗談かと思っていたのだけど、推理は本気らしい。
「ハー___」
今回はツチノコがいない事を証明しに現場へ向かっているわけなのだが、推理は葵木から、ツチノコが存在するのではないかと言う話を聞いて、目を輝かせ、キャッキャッとはしゃいでいるのだ。
一物の矛盾を感じつつ、推理の横に座る綾の方に目を向けると、微笑ましい物を見るように、柔らかな笑顔を浮かべ俺達の会話を見ていた。
綾の祖父は今回ツチノコ探しを企画した、【ツチノコを探す会】の発起人であると聞いた。
ツチノコがいない事を証明しにイベントへ向かっている俺達。ツチノコの存在を証明するためにイベントを企画した綾の祖父。___綾の本心はどうなのだろうか?
なんて考えながら見ていたら目があった。
やや目を細めて会釈をされた。なんか考えていた事がバレたのような気がして、慌てて車窓の外へと視線を戻す。
緑は目に良い。
「じゃあ葵木君。続きを」
「はい。わかりました」
俺が会話に参加していなくても、場は進行していく。
「蛇のくせに高く跳ねるらしいんです」
「へー。それは興味深いわね。高くって、どれくらい飛ぶの?」
「なんとですね。驚くことに、二メートルから三メートルと言われているんです」
「そ、そんなに!?足も無いのにどうやって?」
「尺取り虫みたいに体をこうバネみたいに伸縮させてぴょんと飛ぶらしいです」
「えー!?それは本当なの!?」
「本当と言うか、そういった目撃情報があるんです。目撃情報なら他にも猫みたいな声で鳴くとか」
「ね、猫!?それはニャーオ?それともにゃー?、と鳴くの?」
微妙な鳴き声のニュアンスの違いを器用に表現してみせる推理。
前者がくぐもったような。猫が喧嘩の時に出すような声。
後者は人に甘える時に出すような甘ったるい声色。
「それもわかりかねます。正確な記録ではないので」
「ふーん。それはイッフィーね」
「……いっふぃー?」
横で黙って話を聞いているつもりだったのに、よくわからない単語が出てきた事で疑問が口をついて出てしまった。
「あら真悟、本当に話を聞いていたのね。イッフィーはiffyってつづりで、微妙って意味よ」
「そうですか」
グッドとかバッドとかイッフィーとか、その時々の心情を英語で表現するのはなにか意味があるのだろうか?
なんて聞いたら話が長くなりそうだからあえて聞くのはやめた。
「あっ、推理ちゃん。もうすぐ駅に着くみたい」
ずっと黙っていた綾が唐突に声を上げる。
それとほぼ同時くらいに車内アナウンスが流れ、まもなくの駅への到着を知らせてくれた。
「あら、本当ね。みんな降りる準備をして」
席の頭上の棚からやたらデカいリュックを下ろす葵木。そして、そのリュックを背負うと、「先に行ってます」とドア前まで歩いていった。
いったい何が入っているんだ……キャンプでもするつもりか?……まさかそんなわけないか。
俺も膝の上に乗せていたリュックを座ったまま背負い、降りる準備を済ませた。
推理はナップサック。綾はポシェットを肩から背負い直したタイミングで電車はプラットホームへと侵入して、徐々にスピードを弱めていく。
「じゃあ行きましょうか」
はやる気持ちを抑えるように、完全に停車していない車内を推理は進んでいく。
その後に続いて、綾、俺の順番で通路をすすむ。
「綾。そう言えばここからバスに乗り換えるのよね。どれくらいかかるの?」
「んー、三十分くらいかな?」
ここまで電車で一時間。ここからさらに三十分かかると言う驚愕の事実を知った瞬間、あざ笑うかのように外界と車内とを隔てていた扉がスッと開いた。
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