第5話
「私が"神の使者"というのは間違だね、使いっ走りがあっている」
「違っていましたか。まあ'始まりの17人'も全てを知っているわけでは無いと言っていました」
本当に知らないのか彼に全てを伝えていないのか、その辺が敵の正体の手がかりになる。
「警戒しなくても大丈夫です、何もしません。'始まりの17人'の彼が本当の事を言っているのか、立場の違う人のお話をお聞きしたくてお時間を作っていただいたのですから」
なら、しばらくこの会話に付き合ってみよう。
「情報交換と行こう、俺も'始まりの17人'に関して聞きたいですね」
「嘘は無しですよ」
「いいよ。ただ言えない事は言えないと断らせてもらう」
「構いません」
「何を聞きたい」俺が最初に答える事にした。
ケインが何を知りたいのかも問題の原因を探るには重要な判断材料になる。
「この世界は本当に神の遊び場なのですか」いきなりストレートに聞いてきたな。
彼もプレイヤーだ、いずれ情報制限が外され真実を知る。ここでの嘘は不必要だ。
「彼らを'神'と呼ぶなら、概ね正しい認識かな」
運営は神じゃ無いがゲームを自由に操作できる、この世界に住む人々には神と同じかもしれない。
「ムーヌスさんは'神'とは考えていないと?」ちょっと驚いていた。
「ではこの世界に魔物を生み出し人々を苦しめているのが、神の意思だと」
「...」
前提が違う、世界に魔物を生み出しているのではない、魔物がいる世界を作り出している。君達プレイヤーのために。
「何故!」
「答えられない」
ケインが俺を睨みつける。
「'始まりの17人'が言っていた通りなんですかね」
「その'始まりの17人'とは今でも合っているのか」攻守交代だ。
「いいえ、合ったのは1回だけです」この線で追うのは難しいか。
「そいつは何と言っていた」
「この世界は神々が楽しむために造りだしたのだと。人々は駒に過ぎない。その生も死も簡単に無かった事に出来てしまうと」
NPC目線で言えば正しい。
「それは何の為にだと言っていた」
「'始まりの17人'は目的を理解出来なかったそうで、教えてもらえませんでした」おや!
'始まりの17人'はこの世界がゲームだと知らないのか、または真実をプレイヤーに教えなかったと。
「ですが、もしそうなら私の正義など意味がありません」これがケインの諦めの原因か。
「意味はある。そして君はいずれその意味を知る。君は君のしたいようにすればいいんだ」
それらしい言葉を並べる。ケインには英雄プレイに戻ってもらおう、プレイヤーとしてはそれが正しい。
ケインは何も言い返さず俺を見つめている。まるで俺の目の奥に真実が隠されているのを探そうとしているかのようだ。
しかしこれでは使徒は使徒でも邪神の使徒だな。この世界に対しては正義側じゃない。
その後ケインは黙り込んでしまった。
今回これ以上の情報収集は諦め、俺は宿に戻る。
すぐに運営に報告と問い合わせをした。'始まりの17人'というのはシナリオに用意された名では無い、ゲーム内で発生したものだ。
次はこの人物又は組織が外からの干渉によって生まれたものかどうかだ。運営の出した答えは『判断出来ない』との事。
俺の印象では'有った'と考えている。'始まりの17人'がケインに語った内容は、NPCがゲーム内での知識で外の世界を理解した状態に思えたからだ。
大きな疑問が残っている。ケインの今の状態でアラームが発生したとしてログアウトを拒むだろうか、むしろプレイ続行など絶対に選択しないと思う。
ケインはこのまま未帰還者になってしまうのだろうか。もしかしてケインは俺が追っていた問題とは別件なのかもしれない。
俺は運営にケインの監視を提言したが、個人的な記録はバイタルによる肉体の状態以外禁じられて却下された。ゲームバランスの調整という名目でGMの俺が直接監視するしか方法がない。
他の調査が出来なくなるのでどうするか確認を取ろうとしたが、後日回答すると言われてしまった。
ここで正式な返事を待ったのが俺のミスだった、後で問題になろうがすぐに監視を始めれば良かったのだ。
回答が来る前にケインが失踪した。
それに気づいたのは「ケインが騎士団を辞め田舎に戻った」と一緒に盗賊討伐をした冒険者から聞いたからだ。退団後3日も経過していた。あの日に辞めていた、完全に出遅れた。
追跡を始めようとしたがケインの田舎を知る者がいない。この街に来たところからケインのプレイは始まったのなら田舎などない。専用スレッド移行後なら後付けで田舎が生成されるかもしれないが共有エリアではそれは出来ない。
ケインの口から田舎という単語が出た時に、本人にも自分に生まれた場所が無い事に気づいたはずだ。
ケインは何処に行った。いや何をしに行ったのかを考えろ。
判断材料が足りていない情報が少ない。
「ケインさんが騎士団を辞めたと聞いたのですが」
結局、彼に関しては騎士団に聞くのが一番だろうと尋ねた。
「そうなんだよ。それもいきなりだぞびっくりしたよ」
「突然だったのですか」
「そうなんだよ。団長に『辞める』と言ってそのまま街も出ていきやがった。全く訳がわかんない。副団長なんて懲罰隊を出せとまで言い出した」
「副団長はケインの行き先を知っていたのですか」
「それなんだよ、だれもケインの生まれた町を聞いていない。そんな事が有るのかってみんな不思議がっていた」
仕方がない、システム側で操作されていたのだから。
俺と話した後で衝動的に辞めている。なら俺との会話にヒントがあるはず。
何だ何を見落としている。
「ケインのプレイ期限って一ヶ月後だったんですね」突然パランが気づいた。
「何故そう言える?」俺にはわかっていない。
「この街に来た日がプレイの開始なら」
そうか!
プレイ期限の上限は決まっているし大抵のプレイヤーはそのままで始めている。
だが1ヶ月は期間がありすぎる、何かがずれている。
何故騎士団を辞めたのか。騎士団にいては行けないほど遠くへか、長い期間が必要な事をしようとしていたかだ。
ケインの性格なら知り合いに会う可能性のある近場へ行くなら、こんな辞め方はしないような気がする。なら遠くへだ。
プレイヤーは共有エリアに散らばって配布される。比べられる相手がいては気持ちよくプレイできないからだ。
シナリオで拠点を移す場合は基本専用スレッドになってからだ。普通であればケインに他の土地に行く理由はない。
そう考えると1つの推測が成り立つ。
ケインはもう一度'始まりの17人'と会う約束をしていて、何処に行けば会えるか知っていた。でも本来ならそれはプレイ期限直前だったのではないか、それを俺との会話で急遽会いにいった。
そう考えれば今回のケインの行動に説明がつく。
説明はつくが、何処に行ったのかは全く検討がつかない。
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