消えた課題3
「なんですって!?」
綾の報告を受けてこちらに向き直ると、推理が怒声をあげる。
なぜそこまで推理は慌てているのだろうか?
綾の言った『課題』と言うものはそんなに大切なものだったのだろうか?
慌てた様子で推理は綾の所までやってくると、綾を押し退けるようにして棚の中を覗き込んだ。
押された弾みで綾はテーブルに足をぶつけてしまったようだ。
「す、推理ちゃん。イタイよー」
そんな推理に綾も抗議をするが、推理は『そんな些細な事』を気にする素振りも見せず棚の中を漁る。
そして、こちらに振り返り、この世の終わりのような顔をして言ったのだ。
「大変……本当に課題がないわ」
黙って静観していた葵木が、遠慮がちに挙手をする。
「なに、葵木君?」
「その、課題って言うのはそんなに大切なものなんですか?」
「大切も大切よ。この真理部の部室内にある中で一番の宝物。真理部が真理部であるための根源みたいなものだと言っても過言ではないわ」
言って推理は膝から崩れ落ちるようにしてテーブルに突っ伏す。ナイスタイミングで綾がパイプイスを推理の足元に差し込み、それに座った形だ。
「課題……?それってまさか……」
ふと思い出した。
『課題』それは、昨日推理の口から聞いた言葉だ。
『課題』を解くのは真理部の活動方針でもある。
その『課題』の作成者は西高の卒業生である藤野真理______そう。俺の母親だ。
「課題って昨日雨宮先輩が言ってた卒業生が残した『課題』の事ですか?」
「そうよ。藤野真理さんが残してくれた部の遺産よ」
「……なんかその言い方だと、負の遺産みたいですね……なんちゃって」
少しでも場の空気を和ませようとしたであろうその葵木のセリフはさらに場の空気を強張らせた。
そんな中でも母さんの残した『課題』が紛失してしまった事で、俺の中では動揺が駆け巡っていた。
俺が
しばし推理は沈黙したかと思えば、次の瞬間には気合を入れるように自らの頬を何度かピシャピシャと叩いた。
なにがおこったのかわからない俺達三人は、呆然と推理を注視し続ける。
「あーあ。私なんで、動揺しちゃっていたのかしら」
そして推理はニコリと微笑むと綾、葵木、俺の順に視線を向けたあと、落ち着いた声色で言ったのだ。
「こんな時、藤野真理先輩ならどうすると思う?阿部君」
母さんならどうするか?
幼い頃、母と過ごした記憶を辿り、俺がだした答えは______
「犯人を探すと思います」
「グーッ!さすが期待の新入生ね」
サムズアップのポーズをして推理がウインクを飛ばす。心を撃ち抜かれないようにヒラリと躱す。
「ってことで、私達四人で犯人を探し出して、課題を奪還するわよ!」
綾は恐る恐る小さく挙手をする。
「はい。綾」
「まずは先生に報告したほうがいいんじゃないか___」
綾の発言を遮り、推理は頭上に大きなバッテンマークを掲げながら言った。
「バーッドッッッッ!」
あまりの勢いに綾はヒイと小さな声を漏らし、俺と葵木もただただ呆気に取られた。
「全然だめね。それでも真理部員!?」
「う、うん。い、いちおうは」
恐る恐ると言った様子の綾。
「でしたら雨宮先輩。犯人を探し出す算段はあるんですか?」
「あら、葵木君。私の下の名前はご存知じゃない?______推理よ」
得意げにそう言い放つ推理。しかし、名前が推理だからと言って、推理できるとは思えないし、教員に紛失騒動を報告をしないのはまた別問題であるような気もするが、俺以外の二人はそうは思わなかったようで……
「たしかにそうですね」
「す、推理ちゃん。さすが」
葵木は顎に手を当て深く頷き、綾に至っては羨望の眼差しを送る。
……この部活、本当に大丈夫か。。。
しかし、多数決原理で決めるとするならば、三対一。
俺が負ける事になりそうだ。
______それに、推理の言う通り、母さんならこんなとき、きっと自分の力で解決することを望むだろう。
「いいんじゃないですか」
「うん!そうと決まったら______」
推理は決意に満ちた表情で、瞳の奥に炎を灯し高らかに宣言した。
「推理部の宝『課題』奪還作戦をここに開始しますっ!」
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