第3話

 アラーム前の未帰還候補者の名はケイン、騎士見習い。

 噂を集めれば集めるほど彼がプレイヤーだと確信する、少し前までは普通にチート無双をしていた。"普通"と"チート"や"無双"は両立する言葉じゃないが、この場合は正しい。


 直接会って確かめたいと思うがそのチャンスがなかなかない、彼の所属する騎士団が炎獅子イベントで壊滅的被害を受けていて大騒ぎな状態だからだ。

 一方冒険者ギルドは人が流動的なので比較的早く平常運転に戻れている。

 そんな時に領主からギルドへ依頼が来た。冒険者を兵の補助要員として雇うという普段ならあり得ない。ギルドが受け付けないはずだ。冒険者は戦争に加担しない、国に雇われれば独立性を失ってしまうからだ。と言う設定がある。

 ただギルドも騎士団の状況を理解しているので、限定的な条件をつけ特別に受け入れた。街の治安と周辺の見回りで騎士の補助を行う。


 だがこの依頼は人気がない。支払いは悪くないが紐付きで、その紐を持っているのが御領主様だからだ。縛られる事を嫌う冒険者にすればデメリットが多く旨味が少ない。

 もっとも俺には関係ないのでその依頼を受けた、ケインに会えるチャンスだからだ。


 何回か街中の巡回をした後、周辺に集まり出した盗賊団の情報が入りその討伐チームに選ばれた。そのメンバーの中にケインがいた。

 人が少なくなった事もありケインは騎士に昇格していたが、本人はそれを喜んでいるようには見えない。今まで見てきた未帰還者と違いやる気が全くなくなってもいない、期待された最低限の仕事はするというレベルだが。


「よろしく隊長」

 ケインは今回の討伐隊の指揮官を任されていた。

「隊長はやめてください、人手不足のせいでそうなっているただの若造です」

 性格もいい、まさに英雄プレイの主人公だ。


「しかしこんな時に盗賊ですか、いやこんな時だからなんでしょうね」と若い騎士。

 幼いと言える年齢かもしれない。人手不足は本当に深刻だ。

 それとやられキャラの盗賊は一定の確率でポップする、こんな時を狙っているわけではない。

 気にすべきはプレイヤーに合わせ難易度が調整されている、炎獅子イベントが発生したケイン向けとなるとかなり手強くなっているはずだ。


「噂のケイン様の腕を期待してますよ」冗談っぽく言うが、本当に彼に頑張ってもらわなければこの隊は全滅の可能性もある。

「どんな噂なんだか。尾鰭の付いた噂なんて信じないでください、迷惑しているんです」とため息。

 やはりイケイケではない、完全にブレーキを踏んでいる。このレベル帯ならワクワクタイムのはずだ、やはり何かが彼に起きている。

「元気ないですね、何か有ったんですか。相談乗りますよ人生経験はケイン様よりありますので」リアルは知らないが、ここでは俺が年上の設定。

「これは人生の長い短いは関係ないんだろうな」

 人前でこれ以上は無理か、近いうちに2人で話せる機会を作ならなければ。


 斥候に行っていた冒険者が戻ってきた。

「奴らの寝ぐらを確認した。バウの木が密集してる薮の中に寝床つくってました。数は20人前後。装備は意外と良い物を持ってますが、そこは野盗バラバラでしたね。弓4人と魔法使いを2人を視認」

 さっきパランに確認したところ19人、討伐隊の3倍の数。レベル平均はこっちが上だがケインを除くと逆転する。俺が入っていてもだ。

「思ったより戦力が充実してるな」とケイン悩み込んでしまった。ここは一度引くが正解だと思う。


「長距離が可能なの3人でしたっけ」ケインが討伐隊の戦力を確認。

 俺と他2人の冒険者の顔を見る。やるのか?

