第4話

 増援に来た者と一緒に街に戻る。負傷者を運ぶのは彼らにまかせた。

 今回は数がいる、本来この盗賊討伐に必要な人数はこれくらいだ。さっき逃げた冒険者も戻ってきてる、彼らの行動が本来は正しい。

 逆にケインの行動は中途半端、1人でやる気だったら最初から全力でやれ、やらないなら一度引くべきだ。


 ケインの表情は暗い。

「相談があります」そう言ってきた。

「何だ、女か」"来たか!"と思っているのを悟られないよう、茶化した。

「後日、お会いできませんか」「かまわん」チャンスは向こうから来た。


 騎士宿所に着くと「報告に行きます」と副団長のところへ。他に動けるのは俺しかいない同行した。


 ケインは副団長へ今回詳細を説明したが、それは事務的で何かの報告書でも読んでいるように感情が入っていない。

「了解した。ご苦労、下がってよし」副団長の対応もあっさりだ。

 この2人仲が良くないのが一目でわかる。初期の敵役かな、"ざまあ"されるやつ。

 それにしてはケインの判断ミスをついてこない、無能設定なのか。


 別れ際「副団長、感じ悪いっすね」とかまをかけてみた。

「そう言うな、民を思う良い人なんだぞ。貴族出なので多少身分に関してうるさいが」と軽く笑う。

「私も身をわきまえず頑張っていた頃は目の敵にされていた。分相応を心がけるようにしてやっと最近解放された」すなわち英雄的行動を止めたと。

 副団長の嫌がらせが原因でない、その程度は簡単に排除できるはず。そもそも彼は、やり返してプレイヤーに気持ち良くなってもらう、舞台装置でしかない。

 ケインには跳ね返す気さえないらしい。


 宿に戻ると魔王領からの報告があった。


 ターゲットはすでに死んでいた、死因は強制パージ。ただ今回アラームに応じなかった原因は判明している、石化だ。

 権力闘争に敗れていた、魔法領内で若くして台頭してきたターゲットが排除されたのだ。


 石化はかなり重い呪い、準備するのも大変なはずだ。

 石化の魔法はない。特定の相手を石化する方法は呪術しかない。使う物に、石化が行えるゴルゴン、バジリスク、コカトリスなど討伐難度Sクラス以上の魔物の素材が必要だ。

 普通に死なせてもらいないだなんてターゲット相当恨み買ってたな。


 もっともターゲットも禁呪の"ヤーの呪い"、システム名"知的寄生体"を用意していた形跡があったらしい。魔王領の権力闘争は思った以上だな。


 "知的寄生体"だなんてシステム側で弱体化された物だぞ。

 その名のとおり知性に寄生し実体がない、寄生された生き物は気お抜くと死ぬ行動を選択してしまう。高いところから踏み出したり、調味料に毒を混ぜたりを無意識にする。

 無制限に増え一度この世界を滅ぼしかけた。

 寄生出来る数に制限が加えられ、その数も世代が変わるたび半減する。そしてプレイヤーには感染しない対策がされている。それでも討伐難度SSSの化け物だ。


 パランが例の声で「以上報告を終わります」その後ふう〜とため息。本当に嫌いなんだなあの声。

 魔王領はハズレだった、行かなくてよかったよ。逆に辺境では重要な情報が入手できそうだし。


 ケインは英雄プレイ中のプレイヤーで間違えない。しかも途中で英雄的行動を抑えて生きている。何故だ。

 盗賊討伐では仲間が危なくなると本気を出していた。プレイヤーの本来の性格も英雄プレイに適していると思う。

 だが、何か諦めている印象を受ける、これは他の対象者にも見えていた特徴だ。もしそうなら、楽しむために作られたこの世界に致命的な欠陥がある事になる


 ケインのステータスは正常だった、呪いなどによる外的要因は見つけられない。

 置かれている状況も諦めが生まれる要因はない。彼の持つ力で安易と押し通れる。

 プレイヤーの内的要因が要因な可能性もあるが、一定時期から増え出している。

 もう一つ考える材料は、他の世界観では未帰還者は発生していない。原始時代、銃、SF。この剣と魔法の世界にだけに起きている現象だ。運営は必死にシナリオの欠陥を探していると聞く。


 唸っていてもしかたがない、会えば何かわかるだろう。


 ーーーーー


 後日、ケインの住む寮にゆく、すぐに彼の部屋に案内された。


 部屋に入り挨拶もそこそに「話と言うのは何です」気軽に問う俺に

 ケインは「これです」拳銃を構え引き金を引く。

 思わず横に飛び避けた。


 床に転がる俺に「大丈夫ですよ」とケインが言う。

「避けると言う事は、ムーヌスさんこれがなんなのか知ってるんですよね」


 嵌められた!


 火薬の製法はこの世界への持ち込みを制限されている。拳銃など有るはずが無い。

 俺はこの世に存在しない物に怯えたのだ。

「いきなり何か出すから驚いただけですよ」とごまかすが無理だろうなケインが笑っている


「やはりムーヌスさんは神の使者なんですね」微妙な言い方だな。

「神の使徒ねえ。そんな大層なものじゃ無いよ」ごまかすのは諦めた。

「正しくはゴットメッセンジャーでしたか」

 略してGMってなんだそれ?


「その呼び名は正しくはないな、それ誰に聞いた」腹の探り合いの開始か。

「始まりの17人」あっさり答えてくれる。

「そいつらは何者だ?」

「私も知りません。ただ私に世界の真の姿を教えてくださったかたです」

 その言い方だと接触したのは1人か。


「彼はこの世界は神の遊び場であると教えてくれました」

「そんなわけないだろう、信じたのかそんな与太話」

「私も最初相手にしませんでしたよ」

 ケインの話が続く


「ですが"火薬"や"原油"の事を他者に話しても理解してもらえない。後日に聞くとその名前さえ忘れている」

 これも記憶抑制、この世界を変える可能性のあるものは排除される。


「いずれ世界を変えると言われた天才がある日突然消える。そうするとあれ程その人に惹きつけられていた人々があっさり忘れるんですよ。何が起きたのか理解できません」

 対象者がスレッドに移行後の共有エリアの補修作業か、実際には関係者は丸ごとスレッド内で再生されている。

 補修作業はプレイヤーには影響を与えない。近くにいたら、そう見えてしまうか。


「ごく最近では第4王女のフェリメス様。あんなに人気があったのに、今では最初からいなかったようだ」

 俺もあんな雑な方法は嫌だったよ。

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