「その3人で弓を黙らしてくれませんか。魔法使いは私の方で何とかします。飛び道具が無くなったところに全員で飛び込みましょう」

 数の合っていないガサツな策だが、決定されてしまってはどうしようもない。

「「了解」」「「わかった」」


 寝ぐら前に移動しタイミングを合わせる「3、2、1」

 ケイン1人に任せれば簡単だが、彼にはやる気が見えない。


 安全の確保、俺はウインドカッターの幅を広げ1回で2人の首を飛ばした。

「ナイス」横から声がかかるが、そいつは外していた。

 ケインは一瞬で魔法使いの懐まで飛び込み胴を薙ぎ倒す。かえす一歩目で次の魔法使いの横にいる。すでに胸にはケインの剣が突き刺さっていた。1人でやれよ。

 残った弓は俺がファイヤーアローで打ちぬく。

 全員で飛び込むが大きな音を出しているので奇襲は失敗している。俺はC級冒険者らしい技量で対応した。雑魚ならこれで十分だ。


「やるじゃねいか。俺と楽しもうぜ」大きな声とでっかい戦斧が上から振り下ろされる。中ボスだ。

 そいつを受け止め、ケインを見ると雑魚を相手にしてた。おいおい、こっちこいよ。


 中ボスはもう1人。妖艶なお姉様、相手するなら俺はこいつがよかった。

「ほらほら、どうした、どうした」お姉様のヒステリックな声と一緒に鋼鉄の長い鞭が飛び回る。


「よそ見してんじゃねえ、舐めてんのか」今度は横殴りに斧を振り回す。

 一歩後ろに飛んでかわす。避けたが反動のまま回り始めた、曲芸かよ。徐々に回転がまし追い詰められる。

「おわりだー」中ボスが景気良くフラグを立ててくれたので、俺もそれに応える。

 しゃがみこみ地面に手を当て「ストーンスピア」地面から石の槍が立ち上がる。回転している盗賊の足元も勢いよく上がり、彼は空中に放り投げられた。

 回転は空中では止められない、姿勢をどうにもできず石の槍の上に落ちた。


「ぎゃ」「うをー」

 隣では騎士が声を上げていた。

 あの若い騎士の腕がなくなっていて、もう1人の騎士も地面に倒れていた。

 他にいた2人の冒険者はいない。冒険者にとって一番大事なのは自分の命、上級冒険者は状況を正しく判断できるため引き際も心得ている。


「パーセ、ケルンブル」ケインが駆け寄る。

 2人に治癒魔法をかけ始めた。


 希望が通ったらしくお姉様を相手にしなければいけないみたいだ。そう考える間もなく鞭が唸る、止まったケインを狙っていた。

「ウイングカッター」その動きを止めるため、大声を出す。

 お姉様が横に大きく飛び跳ねこっちを見る。


「いい根性だね、にいさん」とお姉様、俺が声だけで魔法を出していないのを褒めてくれた。

 まだ敵の数が多い、しかも散開していて一気に減らせる手がない。やばいな。


「パーセ無事か」ケインの治癒が一応終わったようだ。だがあそこだけ戦闘に関係ない雰囲気なのは何故だ。

「ケルンブルももう少しだけ待っててくれ」そう言ってケインは立ち上がると、視界から消えた。


 高速移動。ケインが空気を引き裂く音、残像と盗賊の悲鳴。一瞬だった。その一瞬で俺以外に立っている者がいなくなる。

 知ってはいたが、実際に見ると俺でも恐怖を覚える。

「ムーヌスさん大丈夫ですか」俺の横に現れ声をかけてきた。

「あぁ、大丈夫だ」と何とか答える。


「残りはあなた1人です。出てきてください」ケインが奥の茂みに向け怒鳴る。

 そこにはこの盗賊団のボスがいる。元中央騎士団員という設定を持っていたはずだ。装備も当時使用していた物を盗んだことになっており一級品だ。


「俺はケレセフ。これでも王都じゃ...」

 口上を最後まで言わせてもらえない。離れていたケインの剣撃で吹き飛んでしまった。


 専用スレッドに行ってておかしくない力だ、炎獅子イベントを彼がクリアしていたらそうなっていたと思う。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る